2018年4月14日土曜日

【シリア攻撃】米英仏がシリア攻撃 化学兵器施設にトマホーク、トランプ米大統領「邪悪で卑劣」―【私の論評】米国の真の意図はアサド政権と反政府勢力とを拮抗させ続けること(゚д゚)!

【シリア攻撃】米英仏がシリア攻撃 化学兵器施設にトマホーク、トランプ米大統領「邪悪で卑劣」

シリアへの軍事攻撃が始まり、首都ダマスカス上空を飛ぶミサイル

   トランプ米大統領は13日夜(日本時間14日午前)、シリアのアサド政権が同国の首都ダマスカス近郊・東グータ地区で化学兵器を使用したと断定し、米軍に化学兵器関連施設への精密攻撃を命じたと発表した。英国、フランスとともに米東部時間午後9時から複数の施設に対する攻撃を実施した。化学兵器使用を理由にした同政権への攻撃は昨年4月に次ぎ2回目となる。

 ロイター通信は、攻撃には巡航ミサイル「トマホーク」が使われたと報じた。また、シリア人権監視団(英国)の話として、ダマスカスのシリア軍基地や科学研究施設が攻撃されたとしている。シリア軍は13発のミサイルを撃ち落としたと主張しているという。

シリアのアサド政権への攻撃指示を発表するトランプ米大統領=13日、ワシントンのホワイトハウス

 ダンフォード米統合参謀本部議長は記者会見で、攻撃対象は化学兵器開発関連の研究施設や貯蔵施設とした。BBC放送などは英空軍の攻撃機トーネード4機がシリア中部ホムスの西約24キロの軍施設を巡航ミサイルで攻撃したと伝えた。英国防省は攻撃が「成功したとみられる」との暫定評価を明らかにした。

 トランプ氏は攻撃は化学兵器の生産、拡散、使用の抑止が目的で、「アサド政権が化学物質の使用を中止するまで対応を続ける」と述べた。マティス国防長官は攻撃は「1回限り」としたが、再使用があれば攻撃するとの認識を示した。

 また、トランプ氏は、シリアの行動を「邪悪で卑劣な行為」だと強く非難。「怪物による犯罪だ」とアサド大統領を批判した。アサド政権を支援するロシアも同政権の化学兵器使用に責任があると指摘した。

 英国のメイ首相は声明で、攻撃以外に「選択肢がなかった」と強調。攻撃はシリアの体制転換を目指すものではないとも説明した。フランスのマクロン大統領も、米英とともにシリアの化学兵器工場への攻撃を実施したと発表した。

 トランプ氏は化学兵器使用疑惑を受け、アサド政権やその後ろ盾のロシア、イランに「大きな代償」を払わせると警告し、9日午前の閣議で「48時間以内」に重大な決断をするとしていた。トランプ政権は昨年4月にも猛毒の神経剤サリンが使われたとして、化学兵器の保管場所とされたシリア中部の空軍基地を巡航ミサイルで攻撃した。

8日東グーダで化学兵器によって攻撃を受けたとみられる子どもが治療を受けている

 アサド政権は化学兵器使用を否定しているが、マティス米国防長官は13日夜の記者会見で、東グータでの攻撃について「塩素剤が使用されたと確信している。サリンの可能性も排除しない」とした。ホワイトハウスも、ヘリコプターから「たる爆弾」で塩素剤が投下され、サリン使用時にみられる症状も確認されたとする報告書を発表した。

【私の論評】米国の真の意図はアサド政権と反政府勢力とを拮抗させ続けること(゚д゚)!

米軍のシリア攻撃については、昨日その可能性やその後の推移について掲載したばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士
この記事を掲載したまさに次の日にイラク攻撃が実際に行われました。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではイラク攻撃がどのような規模になり、その後はどうなるかを掲載しました。以下にその内容の要約を以下に掲載します。
1.米国がイラクに軍事攻撃を仕掛けたにしても、アサド政権が勝利しようと、反政府勢力が勝利しようと、米国に勝利はない。なぜなら、反政府勢力が勝利しても、反米政権を樹立するか、いままで以上の内乱状況に陥るだけであり、いずれにしても米国にとって良いことにはならない。 
2.現在は、ロシアがシリアの後ろ盾になっているので、アサド政権ができたばかりの頃よりは、複雑になっているが、1.で述べたことに関しては、基本的に同じである。 
3.このような状況に対して米国にとって最も良い戦略は、まずは今回比較的大規模な攻撃を行い、アサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる。その後は、アサド政権が強力になれば、反政府勢力に武器を与えて、拮抗させる。反政府勢力が勢いづけば、今度は反政府勢力に武器を提供することをやめて、アサド政権と拮抗させる。反政府勢力側に兵器の供給を武器として使う「オフショア・バランシング」的なやり方をする。 
4.ロシアのさらなる介入を心配するむきもあるが、これはさほど心配するにはあたらない。確かに脅威であることには違いなく、ロシアは決して侮れるような相手ではないが、現在のロシアは経済の規模は韓国とあまり変わりがなく、そのGDPは東京と同程度である。しかし、東京都程度のGDPの国が米国と戦ったとして、いかに軍事力が強力であっても最終的に勝ち目はない。そのため、米国がたとえイラクでどのような軍事オプションを選択しようとも、ロシアがそれに対して直接ぶつかることは避ける。
さて、上記の予想を裏付けるようなことがすでに、米国やロシア等から表明されています。まずは、マティス国防長官は攻撃は「1回限り」としましたが、再使用があれば攻撃するとの認識を示しています。

アサド政権と、反政府勢力を拮抗させようと目論見以上の何かがあれば、「1回限り」などとは公表しません。アサド政権の化学兵器を放置しておけば、アサド政権の力強まり、反政府勢力を圧倒して、アサド政権が反政府勢力を駆逐することになります、今回の攻撃はそれを防ぐためです。さらに、人道的にも化学兵器は良いことではありません。

次にロシア側からは、今回の米英仏攻撃に関して強烈な批判を表明していますが、それ以上のことは表明していません。その気があれば、強烈な批判だけではなく、何らかの表明があったはずです。

今回は、英仏も攻撃に参加していますが、英仏にとっても、アサド政権と反政府勢力のいずれが勝利したとしても、米国と同じく勝利に結びつくものではないので、基本的に立場は米国と同じです。英仏もアサド政権と反政府勢力の拮抗以上のことを望んではいません。

今後、アサド政権の力が弱まったことを確認すれば米国は静観するでしょう。弱まらないことが確認されれば、さらに米国は反政府勢力に武器を与えるなどのことをするでしょう。ただし、武器を与えすぎて、反政府勢力がさらに勢力を増し、アサド政権を圧倒するまでには至らないでしょう。

当面は、両者を拮抗させ、様子を見るというのが、現在の米国の対イラク戦略とみるべきです。現状もし、拮抗せずに、アサド政権がシリア全土を掌握すれば、これは米英仏の脅威になりますし、アサド政権が崩壊すれば、反政府勢力が互いに争いさらなる混沌をうみだすことになります。その過程で、英米仏へのテロも多発することになりかねません。さらに、反政府勢力のいずれかの勢力が政権を掌握したにしても、反米英仏政権になるのは間違いありません。

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2018年4月13日金曜日

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アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる

リース・ドゥビン、ダン・デ・ルーチェ

シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある

<トランプ政権が化学兵器使用への制裁でシリアを再び攻撃するなら、化学兵器使用を止められなった1年前のミサイル攻撃より大規模でなければならない>

もしドナルド・トランプ米大統領が、シリアの首都ダマスカス近郊で4月7日に起きたシリア政府によるとみられる化学兵器使用を受けて攻撃に踏み切るなら、1年前のような限定的な攻撃でなく、より大規模な軍事作戦になるのはほぼ確実だ。

「シリアのバシャル・アサド大統領が、2度と化学兵器を使う気にならないほど懲らしめるには、前回より攻撃対象を広げる必要がある」と、米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のニコラス・ヘラス研究員は言う。「シリア軍を事実上無力化するぐらいの規模だ」

1年前、トランプ政権はアサド政権がシリア北西部イドリブ県ハーンシャイフーンで猛毒の神経剤サリンを使用したことへの対抗措置として、米軍の巡航ミサイル「トマホーク」でシリアの空軍基地を攻撃。メディアもそれを大々的に報じた。だが1回限りの攻撃では、アサド政権による化学兵器の使用を止められなかった。

それでも化学兵器を使い続けたアサド
米軍は、当時シリア軍が化学兵器による攻撃の拠点にしていた空軍基地に向けて、地中海の洋上からトマホーク59発を発射したが、シリア政府が保有する化学兵器や軍事能力に深刻な打撃を与えることはできなかった。実際、米軍の攻撃を受けた数時間後には、同じ空軍基地からシリア軍の戦闘機が飛んでいた。

アサド政権はそれ以降も、全域で反政府勢力との戦いに化学兵器の使用を続けた。ハーンシャイフーンでのサリン攻撃の後も最低2回、塩素ガスを使用した。だが国際社会はほとんど反応を見せず、アメリカも報復しなかった。

そうした経緯に加えて、超タカ派と言われるジョン・ボルトン元米国連大使が国家安全保障担当の大統領補佐官に就任したことで、トランプ政権が大規模な軍事行動に乗り出す可能性はますます高まっている。

ジョン・ボルトン氏

「失うものが大きいからと言って攻撃を前回より手控えるようなことをすれば、トランプ政権の権威が失墜しかねない」、と米議会関係筋は言う。

ヘラスによれば、米軍はシリアの西部と東部の両方で、シリア政府軍の拠点を標的にした攻撃に踏み切る可能性がある。

だがアメリカが大規模な軍事作戦に乗り出せば、アサドの最大の後ろ盾であるロシアとの直接対決に発展しかねない危険性もある。

「バランスを取るのが難しい」、と米イエール大学中東研究所でシニア研究員を務めるロバート・フォード元駐シリア米大使は言う。「(アサド政権を)徹底的に叩きたいという強硬論も、米軍のなかからは出てくるはずだ」

トランプ政権幹部は、イギリスとフランスと合同で軍事行動を取る可能性について検討を進めている。英仏両国は、シリアやイラクにおけるISIS(自称イスラム国)掃討作戦で米主導の有志連合にも参加している。

エマニュエル・マクロン仏大統領は2月、シリア政府が民間人に対して化学兵器を使用した証拠が見つかれば、フランスは軍事行動を取ると言った。トランプと4月8日に行った電話会談では、「強力な合同の対抗措置」をとることで一致した、とホワイトハウスは声明を発表した。

「トランプ政権は深入りしていく、と私は見ている」と、ヘラスは言った。「(シリア政府は)トランプのレッドラインを越えた」

【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!

シリアというと、私はルトワック氏の「戦争にチャンスを与えよ」という書籍の内容を思い出します。

ルトワック氏は、この書籍で以下のような主張をしています。
戦争に中途半端に介入してはならない。なぜなら、戦争が終わらなくなるからだ。介入するなら、50年は駐留し、文明化した新しい世代の人間が出てくるまで待つ覚悟が必要だ。 
例えば、アメリカはイラクに民主制を導入すれば全て丸く収まると考え、サダム・フセインを排除しましたが、その結果、スンニ派、シーア派や数々の民族が”終わりなき殺し合い”を続けています。 
アメリカはイラクのことをロクに理解しないまま手を出してしまい、しかもそうして地獄を作り出しておきながら、その責任をとっていないのです。今のイラク住民に聞けば「フセイン政権時代の方がはるかにましだった」と言うでしょう。 
こういった例はリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、パレスチナ、シリアなど、いくらでもあります。先進国は「無知なまま中途半端な介入をする」という愚を繰り返しているのです。
つまりルトワックの言う「戦争にチャンスを与えよ」とは、人道主義という美名に惑わされず、落ち着いて論理的に行動せよ、ということです。決して戦争を賛美しているわけではありません。

確かに私たちは、戦争をしている国を見ると、そこにいる人々を助けるために色々とやりたくなります。少なくとも「放っておく」という選択肢は選び難い。しかし、その善意からくる介入によって、その国の戦争がかえって終わらなくなり、住民がいつまでも新しい生活を始めることができない、という地獄になってしまうことがあります。

サラエボなど、未だに復興が進んでいません。それは、今が”休戦状態”なのであって、まだ戦争が終わっていないからです。私たちが本当に人を救いたいと思うなら、感情的になりたくなるのをグッと我慢し、徹底的なリアリズムでもって考えなくてはならない。ルトワックはそう訴えています。
このルトワックが2013年にシリアに関して記事をニュヨークタイムズに寄稿をしています。その記事のリンクを以下に掲載します。
In Syria, America Loses if Either Side Wins


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に翻訳を掲載します。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日のニュースでは、シリアの首都ダマスカスの郊外で化学兵器が使われたことが報じられた。人権活動家によれば、これによって数百人の民間人が殺害されたということであり、エジプトの危機のほうが悪化しているにもかかわらず、シリアの内戦がアメリカ政府の関心を引きはじめた。 
しかしオバマ政権はシリアの内戦に介入してはならない。なぜならこの内戦では、そのどちらの側が勝ったとしてもアメリカにとっては望ましくない結果を引き起こすことになるからだ。 
現時点では、アメリカの権益にダメージを与えない唯一の選択肢は「長期的な行き詰まり状態」である。 
実際のところ、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になる。 
カギを握るのは、イランからの資金や武器、そして兵員たちやヘズボラの兵士たちであり、アサド氏の勝利はイランのシーア派とヘズボラの権力と威光を劇的に認めさせることになり、レバノンとの近さのおかげで、スンニ派のアラブ諸国やイスラエルにとって直接的な脅威となる。 
ところが反政府勢力側の勝利も、アメリカやヨーロッパ・中東の多くの同盟国たちにとっても極めて危険である。その理由は、原理主義グループたち(そのうちの幾つかはアルカイダだと指摘されている)が、シリアにおける最も強力な兵力になるからだ。 
もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼らがアメリカに対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だ。さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがない。 
反政府運動が二年前に始まった時点では、このような状況になるとは思えなかった。当時はシリア国内全体が、アサド政権の独裁状態を終わらせようとしていたように見えたからだ。 
その頃は穏健派がアサド政権にとって代わることも現実としてありえる感じであった。なぜならそのような考え方をもつ人々が国の大半を占めていたからだ。 
また戦闘がここまで長引くことも考えられなかった。長い国境線を接している隣国で、はるかに巨大な国で強力な陸軍を持つトルコが、その力を使って介入してくることも考えられたからだ。実際に2011年の半ばにシリアで内戦がはじまると、トルコのエルドアン首相はすぐにその内戦を終結させるようシリアに要求している。 
ところがアサド政権の報道官はそれに屈する代わりにエルドアン首相をバカにする発言を行い、軍はトルコの戦闘機を撃ち落とすという行動をとったのだ。さらにそれまでにトルコ領内に繰り返し砲撃を行っており、トルコとの国境では車に爆弾をしかけて爆破させている。 
ところが驚くべきことに、トルコ側からは何も復讐はなかった。その理由は、トルコ領内に大規模な少数派民族がいて火種をかかえており、彼らは政府を信用していないだけでなく、トルコ軍も信用していないからだ。 
そういうわけで、トルコは権力を行使するどころか、むしろ機能停止状態であり、エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者にしかなれていないのだ。 
結果として、アメリカはトルコが支援した反政府勢力にたいして武器やインテリジェンス、それにアドバイスを行うことができず、シリアは無政府的な暴力による混乱に陥ることになったのだ。 
内戦は小さな軍閥やあらゆる種類の危険な原理主義者によって闘われている。たとえばタリバン式のサラフィー派の狂信主義者は、熱心なスンニ派まで殺害しているのだが、これは彼らがスンニ派の異質なやり方をマネすることができなかったからだ。 
スンニ派の原理主義者たちは無実のアラウィー派やキリスト教徒を殺しているのだが、その理由は単に彼らの宗教が違うからだ。そしてイラクをはじめとする世界中からのジハード主義者たちは、シリアをアメリカやヨーロッパにたいするグローバルなジハード運動の拠点にすることを宣伝している。 
このような悪化する状況を踏まえると、どちらかの勢力が決定的な結果を出すことも、アメリカにとっては許容できないことになる。イランが支援したアサド政権の復活は、中東においてイランの権力と立場を上げることになるし、原理主義者が支配している反政府勢力の勝利は、アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。 
よって、アメリカにとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」である。 
アサドの軍隊を拘束し、イランとヘズボラの同盟をアルカイダと共闘している原理主義の戦闘員たちとの戦争に引きこませておくことによって、ワシントン政府は四つの敵を互いに戦争をしている状態におくことなり、アメリカやアメリカの同盟国たちへ攻撃を行うことを防げるのだ。 
これが現在の最適なオプションなのだが、これは不運であると同時に、悲劇でもある。しかしこれを選択することは、シリアの人々にとって残酷な仕打ちになるというわけではない。なぜならそれらの多くが全く同じ状態に直面しているからだ。 
非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面するのだ。そして反政府勢力が勝てば、穏健なスンニ派は原理主義的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになる。 
アメリカは「行き詰まり状態」を維持することを目標とすべきだ。そしてこれを達成する唯一の方法は、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるということだ。 
この戦略は、実はこれまでのオバマ政権が採用してきた政策である。オバマ大統領の慎重な姿勢を「皮肉な消極的態度だ」として非難している人々は、その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入して、アサド政権をとそれに対抗している原理主義者たちをどちらも倒すということだろうか? 
こうなるとアメリカはシリアを占領することになるが、現在アメリカ国内でこのような費用のかかる中東での軍事的な冒険を支持する人はほとんどいないだろう。 
どちらか一方にとって決定的な動きをすることは、アメリカを危険にさらすことになる。現段階では「行き詰まり状態」が唯一残された実行可能な選択肢なのだ。
互いに闘わせておけ、ということです。ルトワックのように、介入するなら中途半端はしないで、米軍を50年くらいはシリアに駐留させ、文明化した新しい世代の人間がでてくるのを待つ必要があります。

しかし、現状ではそれは期待できません。何しろ、シリアのアサド政権、反政府派のいずれが勝ったにしても、反米的な政権ができあがり、米国は結局敗北することになり、勝利はないからです。

そのようなところに、50年も米軍を進駐させたにしても、ますます混乱するだけであって、米国としては何ら得るところはありません。

親米的な勢力がでてきたときには、それを助けて、勝たせて50年くらい米軍を進駐させ、民主的な新世代の人間がでてくるのを待つという選択肢も可能です。

ただし、今回はアサド政権にロシアが後ろ盾になっているということがありますから、2013年にルトワック氏が上の記事を書いた頃よりは、若干複雑にはなっています。米国としてはある程度大規模な、武力行使が必要になるでしょう。ただし、ある程度アサド政権を叩いて、反政府勢力と拮抗させる程度に弱体化させることでしょう。

その後は、ルトワック氏の主張しているように、反政府勢力側に兵器の供給を武器として使う「オフショア・バランシング」的なやり方をして、様子を見るという方式が現状では最も良いやり方ということになると思います。

シリアのフメイミム基地で働くロシアの軍人。

なお、ロシアとの対決を心配するむきもありますが、私はそれはさほど心配するべきではないと思います。

確かに、ロシアは軍事的に強い軍隊を持ち、ソ連時代に培った軍事技術の粋を引き継いでいるので、脅威であることには違いなく、決して侮れるような相手ではありません。しかし、現在では経済の規模は韓国とあまり変わりありません。というか、GDPでは韓国についで世界13位であり、韓国よりも低い水準にあります。

その韓国のGDPは、日本にたとえると、東京都と同じくらいです。東京都のGDPは、都市としてはかなり大きいほうの部類で、世界にはこれよりも小さな国々があるのは事実です。しかし、東京都程度のGDPの国が米国と戦ったとして、最終的に勝ち目があるでしょうか。最初から負けるのはわかりきっているので、東京都が米国と戦争はしないでしょう。

ロシアも同じことです。現状の経済力では、周辺諸国に対しては影響力を及ぼすことはできますし、シリアのアサド政権に間接的に肩入れすることはできますが、アサド政権に直接肩入れしてロシア正規軍を大量投入して、内戦の矢面に立ち、アサド政権を勝たせてロシアの事実上の傀儡国家にすることなどはできません。

そのため、米国がたとえイラクでどのような軍事オプションを選択しようとも、ロシアがそれに対して直接ぶつかることは避けるでしょう。たとえ、何らかの形でぶつかったにしても、ロシア側のほうから拡大することを避けるでしょう。

以上のようなことを考えると、私は今回の攻撃は先回のものよりは、大規模にはなるものの、アサド政権を転覆させるほどではなく、アサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものになると思います。

今後も、米国によるシリアに対する攻撃は続くこともあると思いますが、いずれもアサド政権と反政府勢力を拮抗させる程度のものになるでしょう。ただし、親米的な勢力、あるいは民主的な勢力がでてきた場合には、米国が本格的にイラクに駐留するというオプションを選択する場合もあるでしょう。

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2018年4月12日木曜日

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バルト3国侵攻を視野に入れたロシア

対応急ぐNATO、危機はアジアにも、問われる日本の防衛態勢

欧州で高まるロシアの脅威:次はバルト3国か?

 欧州でロシアの脅威が高まっている。

 欧州は冷戦後、久しく平穏を保ってきたが、2014年3月のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入によって情勢が一挙に緊迫化した。ウクライナ東部での戦闘は今でも続いている。

図表・写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 これらの戦いは、「ハイブリッド戦」と呼ばれ、「力による現状変更」と指摘される侵略行動である。

 ロシアの次のターゲットは、(北から)エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の奪還ではないかと懸念されている。

 バルト3国は、1940年からソ連が崩壊する1991年までソ連領であった。これら3カ国は、1991年9月にソ連から独立した後、2004年に北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にそれぞれ加盟した。

 1989年まで続いた冷戦時代には、NATO軍とワルシャワ条約機構(WPO)軍は東西ドイツ国境を挟んで対峙していた。

 ドイツの東隣に在るポーランドは、すでに1999年3月、NATOに加盟(EU加盟は2004年5月)しており、いわゆる「NATOの東方拡大」にともなって、現在では、バルト3国とポーランドが冷戦時のドイツに相当する「最前線」に位置している。

 これらのNATOの動きにも対抗するかのように、ロシアは、クリミア半島併合以降、軍事活動を劇的に活発化させている。

 ロシアは、2017年9月、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ウクライナなどでの国境付近で「ザパド(西方)2017」と呼ばれる、冷戦期以来、最大規模の軍事演習を行った。

 ロシア陸軍の演習はますます頻繁になっており、バルト3国に対する攻撃準備の一環ではないかとの観測が強まっている。


 また、ロシアは、バルト海での軍事活動を活発化させている。同海は、NATOとロシアの激しい神経戦の主要舞台となっており、ロシア軍機による「特異飛行(異常接近)」などによる飛行・航行妨害が、偶発的な衝突を引き起こす危険性を高めかねないとして懸念されている。

 それ以外にも、ロシア軍によるサイバー攻撃、情報操作、他国への脅迫などが頻発している。

 最近では、英国で、ロシアの元スパイの男性とその娘が神経剤で襲撃される事件が発生した。英国のテリーザ・メイ首相は、犯行に使われた毒物が旧ソ連で軍用として開発された神経剤「ノビチョク」(Novichok)」と特定されたと明言した。

3月4日に襲撃された元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏

 また、ボリス・ジョンソン外相は、「英国の街頭、欧州の街頭で、第2次世界大戦後初となる神経剤使用を指示したのは、彼(ウラジーミル・プーチン大統領)の決定である可能性が圧倒的に高いと、我々は考えている」と述べた。

 NATO欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官(米空軍大将、2013.5~ 2016.5)は、在任間、ロシアは今後何をするか分からないと述べ、「過去数十年、欧州の安全保障の基盤となってきたルールや原則を、ロシアは根こそぎひっくり返そうとしている」と警鐘を鳴らしている。

ポストモダンの思想に支配された欧州の油断

 冷戦が終わって間もなく、米国ではフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房、1992年)が発表された。


 社会主義陣営が瓦解し自由・民主主義陣営が戦いの最終勝利者となったいま、もはや本質的に「対立や紛争を基調とする歴史」は終わったという主張であった。

 それと符合するように、欧州でも英国外交官であるロバート・クーパーの『国家の崩壊』(北沢格訳 、日本経済新聞社 、2008年)に代表される脱近代(ポストモダン)の思想が現れた。

 マーストリヒト条約の調印によるEUの進展とグローバル化の動きがそれを後押し、日本を含めた欧米先進国において持てはやされた。

 脱近代の思想とは、

(1)国家対立、民族紛争などを、またそもそも国民国家とか国家主権という概念を近代(モダン)世界のものとみなし

(2)グローバル化が進み、近代を乗り越えた今日の脱近代の時代においては、国家とか主権という観念そのものが過去のものとなり

(3)リアリストが唱えた国家や軍を中心とした伝統的な安全保障システムも過去のものになった。

 これからの国際関係は、道徳が重要で、国際問題は話し合いや国際法に従って解決でき、国際司法裁判所などの国際機関が画期的な意味をもつ、というものである。

 そのような風潮を背景に、冷戦後、欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。

 顧みれば、これに類するリベラルな理想主義型の世界観や思想は、第1次大戦や第2次大戦後など、過去に幾度となく現われた。

 しかしNATOは、2014年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。

 冷戦後の一時的な平和の到来が、人類が繰り返してきた歴史の現実から目を遠ざけてしまったのであろうか。「油断大敵」である。

 欧州の国防費や兵力は、冷戦の終結以降、ロシアがクリミア半島を併合するまでの数十年にわたり減少傾向が続いたが、最近になって大きな変化が生じている。

 そのためNATOは、脆弱なバルト3国がNATOに加盟した年から行ってきたバルト上空監視ミッションの規模を拡大し、即応性行動計画(RAP)に基づき、東部の同盟国におけるプレゼンスを継続するため、バルト3国及びポーランドに4個大隊をローテーション展開している。

 また、既存の多国籍部隊であるNATO即応部隊(NRF)の即応力を強化し、2~3日以内に出動が可能な高度即応統合任務部隊(VJTF)を創設した。

 それでもなお、ジェームス・マティス米国防長官は、ロシアの脅威増大に伴う同盟国の戦闘態勢は不十分であるとして、NATOに対し

(1)意志決定を速め
(2)軍の移動能力を高めるとともに
(3)迅速な実戦配備を確実にするよう求めている。

 これに呼応して、EUは、共通外交・安全保障政策(CFSP)および共通安全保障・防衛政策(CSDP)のもと、安全保障分野における取組を強化しつつある。

 部隊や兵器の域内移動能力を高めることを主眼にした軍事版「シェンゲン」と呼ばれる行動計画を作成し、部隊・兵器輸送に関連する道路や橋、鉄道といったインフラ整備と規制・事務手続きの簡略化などについて必要な基準をまとめ、事業の優先順をきめて実施する手筈を整えている。

 欧州では、NATOとEUが連携し、政治・外交、経済、軍事、警察・刑事司法などが一体となってロシアの脅威に備える対処能力を高めようと動き出した。

改めて問われる日本の防衛態勢

 NATOの貧弱とされる軍備態勢の問題は、日本にも当てはまる問題であり、等閑視することは許されない。

 昨年12月に公表された米国の「国家安全保障戦略」(NSS2017)では、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難し、米国に挑戦し、安全や繁栄を脅かそうとしている「ライバル強国」であると明示した。

 そしてNSS2017を受けて2018年1月に公表された「国防戦略」(NDS2018)において、中国は 「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘した。

 他方、ロシアは「周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしている」と批判し、核戦力の拡大や近代化に対する警戒感を顕にした。

 前述のとおり、NATOはロシアの力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」による挑戦に直面している。

 それと対称的に、アジア太平洋地域で中国が仕かけている「サラミスライス戦術」や「キャベツ戦術」に「三戦」を交えた「グレーゾーンの戦い」に対して、我が国は課題とされる領域警備の問題を解決できたのであろうか?

 中国の弾道ミサイルの飽和攻撃によって自衛隊・在日米軍基地は作戦当初に破壊され機能マヒに陥る恐れがあるが、その代替として全国の民間飛行場などを基地として直ちに使えるような仕組みが作られているのか?

 同時に、民間人の避難のための輸送手段や施設、水・食料、医薬品などは準備できているのか?

 有事に錯綜する自衛隊と民間の陸海空輸送について、一元的に統制する組織があるのか?

 自衛隊の部隊を南西諸島へ緊急輸送する船舶や航空機は確保できるのか?

 はたまた、全国の橋や道路などのインフラは戦車を搭載した特大型運搬車(戦車運搬車)など重装備の規格に適し、輸送に耐えることができるのか?

 防衛産業には戦闘で急速に損耗する自衛隊の装備を急速生産できる体制が維持されているのか?

 装備だけでなく、自衛隊が一定期間を戦うために必要な弾薬・ミサイルなどは十分に備蓄されているのか?

 以上例示したのは、日本の防衛に必要なほんの一部であるが、いずれもしっかりした態勢が整っていなければならない重要な事柄である。

 今、欧州で高まるロシアの脅威に対して、NATOそしてEUは、立ち遅れを認めながらも、必死でその脅威を抑止し阻止しようと、実際に戦うことを前提とした態勢作りに着手している。

 では、インド太平洋地域において、中国の脅威に曝されている日本はどうしなければならないか?

 言うまでもなく、NATO・EUと同じように、中国の覇権的拡大に対応できる防衛態勢を整備することが急務であるが、前述のとおり、そのための課題は広範多岐にわたり、また時間のかかる難しい問題が残されていると指摘しなければならない。

 国を挙げ一体的に戦える態勢を作り上げない限り、紛争を抑止し阻止することは難しいのである。

【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!

ブログ冒頭のような記事にある脱近代(ポスト・モダン)の思想は一時もてはやされたのは事実ですが、それはほんの一時のことでした。

世界は依然として、国民国家に「神に変わらぬ忠誠」を誓っています。インターネット時代だの、グローバリゼーションだの言われる昨今においても、世界、その中でもとりわけヨーロッパを見るとEUとは言いながらも各国の「國體」はしぶとく生き残り、ソ連の崩壊以降、昔の國體が次々に復活しています。

ピーター・ドラッカーは「この200年を見るかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている」(『ネクスト・ソサエティ』、ダイヤモンド社、上田惇生訳 2002年5月発行)と書いています。

以下に、『ネクスト・ソサエティ』からそのまま引用します。
最初にこれ(注:国民国家の崩壊)を言ったのがカントだった。南北戦争勃発の直前、1860年の穏健派も、サムター砦で最初の銃声が轟くまでそう考えていた。オーストリアハンガリー帝国の自由主義者たちも、最後の瞬間まで、分裂するには経済的な結びつきが強すぎると考えていた。明らかに、ミハイル・ゴルバチョフも同じように考えていた。 
しかし、この200年をみるかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている。
そして英語圏の場合、90年前どころか、500年前に書かれた文章であっても国民国家を説く偉人らの書籍は、現在も誰もがほぼそのまま読んで理解することができ、歴史上の偉人が現在でもすぐそばにいるのです。

国民国家を崩壊し、自らの版図におさめようという中国やロシアの試みは、こうした国民国家の信奉者からは大反撃を受けることになるでしょう。ただし、NATOが油断していたのは事実です。

中国・ロシアによる自由主義の世界秩序に対する挑戦に関しては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ロバート・ケーガン氏
この記事は、昨年の2017年2月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部引用します。
 世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。 
 米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。 
 このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。

 この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。
ケーガン氏のこの論文の要約を以下に掲載します。
・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。 
・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。 
・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。 
・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった 
・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。 
・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。
トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせています。

しかしケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだといいます。

ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみています。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということでしょう。

そうして、日本人として認識すべきことは、自由主義の世界秩序に対する挑戦する国である、中国とロシアが、両方とも日本の隣国であるということです。

中国に対する脅威に関しては、不十分とはいいながら、尖閣諸島での問題から大多数の国民から認識されて、はっきりと認識されるようになりました。

しかし、ロシアの脅威はあまり認識されていないようです。中国の脅威というと、沖縄の脅威であるように、ロシアの脅威というと具体的には日本ではロシアに一番近い北海道の脅威ということになります。

中国による北海道の脅威は、まだあまり多くの人々に認識されていませんが、それでもロシアの脅威よりは明らかになっていることがあります。

たとえば、中国の北海道に対する間接侵略があります。すでに、中国は数千ヘクタールを超えた土地の買収を北海道で実施しています。さらに、中国は北海道の海岸線の土地を買い占めようとしていることも明るみに出ています。

北海道の市町村では、中国友好都市協定を結ぶところも多いです。しかし、中国が北海道の海岸線の土地を買い占めようとするにはその背景があります。

ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る「北極海航路」。最近までその一部がロシアの国内航路として利用されるだけでしたが、近年の地球温暖化により北極海の氷が減少し、航海の難しさが軽減されたため、ヨーロッパ・東アジア間の海上輸送におけるスエズ運河航路の代替ルートとして注目されるようになりました。

中国がこの北極海航路を効率良く利用するためには、津軽海峡を超え、釧路と苫小牧等を北極航路の補給基地として利用することができればかなりやりやすくなります。中国としては、日本に土地買収企業を送り込み、北海道の市町村と友好協定を結び、いずれ北極海航路への基地化をすすめるという目論見があると思われます。

さらに、北海道には、アイヌ問題があります。アイヌ利権というものがあります。アイヌ人であるなしは関係なく、自分がアイヌ人であると主張して認定を受ければ、その利権を享受することができるそうです。

そのため、利権に群がる左翼系の人々も多いと聞き及んでいます。これら利権に群がる左翼系の人々は、アイヌ自治共和国など設立した場合どうなるでしょうか。

無論、この自治共和国では外務大臣、総理大臣を定め、中国との友好条約を結ぶということも考えられます。そうなると、北海道在留の中国人を守るという名目で、人民解放軍を送り込むということも考えられます。

このようなことは、空想に過ぎないと考える方もいらっしゃるかもしれません。これは、現実起こっていることです。チベット、ウイグル、トルキスタンこれらは、元々独立国でしたが、それこそ現在の北海道や沖縄のように間接侵略を受けた後に、人民解放軍が進駐してきて、中国の自治区になってしまました。

このように、人民解放軍が、北海道に進駐する可能性もなきにしもあらずです。無論、いきなりではなく、土地買収に続き、正規軍ではない民兵を送り込み、準備をすすめ、いずれ人民解放軍を送り込むというハイブリッド戦を仕掛けてくる可能性が高いです。

現在の日本は、それを阻止できるのでしょうか。沖縄だけではなく、北海道も危ない状況にあります。北海道知事や、市町村長はそのことを理解しているのでしょうか。

そうして、これは中国の脅威です。ロシアによる北海道への間接侵略については、まだ明らかにはなっていませんが、それでもすでに明らかになっていることはあります。

2014年8月、ロシア海軍はそれまでにない大規模な訓練を実施し、日本周辺の極東太平洋地域で敵前上陸作戦を含む軍事訓練を展開しました。その後もロシアは大規模な演習を繰り返しています。

ロシアのミサイル駆逐艦ワリャーグ

ロシアがアジア極東の海軍力を増強し、日本とアメリカにとって新たな脅威になっています。プーチン大統領はアジア極東戦略を強化する重要な要素として日本との対決を明確にしているだけでなく、北方領土を日本に奪われないために海軍力を強化しています。

アメリカ海軍専門家によると、プーチン大統領は今後、最新の原子力空母や潜水艦、戦車上陸用舟艇などを増強しウラジオストクに集結させます。またフランスから最新鋭のミストラル型強襲上陸用空母を4隻購入する計画をたていました、そのうちの二隻をウラジオストクに配備することをすでに決めました。

プーチン大統領はウラジオストクだけでなく、かつて日本領であった南樺太のユジノサハリンスクの海軍と空軍基地を増強しています。さらに北方の千島列島先端にも太平洋艦隊のための海軍基地と空軍基地を作っているだけでなく、後方支援基地としてロシア本土沿岸地域に、数カ所の海軍基地と空軍基地を建造していることをアメリカ軍が確認しています。

ウラジオストクから樺太、千島列島さらには、ベーリング海峡、ロシアの沿岸のロシア太平洋艦隊の基地が強化されたり、新たに作られたりすれば、日本にとって大きな脅威になります。とりわけ注目されるのはウラジオストクに配備される、ミストラル型揚陸艦を中心とする上陸用集団の強化です。

ミストラリ型揚陸艦

ロシアがウラジオストクを中心としてロシア太平洋艦隊を強化しているのは、軍事的に見るとアメリカの力の後退によって生じる力の真空をうめようとしているからです。この動きの背後には中国の軍事力拡大に対する警戒がりますが、基本的には日本を敵視し、北方領土を返さないという決意の表明です。

現在の日本の人々が留意すべきは、こうした状況のもとで西太平洋から後退しつつあったアメリカが、トランプ大統領の登場により、ようやく再びアジアに関心を持ち本当の意味での抑止力を行使することを目指すようになりましたが、中露に本当に対抗できるようになるには、10年くらいはかかるかもしれないということです。

そのアメリカの後を襲うべく、経済力をつけた中国が軍事力を拡大しているのですが、資源を中心に伸ばしつつあるロシア経済と軍事力の拡大は、中国のそれを上回る勢いです。しかもロシアはもともと軍事的に強い国だということを忘れるべきではありません。

中国は旧ソビエトが建造した古い空母を買い入れ、アメリカの技術を盗んでステルス戦闘機を作ったりレーダーを開発したりしていますが一部、衛星技術で成功しているだけで、アメリカの専門家は中国の軍事力を高くは評価していません。

しかし、日本の国際戦略、外務省の外交、国民の憲法論争などを見ていると、その殆どが、いわば「張り子の虎」である中国の軍事的脅威に関心を奪われているようです。中国の脅威は軍事的に脅威というよりハイブリット戦の脅威といえます。それに対して、ロシアの軍事的に脅威は「張り子の虎」ではなく、現実の脅威です。

集団的自衛権にしても、中国の脅威とそれに対応する東南アジアの動きに呼応するものに過ぎないようです。真に日本の安全を図ろうとするならば、もう一つの強力な敵、プーチン大統領のロシアがもたらす危機に対処する戦略を、ただちに構築しなければならないです。

ロシアは日本に対してはハイブリット戦略をとりにくいです。なぜなら、ロシア人と日本人とは人種的に異なり、容易に見分けがつくからです。さらに、言語的にもロシア語は、日本国内ではほとんど通じません。

さらに北海道には、現在のロシアの領土からの引揚者も多く、終戦直前のロシアの卑劣な参戦やその後の多数の将兵をシベリア送りにした非道についても知られているので、ロシアに親和的な人は少ないからです。特に高齢者はそうです。

このようなことから、日本に対して、中国のようないわば人民解放軍投入の前の準備としてのハイブリット戦略はとるのは難しいです。当然のことながら、日本に対しては軍事力で対抗するものと考えられます。さらに、北海道に接するオホーツク海は未だにロシア戦略原潜の聖域であることを忘れるべきではありません。

中国があれだけ南シナ海にこだわるのは、聖域にしうる水深の深い海域が中国の近くにない中国が、水深の深い南シナ海を中国原潜の聖域にしたいからです。ロシアはすでにオホーツク海を聖域としているわけですから、ここを容易に手放すはずもなく、今後はさらにこの地域の拠点を拡大していくことでしょう。

いずれにせよ、日本としては、北海道は既に中露の脅威にさらされていることを認識したうえで、安全保証を考えなければならないということです。



2018年4月11日水曜日

米中貿易戦争、習氏がトランプ氏に「降伏宣言」 外資規制緩和など要求丸のみ―【私の論評】元々中国に全く勝ち目なし、米国の圧勝となる(゚д゚)!


習近平とトランプ

 米中貿易戦争で、中国の習近平国家主席がトランプ米大統領に「降伏宣言」した。外資の規制緩和や知的財産の保護など、米国側の要求を丸のみした形だ。トランプ政権は口約束で終わらせないように「具体的行動を」とクギを刺した。

 10日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、前日比428・90ドル高の2万4408・00ドルと大幅続伸した。

 11日午前の東京市場は午前9時現在、24円77銭高の2万1819円09銭と小幅続伸して取引が始まった。円相場は、1ドル=107円前半と円安基調で推移した。

 習主席は10日の講演で「中国の市場環境はこれから大幅に改善し、知的財産は強力に保護される。中国の対外開放は全く新しい局面が開かれる」と述べ、市場開放に向けて努力する姿勢を表明。外資による金融機関の設立で制限を緩和するほか、自動車分野などでも外資の出資比率の制限を緩和するとした。

 トランプ政権が問題視する対中貿易赤字について「貿易黒字を追求しない」として輸入拡大に努力するとし、自動車などの関税を大幅に引き下げる意向を示したほか、知的財産の侵害についても「外資企業の中国における合法的な知的財産を守る」と強調した。

 少なくとも言葉のうえではトランプ政権が問題視していた点に「満額回答」した形だ。

 トランプ氏はツイッターで「習主席による思いやりのある言葉」と満足げにつぶやいた。

 ただ、サンダース米大統領報道官は習氏の発言について「正しい方向への一歩だが、単なる美辞麗句ではなく具体的に行動を起こしてほしい」と要求。中国が市場開放を具体化するまで交渉を続け、関税引き上げなど制裁発動の手続きも進める考えを示した。

 貿易戦争はさらに攻防が続きそうだ。

【私の論評】元々中国に全く勝ち目なし、米国の圧勝となる(゚д゚)!

中国の「対米報復関税」により、本格的に勃発するとされていた米中貿易戦争。両国間だけでなく日本にも影響必至と報じられていますが、制裁が長期化すれば、むしろ首が締まるのは中国です。一体それはなぜなのか。本日はこれをメインに掲載します。

アメリカのトランプ政権が3月末に海外からの輸入鉄鋼・アルミニウム製品に高い関税をかけたことに対して、中国は4月2日から報復措置として、アメリカ産品128品目に最大25%の上乗せ関税をかけました。

これに対して、日本のメディアは「貿易戦争」が勃発すると騒いでいますが、本当にそうなるのでしょうか。よく知られているように、中国はアメリカにとって最大の貿易赤字国です。

2017年のアメリカのモノの貿易赤字7,962億ドルのうち、対中赤字は3,752億ドルで過去最大、約半分を占めています。ちなみに、これまでアメリカにとって2位の貿易赤字国だった日本は、メキシコに抜かれて3位になっています。



中国のアメリカへの輸出は、同国のアメリカからの輸入の3倍もの規模になります。2016年の中国のアメリカへの輸出額は3,897億ドルでしたが、アメリカからの輸入は1,344億ドルしかありません。今回の中国側の報復関税では、そのアメリカからの輸入のうち、30億ドルが対象になっているだけです。したがって、もしも貿易戦争が起こった場合、圧倒的に不利になるのは中国側です。

しかも、アメリカが制裁対象にしているのは鉄鋼やアルミニウムなど、中国が最大の生産国となっている品目です。2017年の世界の鉄鋼生産量は16億9,122万トンでしたが、そのうちの約半分、8億3,173万トンを中国が生産しています。明らかに過剰生産であり、不当廉売によって世界各国の鉄鋼業界が悲鳴を上げている状態であることは、言うまでもありません。

言うまでもなく、世界最大の鉄鋼消費国も中国で、2017年の鉄鋼需要は7億7,000万トンとダントツですが、6,000万トン、約7.5%も過剰生産していることがわかります。しかも、インフラ建設もピークに達し、その需要は年々低下すると予想されています。

そのことは、中国の経済成長率が年々下落していることや、「一帯一路」によって、過剰生産された鉄鋼を他国へ振り向けようとしていることからも理解できるというものです。

一方、世界2位の鉄鋼消費国はアメリカです。2018年のアメリカの予想鉄鋼需要は1億1,000万トンと見込まれています。アメリカの年間鉄鋼生産量は8,164万トン(2017年)ですから、約3,000万トン分を自国で生産するか、輸入すれば良いことになります。

そして、輸入先は中国以外にも数多くあります。中国の不当廉売によって被害を受けている他国から鉄鋼を買えば良いだけです。すでに鉄鋼価格は世界的に低下していましたから、中国製鉄鋼に関税をかけたからといって、鉄鋼価格の上昇によるインフラ懸念も少ないはずです。

一方、中国が報復措置として輸入制限をかけた128のアメリカ産品のうち、代表的なものが豚肉と大豆です。

中国は豚肉消費量においても生産量においても世界1位ですが、近年では豚飼養頭数が減り、生産量が消費量を下回っているため、輸入に頼ってきました。2016年には162万トンを輸入に頼っていますが、アメリカからはその8分の1にあたる21万トンを輸入しています。輸入先の1位はドイツ、2位がスペインで、アメリカは3位にすぎません。

しかもアメリカの豚肉生産量は1,132万トン(2016年)であり、そのうちの21万トンというのは、アメリカ国内生産の2%にも満たない数量です。

アメリカにとってはさほどの打撃にならない一方、むしろ中国にとっては大きな打撃になる可能性が高いでしょう。というのも、食料価格の高騰は人民の不満につながるからです。シカゴ大学の趙鼎新教授は、1989年の天安門事件は、食料品価格の急騰が発端だったと分析しています。中東で起きたジャスミン革命も、食料価格の高騰が原因でした。

中東で起きたジャスミン革命は食料価格の高騰が原因だった

また、大豆についてはたしかにアメリカが世界の生産量1位で、1億トンを生産しているため、アメリカ農家も中国の輸入規制を非常に警戒しています。しかし、一方の中国は1,100万トンの生産しかないにもかかわらず、消費量は9,500万トンで、8,400万トンを輸入に頼らざるをえない状況なのです。

アメリカからの輸入大豆は中国での流通量の3分の1を占めているとされています。中国がこれほど大豆を必要とする理由は、搾油用に加えて、家畜飼料のためです。

しかも、2018年の生産量は、アメリカでは増産見込みであるものの、アルゼンチンやブラジルなどでは減産が見込まれ、世界全体では減少すると見込まれています。一方、消費は中国をはじめとする世界全体で増加すると見込まれています。

そのため、中国がアメリカからの大豆を輸入規制すれば、中国国内での需要に供給が追いつかず、大豆の価格高騰、さらには豚肉などの畜産物の価格高騰につながる可能性が非常に高いと言えます。

鉄鋼・アルミは世界的な供給過剰状態にあり、アメリカのみならず、欧米でも中国産鉄鋼への強い反発があります。このような状態であるからこそ、アメリカは中国産鉄鋼・アルミに高関税をかけたわけです。

一方、中国は自国で供給不足にあり、世界的にみても供給過剰ではないアメリカ産の農産物、畜産物に報復関税をかけたということになります。しかも、工業製品は生産調整が容易であるのに対して、農業・畜産物は天候や病害などによって生産は不安定です。

すでに中国の食料自給率は8割台で食料輸入国に転落していますが、一人っ子政策を廃止したことや、高齢化社会による働き手不足によって、ますます食料自給率が下がっていくことは目に見えています。

食糧問題はこれからの中国の最大のリスクとされてきました。その自らのウイークポイントにかかわるような産品に対して制裁措置を行うというのは、それしか手段がなかったということの表れです。そのため、そう長くは対米制裁措置を継続できないでしょうし、制裁が長期化すれば、むしろ首が締まるのは中国のほうなのです。

ちなみに、この米中の「貿易戦争」については、日本や台湾も通商国家、貿易国ですから、「被害が避けられない」という恨み節もよく聞かれます。しかし、日台にとって「利益だ」という声も多いです。私の見解としては、長期戦として長引いたほうが、中国以外の国にとっても「百利あって一害なし」だと思っています。

3月8日、トランプ米大統領は記者会見で、鉄鋼とアルミニウムにそれぞれ
25%と10%の関税を課す輸入制限を実施することを正式に発表

そうはいつても、鉄鋼・アルミの問題は日本にもかなり悪影響があるのではとみるむきもありますが、高品質の日本製品を制限して困るのは米産業界なのです。ほうっておけばよいのです。どうしても制限対象から日本を外してくれ、と安倍首相が頼み込むなら、トランプ氏は待ってましたとばかり、為替条項付きの日米貿易協定の交渉開始を言い出すに決まっています。

日本の円安政策に歯止めをかけ、日本車の輸出攻勢をかわしたい。そればかりではない。円安に頼るアベノミクスは制約を受ける。日本は米国との利害が共通する分野に議題を合わせる。中国の鉄鋼などの過剰生産を厳しく批判して、トランプ氏に同調すればよいのです。

この米中貿易戦争について、多くの海外メディアや日本のメディアは、トランプ大統領こそ元凶だとしています。中国は「トランプ大統領は保護主義に走っている、中国は自由貿易を守ろうとしている」と主張し、これに賛同する識者も少なくありません。

しかし、中国における鉄鋼産業は国営企業が中心です。習近平は国営企業は潰さず、「国際市場において、より強く、より大きくする」と述べています。つまり、中国という国家を後ろ盾にした国営企業の存在感を国際市場において高めていくと宣言しているのです。どんなに赤字でも国が資金援助し、その国家の支援をもとに国営企業の国際競争力を強めていくと主張しているのです。

はたしてそれは「自由貿易」と言えるのでしょうか。国家が介入しない民間企業が主役の資本主義市場に、中国という強大な国家の力を背景とした国営企業が乗り込み、不当な廉売によって市場を奪っていく。

これのどこが「自由貿易」といえるでしょうか。しかも中国は国内の民間企業、外資系企業に対して中国共産党の指導を強めるとしています。中国こそが経済統制に走り、自由経済の脅威となっているのです。今回の「貿易戦争」には、そうした背景があることを認識すべきです。

いずれにせよ、アメリカに対して勇ましく対抗措置を打ち出した中国ですが、このことが習近平政権の命脈を断つことにつながる可能性が非常に高い状況でした。

中国の王外相は「(貿易戦争は間違いなく誤った処方箋であり、他国と自国に
損害を与えるだけだ」との考えを示し、実際に米国が追加関税に
踏み切った場合には「同様の措置を取る用意がある」と表明していた

このような状況を理解したからこそ、習近平は10日の講演で「中国の市場環境はこれから大幅に改善し、知的財産は強力に保護される。中国の対外開放は全く新しい局面が開かれる」と述べ、市場開放に向けて努力する姿勢を表明したのです。

さらに、外資による金融機関の設立で制限を緩和するほか、自動車分野などでも外資の出資比率の制限を緩和するとしたのです。

そうして、これには最近の日米による北に対する制裁が苛烈さを増し、とどまるところを知らないということも大きく影響しているとみられます。

先日このブログにも掲載したように日本は、戦後一度も艦艇を差し向けたことがない黄海に海自の艦艇を派遣して監視活動にあたっています。米国は、制裁をさらに強化するため、今後米沿岸警備隊を半島付近に派遣することを検討しています。

最近まで、トランプ政権は、オバマが中国が南シナ海や、その他の地域で中国が何をしようが、結局のとろ「戦略的忍耐」で何も具体的な行動を起こさなかったのとは対照的に北朝鮮に対して制裁でかなりの圧力をかけています。

ご承知の通り、トランプ大統領は先月、レックス・ティラーソン国務長官を更迭し、後任にマイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官を指名しました。続いて、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も解任し、後任にジョン・ボルトン元国連大使を内定した。

マイク・ポンペオ氏(左)とジョン・ボルトン氏(右)

ポンペオ氏は、『正恩氏排除=斬首作戦』に賛成しています。CIA内に初の北朝鮮専門部隊『朝鮮ミッションセンター』をつくりました。結果、正恩氏の隣に協力者を構築し、反正恩一派が結成されたようです。朝鮮人民軍の一部は命乞いを始め、クーデターを計画し始めたとされています。正恩氏が一番憎む男だです。

ボルトン氏は、対北先制攻撃を公言しています。ジェームズ・マティス米国防長官は3月末、国防総省でボルトン氏を迎えた際、『あなたは“悪魔の化身”だと聞いている』といいました。イラク戦争(2003年~11年)時にも、北朝鮮とイランへの攻撃を強硬に主張しました。

正恩氏の父、金正日(キム・ジョンイル)総書記は2週間も地下に隠れて震えていたとされています。『ボルトン』という言葉は、北朝鮮では『死神』と同じです。

トランプ氏はこれは2人を抜擢することによって、『戦争内閣』を構築したのです。ポンペオ、ボルトン両氏を信頼し、対北朝鮮政策の最終形を組み立てているのです。米国が要求する『核・ミサイル開発』放棄は、ボルトン氏がいう『リビア方式』です。

正恩氏はこれに対して『武装解除だ』と激しく拒否しています。しかし、米国の要求を飲まなければ、5月の米朝首脳会談は、正恩氏への『死刑宣告=宣戦布告の場』になることになります。

この圧力に耐えきれなくなった金正恩は、平昌で微笑み外交をはじめ、最近でははじめて北朝鮮を出て、中国まで赴き習近平主席と会談を行っています。

この有様をみて、習近平も恐れをなしたとみえます。まずは、トランプ氏に対して、「敵対」するつもりはないことを表明せざるをえなくなったのでしょう。

そもそも、トランプ政権は、北朝鮮など前哨戦にすぎず、中国こそが本当の敵である捉えているようです。だからこそ、昨年は北朝鮮に対して具体的に軍事作戦をとることもなく、中国の動向を探っていたようです。

中国に明確に対峙するという戦略を採用したからこそ、北に対して明確な態度をとることができるようなったのです。そうして、北が米国の要求を飲まなければ、間髪を入れず北に対して軍事攻撃を開始するでしょう。

ブログ冒頭の記事には掲載されていませんが、中国は保持する米国債を売却する等の報復措置に出ることを予測する専門家もいます。

しかし、中国当局は米国債を売却できないでしょう。なぜなら、売却によって債券価格が大幅に下落するため、同様に中国当局にも巨額な損失をもたらすことになるからです。そもそも、中国の元は、中国が米国債を大量に持っていること、ドルを大量に保有しているということが信用の裏付けになっています。

米国債を大量に売却すれば、元の価値を毀損するだけになります。最近は外貨不足が目立ってきた中国ですが、そうなるとますますドルが寄り付かなくなり、元の信用はガタ落ちになることでしょう。

米中貿易戦が勃発すれば、政治制度が異なる両国の中で中国は最も大きな代価を支払うとことになります。中国の現在の政治制度では、経済成長を維持しつづけることのみが政権の統治の正当性を保証しています。

したがって、米中貿易戦でホワイトハウスから追われることを心配しないトランプ氏に対して、中国共産党政権はこの貿易戦で中南海を失うことにもなりかねないです。

中南海

しかし、米国にはリスクが全くないわけではありません。中国からの輸入を減らせば、国民の日常生活に必要な生活用品や電化製品などの価格が上昇し、これによって米国のインフレ率も約0.5%上がる可能性もあまりす。

このような状況が現れれば、トランプ氏がやならなければならないことは、ウォルマートの前で価格上昇を抗議する国民に対して「価格上昇は一時的な物だ。安価の商品はすぐベトナム、タイ、インド、マレーシアから米国に入ってくる」と言い聞かせ、納得させることです。それは、さほど難しいことではないはずです。

米中貿易戦争においては、米国が必ず勝つでしょう。中国がアップル社のiPhoneを中国で組み立てることは大した脅威ではありません。米国にとって脅威なのは、中国がiPhoneのようなスマートフォン技術の研究開発に成功し、その技術を掌握することです。

中国に対して米国は、「目には目を、歯には歯を」という戦略を採るべきです。例えば、中国当局が米国製品の輸入、米国企業の投資を禁止すれば、米国も同様な政策を採るべきです。米国も同様に中国製品の輸入と中国企業の投資を禁止すべきです。

この戦略を採れば、米国製造業の先端技術と機密技術が中国当局に流れることがなくなります。実に、米国連邦議会はすでに、中国企業による米国企業の買収について審議しています。

現在、米国の工業から農業、しかもハリウッド映画産業まであらゆる産業で中国企業を見かけることができます。米中経済・安全保障検討委員会(U.S.-China Economic and Security Review Commission)がその役割を担っています。

トランプ大統領も中国企業による買収案に否定的な姿勢を示しています。以上のようなことから、米中貿易戦争が本格的に勃発すれば、負けるのは中国共産党政権です。

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2018年4月10日火曜日

米朝首脳会談“日本開催”浮上 日米首脳会談で電撃提案か、官邸関係者「日米に大きなメリット」―【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない〈その2〉(゚д゚)!

米朝首脳会談“日本開催”浮上 日米首脳会談で電撃提案か、官邸関係者「日米に大きなメリット」


 ドナルド・トランプ米大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談をめぐり、官邸周辺で「日本開催案」が浮上している。「北朝鮮の完全非核化」と「拉致問題」をセットで交渉できるためだ。開催地をめぐっては、米ワシントンや、北朝鮮・平壌(ピョンヤン)、第三国が検討されているが、トランプ氏のペースで正恩氏と向き合える「唯一の周辺国」が日本なのだ。注目すべき、正恩氏のメッセージとは。安倍晋三首相は17、18日(米国時間)の日米首脳会談で電撃提案するのか。


 「日米双方にとって、メリットが大きい。実際、政府内でも『日本開催案』を主張する外交担当者が複数いる。トランプ氏が乗ってくる可能性も低くないとみている」

 官邸関係者は、夕刊フジにこう語った。

 これまで、首脳会談の候補地としては、両国の首都とともに、軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)、中国・北京、スイス・ジュネーブ、ロシア・モスクワ、スウェーデン・ストックホルムなどが検討された。

 ただ、日米情報関係者は「両首脳とも、交渉の主導権を握りたいので、相手の首都は避けたいはずだ。トランプ政権は、『従北・反米』である韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権を信用していないので、板門店も嫌がるだろう」と語る。

 北京やモスクワも、簡単ではない。

 正恩氏は先月末、電撃訪中して中国の習近平国家主席と会談した。最悪だった中朝関係は緩和したが、米中は貿易戦争に突入しつつある。米露も外交官追放合戦があるうえ、トランプ氏は「ロシア・スキャンダル」から解放されていない。

 このため、米朝と良好な関係を維持しているモンゴルのウランバートルや、第三国であるスウェーデンのストックホルムは有力候補地といえる。

こうしたなか、「日本開催」を説く識者がいる。元内閣参事官で嘉悦大教授の高橋洋一氏は、夕刊フジ連載「日本の解き方」(3月14日発行)で、こう主張した。

 《米朝首脳会談を日本でやることを提案してもいい。日本にも(北朝鮮が)核ミサイルや通常兵器を使わないことを約束させるためだ》《米国と日本は、安全保障で米国、経済(協力)は日本と役割分担して、対北朝鮮交渉にあたってもいい。検証可能な非核化、拉致事件解決と経済協力をセットにもできる》

 これには、安倍首相とトランプ氏の強固な信頼関係がベースにある。

 前出の官邸関係者は「北朝鮮は『平壌開催』を提案したが、安倍首相は日朝首脳会談(2002年)での、北朝鮮の盗聴などを体験している。日米首脳会談で『平壌開催はダメだ』と、トランプ氏に説くだろう。正恩氏が訪中したことで『第三国開催は可能』『米国に有利な場所がいい。日本も候補地だ』と持ちかければいい」という。

 電撃的な、米朝首脳会談の「日本開催案」をどう考えるべきか。

 朝鮮半島情勢に精通する元公安調査庁調査第2部長の菅沼光弘氏は「画期的なアイデアだ。日本が、アジアと世界の平和と安定に、大きな役割を果たすことになる」といい、続けた。

 「正恩氏は3月30日、訪朝したIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長と平壌で会談した。北朝鮮側は、2020年東京五輪に『必ず参加する』と表明した。あれはメッセージだ。正恩氏は本音では、日本に敵対的感情を持っていないのではないか。正恩氏には身の安全が重要。『日本は安全だ』と信用させられるかがポイントだ。ともかく、安倍首相は日米首脳会談で『日本開催』を打診すべきだ」

【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない〈その2〉(゚д゚)!

米朝首脳会談日本開催については、鈴木 衛士(すずき えいじ)氏がアゴラに日本に誘致せよということで、記事を寄稿していましたが、今回ZAKZAKは報道しましたが、大手報道機関は今までのところ全く報道していません。

大手報道機関は、そもそも一昨年の米大統領選挙報道では全くトランプ氏が大統領になることを予想できませんでした。米朝会談に関しても、その二の舞いを舞う可能性が高いと思います。

あるいは、日本で開催ということになると、安倍総理の評価が嫌がおうでも高まるので、報道しないのかもしれません。いずれにしても、北朝鮮問題について正しく報道されていない可能性が高いです。これは、しっかり認識しておくべきでしょう。

今のところ、政府内でそのような動きがあるということだけではありますが、これは多いにありそうなことです。それだけトランプ大統領の安倍総理大臣に対する信頼は大きいものなのです。

米朝会談の日本開催の可能性に関して、このブログに掲載したことはありませんが、北朝鮮問題が、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれないことについては、このブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
トランプ氏、5月に正恩氏「死刑宣告」 北の魂胆見抜き「戦争内閣」構築 ―【私の論評】北朝鮮問題は、マスコミ報道等とは全く異なる形で収束するかもしれない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、米朝会談においては、米国は北が核を完全に放棄した上、さらに十分に査察も受け入れるといういわゆる「リビア方式」を主張することになるでしょう。以下に「リビア方式」に関する部分をこの記事から引用します。
 リビア方式とは、「アラブの狂犬」こと、リビアの独裁者、カダフィ大佐が03年、核放棄に合意し、査察団を受け入れ、06年に国交正常化した方法だ。「北朝鮮が先にすべての核兵器と核物質などを放棄し、その後に制裁解除などの補償を行う」というもの。 
 ちなみに、カダフィ氏は11年、「ジャスミン革命」で、反政府勢力に捕まり、命乞いをするも、射殺された。

核放棄後に殺害されたリビアのカダフィ大佐

 正恩氏は間違いなく、自分をカダフィ氏に重ねて震えている。この間、何があったか。以下、複数の日米情報当局関係者から入手した情報だ。
 
 「中朝首脳会談(3月26日)は、ボルトン氏起用に慌てた正恩氏が、習近平国家主席に泣きついた結果だ。習氏に、リビア方式を否定してもらった。さらに、『韓米の平和・安定雰囲気の醸成=米韓合同軍事演習の中止・在韓米軍撤退』などを主張した。だが、手は震え、顔は哀れなほど、強張っていた」 
 当たり前だ。正恩氏は最近まで「中国は千年の敵」と公言していた。屈辱的な命乞いといえる。さらに情報は続く。
金正恩(左)と習近平(右)

 「北朝鮮は水面下で、5月の米朝首脳会談の開催場所としてフィンランドを提示している。2つ理由がある。1つは、ロシアの領空だけを飛んでいける。安心だ。
 
もう1つは、亡命準備だ。フィンランド滞在中、万が一、北朝鮮国内でクーデターが起きたら、正恩氏はロシアに亡命するという情報がある」 
 そして、結論はこうだ。 
 「日米主導で進めてきた経済制裁が効いている。北朝鮮の人民と軍部は飢餓状態だ。数十万人の餓死者が出る恐れがある。正恩氏はまだ、圧力に屈して『核放棄の意思』を伝えたことを人民や軍の末端に隠している。公表すれば、人民と軍の怒りが爆発する」 
この記事では5月の米朝首脳会談での開催場所としてフィンランドを提示しているという情報を受けて書かれています。

いずれにせよ、金正恩は、金王朝存続のためには、核を手放すことはできないのですが、それでは米国は絶対に金王朝存続を認めないのははっきりしています。

また、日米が厳しい対北制裁を実行したし、今後も緩めることはないということも大きな脅威となりました。日本の報道機関はあまり報道しませんが、日本の海自は第二次世界大戦後一回も踏み入ったことのない黄海にまで護衛船を派遣して、監視活動にあたっています。


さらに、トランプ大統領は、この監視活動を強化するために、米国の沿岸警備隊を派遣することも検討しています。

これだけ、制裁が強化されると、北朝鮮への物流はどんどん細り、核開発どころか、食糧に関しては何とか自給自足ができているようですが、必要最低限の燃料すら確保できなくなるのは目にみえています。そのような状態に陥り、人民や軍の不満が高まれば、リビアのカダフィ大佐のように追い込まれる可能性が高まるばかりです。

であれば、亡命ということ大いにあり得ませす。そうして、米朝会談がフィンランドもしくは、ロシア・モスクワ、スウェーデン・ストックホルムで開催される場合には、金正恩がロシアに亡命する可能性が高いとみるべきでしょう。

日本での開催ということになれば、日米朝首脳会談ということになります。そうして、拉致被害者問題の解決も具体的に動き始めることになるでしょう。

金正恩が、北朝鮮にとどまり続けた上で金王朝を温存したいと考えるのなら、日米の要求は受け入れざるを得ないでしょう。そうしなければ、制裁がさら苛烈なものになるか、米国に攻撃されることになります。どちらになっても勝ち目はありません。

金正恩としては、北朝鮮にとどまりつづけるなら、日米と中露の狭間でバランスを図り、それこそ、ロシアとスウェーデンの狭間で、翻弄されたフィンランドのような運命をたどることになるかもしれません。

そうして、私は金正恩は、それが可能かどうかは別にして、金王朝を最終的にはイギリスの王室もしくは、日本の皇室のような形で温存したいと考えているのではないか思います。実際、正恩の祖父である、金日成は日本の皇室などをモデルとして、実質上の金王朝を設立しようとしたものと考えられます。それは、現在も道半ばなのだと思います。

であれば、北朝鮮の体制がどうなろうと、金王朝が残ることが目的なので、日米が王朝を認めれば、意外と素直に日米の要求を飲むかもしれません。ただし、日米としては、北朝鮮の核放棄は当然のこととして、ある程度の民主化、政治と経済の分離、法治国家化などは譲れない線となります。

ここで、北朝鮮が譲歩しなければ、米国は軍事攻撃をすることになるでしょう。最初は核関連施設の爆撃、その後様子をみて北朝鮮に進駐ということになるでしょう。

いずれにせよ、北朝鮮問題はマスコミが報道しているような内容で決着がつくのではなく、まったく予測できないような方向で決着するのは確かなようです。

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2018年4月9日月曜日

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア―【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

政権交代で中国の一帯一路を封印したいマレーシア

中国に身売りしかねないナジブ首相に立ち向かうマハティール元首相

下院解散で、事実上の選挙戦がスタートしたマレーシア。与党連合(国民戦線)は野党支持層が厚い
選挙区に数週間前から早々に、ブルーの与党連合統一の旗を張り巡らせ、猛追する野党阻止を狙う

 60年ぶりの歴史的政権交代が期待されるマレーシアの総選挙(下院=定数222、5年に1回実施。総選挙(投開票日)は5月5日前後で政府が最終調整=前回記事で独自報道)は、与党優勢が伝えられている。

 一方で、2008年に与党連合(国民戦線)が歴史的に苦戦を強いられた戦い「TSUNAMI(津波)選挙」が再び起こるのか、と内外の注目を浴びている。

現首相のナジブ 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 首相のナジブは7日に下院を解散し、津波の再来を警戒する中、「史上最悪のダーティーな選挙を展開するだろう」(元首相のマハティール)と見られ、残念ながら筆者も全く同感だ。

野党に30日間の活動停止

 ナジブは、公務員の給与所得値上げなどのバラマキ公約、さらには与党に有利な「選挙区割りの改定法案」、メディア封じ込めの「反フェイクニュース法案」を下院解散直前の数日間で強行採決。

 さらに、マハティールが代表を務めるマレーシア統一プリブミ党への“締めつけ”を強化。政府は解散直前の5日になって突如、プリブミ党が党登録時の書類に不備があると、書類再提出を指示し、30日間の活動停止を言い渡した。
元首相のマハティール

 30日間の間に再提出しなければ、同党は”永久追放”されると見られている。政府は野党連合(希望同盟)に対しても、野党連合の統一旗の使用やマハティールの顔写真を選挙活動に使用することも禁止した。

 選挙戦活動に圧力がかけられる中、マハティールは「ナジブよ、逮捕したかったら、してみろ!」と自分の政党のロゴが入ったTシャツを着用し、打倒ナジブのシュプレヒコールを全開させている。

 こうした事態に、米国国務省はナジブの非民主的な強権発動に異例の非難声明を発表。さらに、民主化を後押しする宗主国の英国のメディアなど欧米のメディアは、ナジブ糾弾の辛辣な報道を活発化させている。

 一方、事実上の選挙戦に火蓋が切られたマレーシアでは「次期首相には誰がふさわしいか?」を聞いた最新の世論調査(政府系シンクタンク調査。3月23日から26日まで)が実施された。

 その結果、過半数の61%が、野党連合を率いる92歳のマハティールに再び、国の舵取りを握ってほしい、と願っていることが6日、明らかになった。ちなみに、ナジブへの続投への期待は、39%だった。

 昨年末、実施された各種世論調査では、ナジブが少なからず優位に立っていたが、ここに来て、マハティール人気が急上昇。

 「独裁開発者」としての過去の首相時代のイメージから、「人民、民主(ラクヤット=マレー語)」をキーワードに、民衆の頼れるリーダーへとソフトにイメージチェンジした。首相時代より人気が出ているのは、何とも皮肉だ。

 そんな国民の期待を背負う、マハティールは、22年という歴代最長の首相在任を経て、政界を勇退した。

 本来ならば、悠々自適な余生を過ごしているはずが、ナジブ側による暗殺に警戒しながら、歴史的な政変を起こそうとしている。老骨に鞭打つ決意の背景には、いったい何があるのか――。

ナジブと中国の蜜月関係

 誰もが納得する理由は、本人も公言している国際的なスキャンダルとなったナジブや一族が関わる政府系ファンド1MDBの巨額公的不正流用疑惑にメスを入れることだ。



 しかし、本当にマハティールがメスを入れたいのは1MDBが発端となって明らかになりつつある「ナジブと中国の蜜月関係」のようだ。

 その矛先は、マレーシアを重要拠点とする中国の国家主席、習近平提唱の経済構想「一帯一路」にある。マハティール率いる野党が政権交代を実現すれば、マレーシアにおける中国の一帯一路戦略は見直しされるだろう。

 本来、マレーシアでは外国諸国との経済協力は経済企画庁(EPU)が直接の担当省。しかし、一帯一路プロジェクトに関しては、ナジブ直属の総理府がイニシアティブを取っている。

 ナジブと習の独裁的なトップダウンな指揮の下、一帯一路プロジェクトが展開されていることが問題視されているのだ。

ナジブ(左)と習近平(右)

 マレーシアでの一帯一路プロジェクトが、ナジブ設立の1MDBの巨額債務を救済するために始まったことをマハティールは決して見逃すことができないのだ。

 一方、中東からの石油に依存している中国としても、マラッカ海峡を封鎖される危険性(マラッカジレンマ)に備え、マレー半島における拠点づくりは最重要課題となっている。

 中国にとっても地政学的に極めて重要拠点となるマレーシアを取り込むため、借金返済を目論むナジブと習が「利害を一致」させ、一帯一路を通じてチャイナマネーが大量流入している。

 最も顕著な例は、1MDB傘下のエドラ・グローバル・エナジー社が所有する発電所の全株式約99億リンギ(1リンギ=約28円)分を中国の原子力大手、中国広核集団に売却したことだ。

 しかも、中国広核集団は、同資産に加え1MDBの負債の一部の60億リンギを肩代わりした。まさに、一帯一路の下での「1MDB救済プロジェクト」にほかならない。

発電所の全株式を中国に売却

 国の安全保障の根幹である発電所を外資に売り渡す国家戦略にも驚かされるが、ナジブは借金返済のため、「発電所は外資上限49%」というマレーシアの外資認可規制を無視し、中国企業に100%身売りしてしまった。

 そのような状況の中、マハティールは一帯一路のインフラ整備に伴い中国政府から巨額の債務を抱え、財政難にあえぐスリランカと同じ徹を踏まないと誓っている。

 中国マネーの流入は国内政策に悪影響を与え、中国経済への依存は、南シナ海を含め、国や地域の安全保障にも大きな影をもたらすことにもなるからだ。

 こうしたことから、マレーシアと中国との関係改善は、今回の選挙の大きな争点の1つになっている。

 マレーシアでは、一帯一路の関連プロジェクトが鉄道、電力、工業団地、不動産、港湾などのインフラ整備投資を中心に約40件ほど進んでおり、IT分野を始め、製造業、教育、農林水産、観光など幅広い事業に及んでいる。

 中でも、習肝いりの一帯一路の目玉プロジェクト、「東海岸鉄道プロジェクト」は、首都クアラルンプール郊外とマレーシアの北部・ワカフバルを縦断する総距離約600キロを結ぶ一大プロジェクト。2025年完成を目指している。

 問題は、スリランカと同様だ。中国は“低利融資”と言うものの「年利約3.3%で550億リンギ」の総経費を、中国輸出入銀行から借入。

 当然、他の諸国の一帯一路と同様、建設会社は中国交通建設などで、政府は「雇用も資材も、外国と国内の内訳は半々」と模範解答するが、他の様々な一帯一路プロジェクトと同様、「実態は資材だけでなく、労働者もほぼ100%が中国から投入されている」(建設関連企業幹部)と見られている。

 しかも、その労働者は建設現場からの外出を禁じられ、彼らの消費はマレーシア経済に何の貢献もしない。

 中国との「利害一致」と言うが、中国一強プロジェクトにほかならない。

中国のための東海岸鉄道

 ナジブは「東海岸鉄道は開発途上の東部地域の経済成長率を底上げする」と豪語する。しかし、マハティールは「借金を抱え込み、地元の経済や企業をさらに疲弊させるだけ」と同プロジェクトの中止を公約に掲げている。

 マラッカ・ジレンマを克服したい中国にとって、東海岸鉄道プロジェクトはその生命線となるが、マレーシアにはほとんど利益がもたらされないとうわけだ。

 こうした反論にナジブは、「東海岸鉄道など中国との開発プロジェクト(一帯一路関連)を中止せよとは、野党は頭がおかしい!」と激怒する。

 さらに、「中国は最大の貿易相手国。主要輸出品のパーム油だけでなく、ツバメの巣やムサンキング(果物の王様、ドリアン)も大量に輸入しているんだ(「中国がドリアン爆買い マレーシア属国化への序章」)」「中国なくして、国民の暮らしは良くならない」とまで言う。

 まるで中国に憑りつかれたかのように“中国賛歌”をまくし立てている。

 マレーシアの建国の父といわれるマハティールがなぜ、92歳にして現職首相に対して歴史的な政変を起こそうとしているのか。独立国家としてのマレーシアの存亡に対する危機感がある。

 中でも、ナジブの中国との蜜月が、彼の愛国心を傷つけ、その怒りが最高潮に達したのが、マレーシア国産車の「プロトン」の中国企業への身売りだった。

 「プロトンの父」と言われたたマハティールは日本の三菱自動車と資本・技術提携し、東南アジア初の国産車を導入させた。

 この売却が、ナジブとの対決姿勢を決定的なものとした。余談だが、ナジブは「財政難」を理由に、マハティールがアジアで日本に次いでマレーシアに誘致したF1レースからも昨年、撤退。

 さらに、マハティールが経済発展の成長のシンボルとして、肝いりで日本のハザマに施工させた、かつては世界最高峰のビルでマレーシアのランドマーク、ペトロナスツインタワーを超える高さのビル建設計画も進めている。

中国資本で建設が進むフォレスト・シティ

 ナジブの目玉プロジェクトであるクアラルンプールの新国際金融地区 「TRX」で建設中の別の超高層タワー(写真下)は、すでにペトロナスツインタワーを建設途中でその高さを抜いてしまった。



 ドミノ倒しのようにバサッ、バサッと、”マハティール・レガシー”を次から次へと、ぶっ壊すナジブ。

 そして、東海岸鉄道プロジェクトだけでなく、TRXに建築予定の超高層タワーやダイヤモンド・シティ、さらにはイスカンダル地帯に建設される大規模開発、それらすべてが一帯一路にも関連する中国の大手企業による開発だ。

 中でも、 4つの人工島を建設して、約80万人が居住する大型高級住宅街、教育施設、オフィスを構える都市開発計画「フォレスト・シテイ」は、中国の大手不動産「碧桂園」が開発、 2035年の完成を目指す。

都市開発計画「フォレスト・シティー」立体パース

 建設にあたり租税恩典も与えられ、買手の約80%が中国本土からの「大陸人」だと言われている。

 マハティールは、「チャイナマネーの大量流入で、国内企業は衰退の一途を辿るだけでなく、新たな1MDBのような巨額な債務を抱えることになる。さらに、マレーシアの最も価値ある土地が外国人に専有され、外国の土地になってしまうだろう」と話す。

 そこには、建国の父・20世紀最後の独裁開発指導者としてではなく、ラクヤット(民衆)のために立ち上がり、新たなレガシー(遺産)を築きたいという気持ちもあるのかもしれない。

(取材・文  末永 恵)

【私の論評】ナジブとマハティールの戦いは「アジア的価値観」と「西欧的自由民主主義」の相克という枠組みで捉えよ(゚д゚)!

中国がマレーシアなどの国々に影響力を及ぼすことができるのは、金の力だけではありません。やはり、客家(はっか)と客家人ネットワークを理解しなければ、これは理解できないでしょう。

客家人とは、原則漢民族であり、そのルーツを辿ると古代中国(周から春秋戦国時代)の中原や中国東北部の王族の末裔であることが多いです。歴史上、戦乱から逃れるため中原から南へと移動、定住を繰り返していきました。

客家人の住居「福建土楼」

移住先では原住民から見て“よそ者”であるため、客家と呼ばれ、原住民との軋轢も多数ありました。原住民と、客家人の争いを土客械闘といいます。

中国の政治において最も重要なファクターは「客家人ネットワーク」だと言われます。「アジアのユダヤ人」とも言われる彼等は、中国、シンガポール、台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、米国などの中枢に強固な繋がりを持つ華僑ネットワークを形成しています。

客家は、孫文、鄧小平、宋美齢、江沢民、習近平、李登輝、蔡英文、李光耀など、アジアを中心として多くのキーパーソンを排出しています。

さて、昨日はシンガポールの独裁者であった故リー・クアンユー氏のことをこのブログに掲載ましましたが、このシンガポール、そうしてマレーシアも中国語の通じる華人の多い地域です。

マレーシアの首都クアラルンプールにある中華レストラン「客家飯店」

街で買い物をしても、日本人であったとしても普通に中国語で対応されます。マレーシアの最南端に位置する都市ジョホールバルでは街じゅうのいたるところに中国語を見かけます。華人には中国語で話しかけた方が、心を開いてくれる気がします。

日本から来られる方の中には、“中国人”に関してネガティブなイメージからか、中国語のアレルギーのようなものを感じる人がいるかもしれません。

中国語を読み書き話す人を見ると「中国人かな?」と思ってしまいますが、当人たちの多くは自分たちのことを大陸の中国人とは分けて考えています。

人それぞれなので一概にはいえませんが、大陸の人たちとは往往にして気質が異なります。人種としての分類では彼らは『マレーシアン・チャイニーズ』です。彼らの多くは、自分たちは、大陸の人とは違うといいます。はっきり言うと、大陸の中国人を軽蔑しているからかもしれません。

マレーシアでは、中華系の人々(華人)は人口の25%を占めると言われています。人口比は25%でも、一人あたりの平均GDPはマレー系の人々より5割近く高いです。

商取引では英語でももちろん問題ないですが、中国語が流暢にできるならそのほうが歓迎される場面があります。

表向きは英語で対応しているものの「裏で所属の部下と話しているのは中国語」という場面もあります。そのような場合は、両方できるほうが何かと有利に話を運べます。

中国語といえば、北京語(マンダリン)を想像します。たしかに華人は基本的に北京語ができます。それでも母語としての中国語はというと、地域によって人口が変わります。肌感覚にはなりますが以下のような感じなります。
クアラルンプール(Kuala Lumpur):広東語
イポー(Ipoh):広東語
ペナン(Penang):福建語(閩南語)
ジョホール・バル(Johor Bahru):北京語
中国語ができる人はマレーシアでも普通に生活ができます。医療を受けるにしても薬局で必要な薬を買うにしても便利です。

マレーシアの中華系の人は中国語(普通語・北京語)が基本的に話せます。もちろん読み書きもしっかりできます。学校で習うのは簡体字。50歳以上の人は繁体字を好んで用いることもあります。

中学生は公育語がマレー語になるため、当人たちは覚えることを結構苦しんでいるようですが、マレー語もできるようになります。これらの言語がどれもかなり高いレベルです。

家で中国語が話されている家庭が最も有利なようです。インターナショナルスクールでも中国語の授業はありますが、授業だけで中国語を習得するのは無理です。

マレーシアの首都クアラルンプール

マルチリンガルの子どもたちも多いです。家政婦さんとはマレー語、両親とは中国語、学校では英語という具合です。それぞれのことばを瞬時に切り替えます。

非中華系でも、たとえば地元のインド系の方たちも多少中国語がわかる場合があります。インド系だからといっても油断は禁物です。中国語でひどいことを言ってしまえば通じてしまいます。

ちなみにシンガポールはというと、英語で教育を受けている背景のためか、30歳くらいよりも若い年齢の華人は、中国語はあまりうまくないです。マレーシアとは対照的です。

英語と中国語は、両言語とも性質がずいぶんと違いますから、環境的に二つ同時にマスターできる可能性の高い地域は、世界でもマレーシアだけかもしれません。

最近の、マレーシアン・チャイニーズは経済的に余裕ができてきたためか、LCCなどを使って世界各地を旅行する人も増えて来ました。日本にも大勢来ています。

さて、昨日このブログに掲載したお隣の国シンガポールの、独裁者であった故リー・クアンユー氏も華人でした。そうして、数多い華人の中でも、先に掲載した客家人でした。

昨日の記事にもあるように、氏は客家系華人の4世にあたるといいます。曽祖父のリー・ボクウェン(李沐文)は、同治元年(1862年)に清の広東省からイギリスの海峡植民地であったシンガポールに移民しました。本人は自分のことを「実用主義者」「マラヤ人」と称している。また、自らを不可知論者としています。

昨日のブログでは、石平氏の『なぜ中国は民主化したくてもできないのか』という書籍の書評を紹介させていただきました。

この書籍では、石平氏は、長く独裁を続けた毛沢東や改革開放経済の道を開いた鄧小平に比肩する実績も、カリスマ性もない習氏がなぜやすやすと“独裁体制”を築けたのかという問に対して、"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統があるからだ"と断じています。

中華思想では、天から命じられた天子(皇帝)は中国だけでなく全世界唯一の統治者なのです。そうして、中華秩序を失えば王朝も崩壊するという歴史を中国の民衆は身に染みて知っているのです。

そうして、昨日の記事では、故リー・クアンユー氏が、西洋の自由民主主義は「アジア人」には向いていないとは述べていたことを掲載しました。リー・クアンユー氏は、さらに「アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れている。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す"アジア的価値観なのだ"と主張していました。と主張したことも掲載しました。

そうして、私は石平氏の言う"中国民衆の中に「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統"とリー・クアンユー氏の言う"アジア的価値観"とは本質的に同じものであると考えました。

私は、アジア一帯に住む華人のうちでも、特に客家人はこうした社会通念や伝統を強く継承しているのではないかと思います。

マレーシアの、現首相ナジブ氏と、元首相のマハティール氏の経歴を調べてみると、両方とも生粋のマレー人のようです。しかし、上でも述べたように、マレーシアには華人も大勢いて、その中には客家人も存在していて、特に経済界では幅を効かせています。

そのような客家人にナジブ氏は大きく影響されたのだと思います。一方、マハティール氏は、西洋の自由民主主義に親和的な立場をとっているのだと思います。

昨日は、"現在のアジアではリー・クアンユーのいう「アジア的価値観」すなわち中国の民衆のなかにある「皇帝を求める」エートス(社会通念)や伝統と、西洋的自由民主主義とが相克しているのです。

ナジブとマハティールの戦いは、この相克の枠組みでとらえるとかなり理解しやすくなります。そうして、私は無論マハティールを支持します。

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