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2017年12月7日木曜日

韓国、利上げは実態見誤った? 半島有事勃発を見越して資本流出未然に防ぐ思惑も―【私の論評】韓国政府は戦時・平時体制の違いを鮮明にして経済運営せよ(゚д゚)!

韓国、利上げは実態見誤った? 半島有事勃発を見越して資本流出未然に防ぐ思惑も

韓国銀行
 韓国銀行は6年5カ月ぶりの利上げを決めた。家計の負債が急増する副作用が出ているためとの解説もあるが、どのような背景や影響があるのか。そして朝鮮半島有事が起きた場合、韓国経済はどうなるのだろうか。

 韓国もインフレ目標政策を採用しており、2016~18年の目標は2%である。10月のインフレ率は、全品目の消費者物価対前年同月比で1・8%、価格変動の激しい農産物と石油を除いた指数で1・6%だった。そこで11月30日の金融政策決定会合で政策金利を0・25ポイント引き上げ。1・5%とした。

 全品目のインフレ率の推移をみると、7月が2・2%、8月が2・6%、9月が2・1%とインフレ目標を上回っていた。しかし、農産物と石油を除いたものでは、それぞれ1・5%、1・4%、1・4%で、農産物と石油の変動によって全品目の指数が上振れしていたことがわかる。はっきりいって、インフレ目標の運営として、利上げするような状況ではなかった。

 それを裏付けるかのように、12月に入って公表された11月のインフレ率は、全品目のインフレ率で1・3%、農産物と石油を除いたもので1・4%だった。

 これは、インフレ率の基調を見誤った金融政策の変更ではないかと筆者は思っている。

 思い返せば、日本でも同じことがあった。06年3月の量的緩和解除である。その当時に公表されたインフレ率が0・5%程度であったが、実はこれは物価統計の上方バイアス(実際よりも高めになること)に基づくものであった。

 当時、総務省にいた筆者は竹中平蔵総務相を通じて、上方バイアスによって見かけ上はプラスだが、実際はマイナスの可能性もあることを指摘した。ところが、何が何でも金融引き締めに転じたい日銀は、量的緩和の解除に方向転換した。

 当時、政府・与党内でこの方向転換を誤りだというのは、竹中氏と中川秀直政調会長しかいなかった。政府内では与謝野馨経済財政担当相ら大勢は金融引き締め容認派だったので、日銀に対して政府から議決延期請求権の行使もできなかった。

 その結果、筆者らの予想通りに、半年後から景気が悪くなった。しかも、上方バイアスが改訂された後、当時のインフレ率もマイナスだったことが判明した。

 こうした時には、経済指標ではなく、別の思惑があるものだ。当時の日銀は何が何でも量的緩和を脱するという実績が欲しかったのだろう。

 今回の韓国銀行の金融引き締めにもその匂いを感じる。経済データを虚心坦懐(たんかい)にみれば、金融引き締めのタイミングではない。しかし、朝鮮半島の緊張が高まる中で、もし有事になれば、韓国からの資本移動が怖い。これは、1997年のアジア通貨危機で韓国が国際通貨基金(IMF)管理になったことを彷彿(ほうふつ)させる。

 特に、今の日韓関係を考えると、当時のような日本からの支援融資も期待できない。となると、今の時期に利上げして韓国からの資本移動を未然に防ぎたい欲求にかられても不思議ではないだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】韓国政府は戦時・平時体制の違いを鮮明にして経済運営せよ(゚д゚)!

今の韓国の状況では、利上げをするような状況ではないことははっかりしています。本来実行すべきは量的金融緩和です。

韓国銀行の政策金利の推移
しかし、韓国では元々、思い切った金融緩和をやりにくい経済事情があります。韓国の対外債務は短期のものが多く、大胆な金融緩和で韓国の通貨ウォンが安くなると、外資が韓国から資金を引き揚げやすくなるためです。

ちなみに、日本は対外資産が対外債務よりかなり大きく、国内総生産(GDP)比でみて6割程度の純債権国ですが、韓国は5%程度の純債権国にすぎないのです。

韓国は過去においてもインフレ目標を実施していましたが、2013年から15年までのインフレ目標は2・5~3・5%でした。

ところが、12年6月以降、この目標はまったく達成されていません。15年2月のインフレ率は0・5%でした。結局期間中に一度も目標達成しませんでした。

韓国CPI(物価指数)の推移
しかしこの間、インフレ目標を達成できないような大きな要因は見当たりません。ということは、金融緩和が不十分だった公算が大きいです。利下げはしていますが、そもそも為替が安くならないように、つまり経済効果があまり出ない範囲での、言い訳程度の利下げしかしていないのです。

本来であれば、ゼロ金利政策にした後で、日米欧のように量的緩和しないと韓国経済の浮上はあり得なかったのです。米国の量的緩和はようやく出口に向かいましたが、日欧はいまだに真っ最中です。

このため、この時点で韓国が多少利下げしても、対ユーロも対円でも韓国ウォン安になっていませんでした。韓国ウォンは、ユーロや円に対して「刷り負けている」状態だったのです。その結果、輸出がさっぱり伸びず、韓国経済は低迷しています。

韓国経済は輸出が伸びないと苦しいです。なぜなら、韓国経済は輸出依存度が高いからです。輸出額のGDP比で見ると、最近時点では45%程度になっており、世界平均の25%、日本の15%程度と比べてかなり高いです。

それでは、数年前までは、どうして韓国経済がうまく回っていたのでしようか。それは、アベノミクス以前、日銀がデフレ志向で、日本が「刷り負けていた」からです。

日本と韓国は輸出構造が似ていて、家電、自動車が輸出の主力商品です。商品の内容、性能も似ているので、最終的には価格競争力がものをいいます。日本が金融緩和せず円高傾向だったので、韓国ウォンは相対的に円に比べて安く、その分、韓国の価格競争力に寄与しました。その結果、数年前までは韓国が国際市場において有利だったのです。

最近の円安で、日本の自動車・家電業界は復活していが、その一方、韓国の自動車・家電は不振に陥っています。金融政策をうまくやるかどうかで、天国と地獄の差が出てしまいます。もっとも、単に国内をデフレにしないように、うまく金融政策を行うだけであるので、通貨安競争でないことはいうまでもないです。

韓国は、本来なら遅くとも日本が金融緩和に転じた2013年くらいから、本格的な量的緩和を実施し、日本のように消費税をあげるような余計な馬鹿真似はせずに、財政政策では積極財政をとっていれば、今ごろかなり楽な経済運営ができたでしょう。

その状況下において、現在利上げをするというのなら、半島有事勃発を見越して資本流出未然に防ぐという思惑も達成できたかもしれません。

しかし、現状のまま利上げをすれば、さらにインフレ目標達成から遠のくことは明白です。

このままだと、さらに雇用は悪化して、若者が「ヘル朝鮮」と呼ぶような状況から脱することはできず、さらにとんでもないことになるでしょう。

「ヘル朝鮮」という言葉についてインタビューを受ける韓国の若者
朝鮮半島有事になったとしても、北が韓国領内に深く攻め入り、しばらくの間韓国内にとどまるような最悪の事態になりそうなときには、利上げをしていようが、何をしていようが、韓国内から資本流出することは否めません。

このようなときには、通常の経済ではなく、それこそ戦時体制と呼ばれるような体制にせざるを得ません。

戦時体制とは、近現代の戦争において、国家が戦争遂行を最優先の目標として、その達成のために各種の政策を行うことをいいます。

戦時体制は、多くの人々には悪いイメージばかりがあると思いますが、そればかりではありません。国家総力戦に勝つためには、戦時体制によって、国家のあらゆる物的・人的資源を最大限に動員し、活用する必要があるので、徴兵され戦地に送られた男性に代わり、女性がその穴埋めとして、労働現場で働くことになります。

第二次世界大戦中軍需工場に徴用された女性
それにより、性的役割分業という社会常識の変更と偏見の是正と、女性の技能習得と社会進出が進み、第二次世界大戦後の女性の地位の向上につながったという面があります。

その他、とにかく総力戦で敵に勝つために、時の政府により様々な統制や改革も可能になります。もし北の危機が現実のものとなり、韓国が多大な犠牲をはらい北との対決の最前線になった場合、韓国政府が戦時体制をとり様々な統制とともに、改革を推進することもできます。

たとえば、韓国内にある外国の資産を一時凍結したり、戦争遂行のために必要な物資を調達するために、韓国内にある非合理な商慣行などを廃したり、それこそ財閥を解体したりすることもできるかもしれません。それに戦時体制移行とともに、現状ではあまりに多すぎるGDPに占める輸出の割合を減らすということも可能になるかもしれません。平時にはできなかった、韓国の構造改革を戦争遂行、戦争から国民を守ることを理由に強力に推進するのです。

このようなことをすれば、韓国内外から様々な批判の声があがることも考えられますが、韓国が多大な犠牲を払って、北と戦争をしなけれぱならないことを考えれば、多くのことが許されるに違いありません。

このようなことも視野に入れれば、半島有事勃発を見越して資本流出未然に防ぐために現状のように物価目標も達成できないうちに、利上げするという考えにはならないはずです。

韓国としては、今の時期に利上げなどはやめ、雇用改善、物価目標達成のために量的金融緩和を実施し、同時に積極財政を実施し、韓国経済を少しでも良くしておき、半島有事勃発時には、すみやかに戦時体制に入れるように今から準備しておくべきでしょう。

多くの人は、日本は大東亜戦争後に、爆撃などで日本全土が焦土になり、日本は戦後ゼロからスタートしたなどという幻想を抱いていますが、それは事実ではありません。実際には、地方には農業や工業の生産拠点が残っており、終戦直後の日本には戦争突入直前と比較して、7割の国富が温存されていました。

これは、確かに多くの人名が失われたり、爆撃により都市部が焼け野が原になったなどの悲惨なことはあったにせよ、経済的に見れば他のアジア諸国と比較すると、かなり良い条件からのスタートということで、日本が戦後急速に発展したのは当然といえば、当然です。

こういうと、多くの人は、「いや、終戦直後は多くの人が餓死した」などと主張するかもしれませんが、それは、終戦直後に旧日本軍などが大量の物資を隠匿したからであり、これがなければ、終戦直後の日本は餓死者を出すこともなく順調にスタートできたはずです。その後進駐軍がこれらの隠匿物資を発見したため、そこからは比較的順調にスタートできました。

終戦前の日本では、本土決戦に備えて、陸軍も海軍等は大量に備蓄をしました。そのために、日本国内から物資が消えました。そうして、この隠匿物資を戦後に不正入手して、自分のものとして金持ちになった悪人が大勢いました。このようなことがなければ、終戦前後の物資不足もかなり緩和されていたはずです。


上の写真は、終戦直後の日本で米の欠配は続き、夏の暑いさなか、栄養失調状態で、ただ寝ているだけの母子。昭和21年度の稲作は、戦前の平年作の半分余という不出来で、日本の戦後は飢えとの闘いから始まりました。

主食の欠配・遅配が続いたが、ヤミ市場では牛乳もバターも砂糖も手に入りました。「1000万人餓死説」の流れる中、生きてゆくために、庶民はその糧を、買い出しとヤミ市に頼る「タケノコ生活」を余儀なくされました。

韓国政府も、たとえ半島有事が勃発したとしても、韓国内になるべく多くの国富を温存しておきそれを隠匿することをしなけれぱ、戦後は余裕を持ってスタートすることができるはずです。

戦時体制と、平時体制を区別して考え、しっかり準備しておくべきです。どのような状況になった場合、戦時体制に入るのか、また戦時体制から平時体制に戻るにはどのような時なのかをあらかじめ考えておくべきです。そうして、これには安全保障の面だけではなく、経済的な面も考慮するのは当然のことです。

両者を曖昧に考えるからこそ、現在利上げするなどという経済的にどうみても、悪手としか思われないような手を打ってしまうのです。

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2016年2月6日土曜日

【日本の解き方】中国経済もはや重篤なのか 食い止められない資本流失―【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!


日銀の黒田東彦総裁
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が個人的見解としたうえで、中国の人民元について「国内金融政策に関して一貫性があり適切な方法として、資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と述べたと報じられた。

 物やサービスの移転を伴わない対外的な金融取引のことを資本取引という。日本の外為法では、居住者と非居住者との間の預金契約、信託契約、金銭の貸借契約、債務の保証契約、対外支払手段・債権の売買契約、金融指標等先物契約に基づく債権の発生等に係る取引、および証券の取得または譲渡-などが定められている。

 このほかにも、居住者による外国にある不動産もしくはこれに関する賃借権、地上権、抵当権等の権利の取得、または非居住者による本邦にある不動産もしくはこれに関する権利の取得も、資本取引とされている。

 こうした取引は、金融機関を通じて行われるので、資本取引を規制しようとすれば、金融機関を規制することとなる。規制の方法としては、全面禁止、取引許可、取引届出、取引報告などがあり、前者から後者にいくにつれて規制が弱くなる。

 黒田総裁が指摘した、為替管理と資本取引の関係を理解するには、「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」を知る必要がある。それは、「独立した金融政策」「固定為替相場制」「自由な資本移動」のうち、2つまでしか同時に達成することはできないというものだ。

 この法則に従うと、資本取引規制によって自由な資本移動をあきらめれば、独立した金融政策と固定為替相場制を達成できる。つまり、国内物価の安定のために金融政策を使うことが可能となり、為替相場も安定させられるというわけだ。

 中国の資本規制は原則として許可制で、先進国が原則として報告だけなのに比べて格段に規制が強い。それでも香港などを経由した資本流出の動きを食い止められないようだ。

 もっとも、中国が本気になれば規制強化は容易だろう。なにしろ、中国では、問題を起こしたとして摘発された場合、政治的失脚までありえるからだ。

 筆者はかつて中国でのコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する国際会議に出席した際、強烈な思い出があった。国有企業ばかりの国で、コーポレート・ガバナンスなんて所詮無理と思っていたところ、中国政府関係者が「中国では粉飾は死刑にもなります」と説明したのだ。さすがに、この発言には度肝を抜かれた。その延長線で、資本流出を勝手に行えば、重罰というのもあり得るだろう。

 先進国では、貿易自由化の後に資本を自由化するというのが一般的な流れだ。しかし、中国の場合、貿易の自由化を進めたが、ここに来て資本規制が必要となったことで、貿易も規制せざるを得なくなるかもしれない。

 すでに水面下では強烈な資本取引規制が行われているともいわれている。それでも資本流出が続いているのであれば、中国経済はかなり重篤だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!

中国のGDPなどの経済統計は、出鱈目であることをこのブログでも過去に何度か掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり正常ではない中国経済 GDPと輸入統計に食い違い ―【私の論評】政治的メッセージである中国の統計や戦争犠牲者数は、人民の感情に比例する?
2015年は輸入がマイナスになっている。この状況で
GDPがプラスとはとても思えない・・・・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、確かに中国の国内統計は出鱈目なのですが、それにしても貿易は相手があることですから、相手国の貿易統計などは正確なものも多いですから、それらを集計すれば、中国の輸出・輸入など正確に把握することができることを掲載しました。

そうして、中国のGDP統計など、所詮「政治的メッセージ」に過ぎないことを掲載しました。

そうして、輸入からみると、中国のGDPは、政府が発表しているのとは異なり、おそらくマイナス成長になっているであろうことも掲載しました。

このように、いくら中国の国内の経済統計などが出鱈目であったとしても、輸出・輸入は相手があることなので、相手国の統計を集計すれば、中国の輸出入もどの程度であったか、大体の数字はつかめます。

そうして、それは資本取引も同じです。資本取引も、貿易と同じように相手国があることですから、中国の統計が出鱈目であったとしても、相手国の統計を集計すれば、中国の資本取引もほぼ正確につかむことができます。

そうして、中国からの資本流出が莫大な量にのぼることは、すでに周知の事実です。もう、それは昨年の時点ではっきりしていました。

2013年末から15年3月末の間の中国の経常黒字は2952億ドル(約35兆円)でしたが、本来なら経常黒字で増えるはずの対外純資産残高は逆に5922億ドル(約71兆円)も激減しており、合計8874億ドル(約106兆円)の対外資産価値が消失した計算になっていました。消失した金額の巨額さを正しく説明できるのは資本逃避だけです。

昨年の、8月に突如人民元を切り下げた習政権でしたが、ところがその直後から人民元の売り規制に転じました。これは、景気対策のためには元安が必要なのですが、それは中国経済の命綱である資金流出を招くことになり、ジレンマに当局が追い込まれていたものです。

しかし、ジレンマどころか、本来はブログ冒頭の記事にあるように、深刻な「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」状況に追い込まれていたということです。

景気回復を狙い「固定為替相場制」をあきらめて、人民元を切り下げたところ、資本流出が加速したため、今度は資本規制に乗り出したということです。

日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからも維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策
」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。

以下に国際金融のトリレンマの図と若干の説明を掲載します。

  • ある国はこの3つの「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができます。もしある国が a の位置を選択し、「自由な資本移動」と「固定相場制」を導入するのであれば、金融政策の独立性は失われます。
  • 実際の例としては欧州連合ユーロ圏が挙げられます。もしユーロを受容し自国通貨を放棄すれば、ユーロ圏内で為替を固定することになります。また、域内での自由な資本移動も認められています。しかし、金融政策はすべて欧州中央銀行に一任することになります。

「独立した金融政策」とは、特に現在の中国にとっては具体的に何を意味するのでしょうか。中国が、固定相場制を堅持し、自由な資本移動も堅持したとしたら、何がおこるかといえば、それは日本などをはじめとする、外国の金融政策に左右され「独立した金融政策」を実行できなくなるということです。

実際にそれはもうすでに発生していました。日本が2013年の4月から、金融緩和に転じてから、円安状況になり、それまで円高の状況とは異なり、中国経済にとっては、独立した金融政策が脅かされる事態となりました。

それまでの、中国の経済発展を支えていたのは為替操作によるキャッチアップ型の経済成長であり、円高とデフレを放置する日本銀行によるものでした。

慢性的な円高に苦しんでいた日本企業は、過度な「元安」政策をとる中国に生産拠点を移し、出来上がった製品の一部を逆輸入していました。日本国内で一貫生産するより、わざわざ中国を経由した方がもうかる構造になっていたのです。

日銀は、「デフレ政策で日本の産業空洞化を促進し、雇用と技術を中国に貢ぎ続けていた」のです。まさに、日本経済はこれによって、中国に振り回されていたのです。

しかし、2013年の4月から、日銀が金融緩和に転じたため、この構造は崩れ、今度は中国が日本の金融政策に振り回されるようになり、「独立した金融政策」を維持することが困難になってきたのです。

2013年に異次元の包括的金融緩和を発表した黒田総裁
この状況を本格的に脱するには、中国が構造転換をして、経済的な中間層を増やし、その結果個人消費を増やす必要があります。しかし、これは文字通りの構造転換であって、実行するには10年くらいはかかるものです。

短期的には、中国がこれからも「固定相場制」を捨てないというのなら、「独立した金融政策」を捨てるわけにはいかないので、黒田総裁がブログ冒頭の記事の中で述べていたように、結局「自由な資本移動」を捨てるしかないということです。結局「資本規制」しか選択肢はないということです。

それにしても、資本規制を強めるというのなら、中国国内の資本が海外に逃避することはなくなりますが、海外から中国内に資本が大量に入ってくるということはなくなります。

となると、今までの中国の経済発展の構造は維持できません。今後、中国が構造転換をしないかぎり、これは変わりません。

ということは、いずれにしても、中国の経済の回復は長期間望めないということです。この構造転換に失敗すれば、中国も中進国のジレンマから逃れることができず、図体がでかいだけの、ありふれたアジアの独裁国家に戻るということになります。

発展途上国などの経済が飛躍的に伸びて、新興国などともてはやされても、なぜかほとんどの場合、その後経済成長ができなくなり、所得が発展途上国と、先進国の中間あたりで、止まってしまうという現象がよく見られます。それを中進国のジレンマと呼びます。

中国は、おそらくこのジレンマから抜け出すことはできないでょう。できるとすれば、中国の体制が根本的に変わり、民主化、経済と政治の分離、法治国家化を推進する体制になった場合のみです。現状の体制のままでは、抜けだせません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2016年1月8日金曜日

中国当局が銀行のドル買い制限、一部取引拠点で=関係筋―【私の論評】さらに資本流失が加速した中国!今年はデット・デフレ元年になる(゚д゚)!

中国当局が銀行のドル買い制限、一部取引拠点で=関係筋

関係筋によると中国の国家外為管理局は今月、一部の取引拠点の銀行に対しドル買いの制限を指示

関係筋によると、中国の国家外為管理局は今月、一部の輸出入拠点の銀行に対し、ドル買いの制限を指示した。

資本流出に歯止めをかけることが狙いとみられる。

深センなど一部の取引拠点にあるすべての銀行に指示が出されたという。

複数の関係筋が匿名を条件に8日明らかにした。国家外為管理局のコメントはとれていない。

外資系銀行の外為部門のあるシニアバンカーは「一種の規制であり、影響はある。ただ、それほど厳しい制約ではなく、制限の期間を延長しない限りは、通年の取引量が変わることはないだろう」と指摘。「目的は今月のパニック買いに歯止めをかけることだけだ」と述べた。

関係筋によると、拠点の一つでは、1月に銀行が顧客に売るドルの合計額は昨年12月の水準を超えてはならない。

関係筋の1人は「(当局が)購入額を制限するよう求めてきた。ターゲットもある」とした上で、「主に対象となるのは企業などで、個人に関する政策には変更はない」と述べた。

市場では昨年の元切り下げ以降、オンショア市場とオフショア市場の人民元の価格差が広がっており、当局が資本流出の抑制に乗り出している。

関係筋によると、中国人民銀行(中央銀行)は昨年末、ドイツ銀行、DBS、スタンダード・チャータードに対し、一部外為業務の停止を命じた。

【私の論評】さらに資本流失が加速した中国!今年はデット・デフレ元年になる(゚д゚)!

中国 国家外為管理局
上の記事、多くのマスコミはほんど報道していませんが、中国経済の危機の現れの一つであり、見過ごすわけにはいかないので敢えて掲載させていただきました。

上の記事では、「一種の規制であり、影響はある。ただ、それほど厳しい制約ではなく、制限の期間を延長しない限りは、通年の取引量が変わることはないだろう」と指摘。「目的は今月のパニック買いに歯止めをかけることだけだ」と述べたとあります。

しかし、12月実績を上限に設定するというのですから、 支払いや外貨建て債務の支払は一定ではないわけですし、 外貨建て債券の償還にはドルが必要で償還はそれぞれ債券の発行日により異なるわけです。設備投資なども同様です。

 例えばある企業が、昨年1月発行のドル建て一年もの債券 償還したくでも、銀行がドルを売ってくれないということもあり得るわけです。さらに、外資系企業は通常決算に合わせ母国に資金を送るわけですが、これも出来企業もでてくると思います。

このような規制を入れたことにより、企業は、外貨を国内に持ち込まず海外に貯めこむことになるでしょう。 そうなったとすると、国家外為管理局の思惑は外れ、さらに外貨が失われる一方になる可能性が高いと思います。また、さらに地下銀行の利用がさかんになることでしょう。

このような他国では考えられない、恥も外聞もないような行動をとるということは、もはや中国では、一見合理的であり、良さそうにも見えた、自由経済と計画経済のいいとこ取りでもある国家資本主義体制 が破綻しつつあるとみるべきです。

こんなことをばかりしていれば、さらにリスクが高まり、市場に嫌われ、中国はさらに投資対象にならなくなると思います。実際、もうそうなっています。

このようなことを繰り返していれば、ますます海外への資本流出に歯止めがかからなくなります。このブロクでは、過去にも中国の資金流出が激化していることを掲載しました。

その記事のURLを以下に掲載します。
【お金は知っている】中国金融市場の自壊は変えようがない 外貨準備は「張り子の虎」―【私の論評】馬鹿の一つ覚えの経済政策が、今日の危機を招き後は崩壊するだけ(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事は昨年9月11日のものですが、この時点でも、中国からの海外への資本流出は深刻でした。その事実を示すグラフのこの記事から以下に引用します。


このグラフをみてもわかるように、一昨年12月の時点では、資金流出はマイナスになっていました。昨年は、そのマイナス幅がどんどん伸びていました。この傾向はその後も続いています。

中国政府の外貨準備も、底をついたどころか昨年からマイナスになっています。このような状況のため、政府としても自らが、ドル獲得に躍起となっており、中国企業や、外資系企業に多少の不都合がでても、資金流失に一定の歯止めをかけるため、一部の輸出入拠点の銀行に対し、ドル買いの制限を指示したとみられます。

それでも、上記で述べたように、この措置はほんの一時のもので、資金流出の流れは留まることはないでしょう。どんどん資金が流出して、その果てには酷いデフレになることが考えられます。

実際、中国はまもなく酷いデフレに見舞われることになることでしょう。それも、深刻なデッド・デフレーションに見舞われることになります。

デット・デフレーションの理論を示すチャート

デット・デフレーションとは、企業などが抱える過剰な債務(debt)が原因となって経済が目詰まりを起こし、不況が拡がっていく現象を指したものです。消費や輸出と異なり、投資の拡大は債務の拡大と不可分です。特に中国のような投資への依存度が高い経済では、資産価格の下落などによって債務の返済が焦げ付いてしまうリスクを常に抱えているといってよいです。

経済がいったんデット・デフレーションに陥ると、まず、物価の下落などによって資産価値や投資プロジェクトの収益性が徐々に下落し、企業の債務返済が次第に困難になるため、新規の投資を控えたり、従業員をリストラしたりするようになります。この状態が長引くと「デフレの罠」、つまり企業や金融機関の連鎖的な倒産が生じ、さらに不況が深刻化する状況に陥ることになります。

このようなデット・デフレーションは1990年代のバブル崩壊後の日本経済や、サブプライムローン破たんやリーマンショック後のアメリカ経済など、20世紀末に資本が国境を越えて自由に移動するようになって以来頻繁に観察されるようになりました。しかもデット・デフレーションが深刻化した経済はかなりの長期間にわたって成長率の低下に悩まされることが多く、非常に厄介な「病」といってよいです。

日本のデット・デフレーションは日銀の金融政策の間違いによるものでした。もし、15年ほど前に、2013年に黒田体制になった日銀が行った異次元の包括的金融緩和を行ったとしたら、日本は長期にわたるデット・デフレーションに見舞われることもなく、その後も少しずつではありますが、経済成長したと思います。

しかし、中国のデット・デフレーションは金融緩和をすれば、それで単純に解消されるという性質のものではありません。背後には、構造的な問題があります。その構造的問題とは、中国経済は、投資への依存度が過度高い経済であり、さらに個人消費はGDPの35%を占めるに過ぎないというものです。

特に個人消費に関してはあまりに低すぎます。これは、日本など普通の先進国だと60%台です。米国は、70%台です。個人消費が経済の多くを支えているのが普通の姿であり、中国は異常です。投資、それも海外から投資にかなり依存する経済はこれからは、成り立ちません。これを変えないかぎり、中国のデット・デフレは長期にわたって続くことになります。

さて、中国のデット・デフレーションに関しては、詳細を述べると、長くなるので、本日はこのくらいにとどめておきます。いずれまた、改めて、詳細を掲載します。

今のところ中国のデット・デフレーションに関しては、日本ではあまり報道されていません。現状では、中国の経済が低迷しつつあるとの報道がまだメインです。しかし、今年中には、デット・デフレという言葉を遣うかどうかは別にして、これがマスコミを賑わすようになることは間違いないと思います。

そうなれば、爆買いブームも終焉すると思います。ただし、デッド・デフレと爆買いストップの間には、若干のタイム・ラグがあるというのも事実です。

日本にもタイム・ラグの顕著な例がありました。そうです。あのバブル期に設立されたと、勘違いされているジュリアナ東京です。実はジュリアナ東京は、バブル崩壊直後に設立されたものです。

ジュリアナ東京はバブルの象徴とされるが、設立されたのバブル崩壊直後
バブルが崩壊しても、それまでイケイケドンドンで来た人たちは、株や土地などで直接損をした人は別ですが、そうではない人たちは、マスコミでバブル崩壊と報道されても、それを認識できなかったり、すぐに元に戻るという感覚でいたため、バブルが崩壊した後でも、バブルの熱狂を継続していました。

中国のバブル崩壊もそうです。もうすでに不動産バブルが崩壊して、多くの人民に影響が出てくるのは必至なのですが、多くの人民はそれを認識できなかったり、すぐに元に戻るという感覚なのです。そうして、中国はすでにデット・デフレの入り口に入ってしまっているのは間違いないです。

私たちは、これから長きにわたって、中国がデット・デフレに悩まされることになることを前提として、世界を情勢をみなければなりません。

私は、そう思います。みなさんは、どう思われますか?

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