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2019年5月22日水曜日

【国家の流儀】日本企業の多くが中国に買収され、中国人経営者のもとで日本人が働き… それでいいのか? 今こそデフレ脱却に全力を―【私の論評】過去20年にもわたって世界で日本だけが経済成長しなかったことに国民はもっと怒りを顕にすべき(゚д゚)!


安倍総理は消費税増税を強行するのか

「10月に予定されている消費税率引き上げを実施すれば、デフレ脱却が難しくなるだけでなく、日本発のリーマン・ショック級の危機誘発になりかねず、増税凍結が適切だ」

 国際金融の専門家である本田悦朗前スイス大使は16日、ロイターとのインタビューの中でこう述べた。

 たった2%でも消費税増税は、景気に大きなダメージを与える。

 日本自動車工業会の豊田章夫会長(トヨタ自動車社長)は昨年9月20日、「消費税を3%から5%に引き上げた際は国内需要が101万台ほど減り、二度とそれ以前のレベルに戻っていない」と指摘したうえで、今年の消費税増税によって30万台の需要減、経済効果マイナス2兆円、9万人の雇用減につながる可能性があると訴えた。

 買い物をするたびに“罰金”を科すような消費税という制度は、日本のGDP(国内総生産)の6割を占める個人消費を縮小させてきたのだ。しかも、この個人消費の縮小とデフレが地方の衰退を加速させてきた。

 2014年の時点で、国内の企業数は382万社を数えるが、大企業は1万1000社に過ぎない。これまで380万社に及ぶ中小企業が地方経済を支えてきたのだが、このままだと、その3分の1にあたる127万社が25年までに廃業し、約650万人の雇用と約22兆円のGDP(国内総生産)が失われると言われている。実に、就業者の10人に1人が失業する計算だ。

 そこで、政府も事業承継に伴う税負担の軽減など、中小企業対策に力を入れている。アベノミクスに伴う緩やかな景気回復とともに廃業率は低下する一方、開業率は上昇して17年には5・7%と、1992年以来、25年ぶりの高水準に達した(2019年度版『中小企業白書』)。

 ところが、ここで消費税増税に踏み切ると、再びデフレ、つまり「消費税増税→個人消費の縮小→売り上げ減少→雇用や設備投資の縮小と中小企業の減少→地方経済の衰退→失業率の上昇」という悪循環が再発することになりかねない。

 しかも、このデフレの再発は「日本没落への道」なのだ。

 民主党政権の末期の12年4月、日本経団連は「グローバルJAPAN~2050年 シミュレーションと総合戦略」という報告書を出した。この中で、日本経済が今後も低迷するならば、50年時点で「中国、米国、次いでインドが世界超大国の座につく一方で、日本のGDPは中国・米国の6分の1、インドの3分の1以下の規模となり、存在感は著しく低下する」と指摘した。

 日本がデフレ脱却に成功しなければ、いずれ中国の6分の1の経済規模になりかねない。それは「日本の香港化」、つまり日本企業の多くが中国に買収され、中国人経営者のもとで多くの日本人が働くようになることを意味する。

 果たしてそれでいいのか。いまはデフレ脱却に全力を傾けるべきである。

 ■江崎道朗(えざき・みちお) 評論家。1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集や、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、現職。安全保障や、インテリジェンス、近現代史研究などに幅広い知見を有する。著書『日本は誰と戦ったのか』(KKベストセラーズ)で2018年、アパ日本再興大賞を受賞した。他の著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『天皇家 百五十年の戦い』(ビジネス社)など多数。

【私の論評】過去20年にもわたって世界で日本だけが経済成長しなかったことに国民はもっと怒りを顕にすべき(゚д゚)!

世界は過去20年で平均2.4倍の経済成長をしています。その中で20年以上全く経済成長をしなかった唯一の国が日本です。その結果、日本は世界の中で著しく存在感を低下させました。他国と比して国力を維持して行くためには、他国並みの経済成長は絶対に必要です。日本人は国力と経済成長の関係を軽視しているのではないでしょうか。以下国力と経済成長の関係を考えてゆくことにします。

国力とは

国力とは国際関係において、その国が持つ様々な要素を総合したものをいいます。要素として考えられるものは、自然、国民、軍事力、経済力、技術力等であると、ジョージタウン大学のレイ・クライン教授は次のような式を提唱しています。
国力=[(人口、領土)+(経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)]
これら諸要素の中で経済力が最も重要であると私は思います。なぜなら軍事力の内訳を見ると軍の戦闘能力(兵員数、兵器の性能、兵站基盤等)は経済力と不可分です。最近、チャイナが軍事大国になっていますが、それはチャイナのGDPが急速に拡大し、その経済力が強大な軍事力を生み出していることからも分かります。

技術力について見ると、日本は従来から技術大国でしたが、これを支えていたのは経済力でした。20年間経済成長をしなかった日本は急速に技術力を低下させています。一例を挙げれば各大学への基礎研究費は文科省が決めるのですが、日本が20年間経済成長をしなかったため、その間日本の各大学の基礎研究費は増えることなくむしろ減少しています。

研究開発費の推移 国際比較

上のグラフは「主要国の研究開発費総額の推移:名目額(OECD 購買力平価換算)」を示しています。1996年から2016年までの推移を見ると、米国は35兆円から50兆円と約1.4倍、チャイナは3兆円から45兆円と実に15倍です。EU、ドイツ、フランス、イギリスも着実に増やしています。その中で日本のみが15兆円で殆ど増えていません。10年前の2006年と比べると減少していることがわかります。

この結果、基礎的な研究、例えば、国際的な論文数、特許件数等、国際的技術力評価で日本は劣勢となっています。


分かり易いのが上の表です。引用される頻度の高い論文数の推移ですが、2002年ごろまで日本は世界第4位であったのが、10年後チャイナだけでなくイタリアやスペインにまで抜かれ10位に転落しています。おそらく最近はもっと順位を落としているのではないかと、情けない気分になります。

論文の数に代表される日本の基礎的な技術力は急速に落ちているようです。精神力だけではどうにもならないのです。世界は平均で約2.4倍の経済成長をしており、各国の研究費は数倍に増えている。日本も他国並みに経済成長をして研究費を増やしていかなければ、早晩技術力を失い、先進国から脱落することになるでしょう。

国力とは経済力

誤解を恐れずに言えば、技術力の例でも分かるように、国力=経済力と言っても間違いはないと思います。政治力、外交力、軍事力、技術力、文化力もその根底には経済力があるのです。

つまり国力の最も基盤のところにあるのが経済力なのです。その大事な経済力が日本の場合、20年以上にわたり停滞していたのです。この責任は政治にあるのは当然ですが、一方で国民にもその責任があるのではないかと思います。

日本は民主主義国です。国民に主権があるのだから、政治が間違っていれば国民が声を上げそれを正さねばならないです。経済の本質を国民が理解していれば政府・財務省・日銀や誤れる経済学者らの誤りに気付いて、これを正すことが出来た筈です。

無論、一部の人たちは、これに対して意見を述べたり、抗議をしていました。私はそれを否定するつもりはありません。しかし多くの国民は20年以上声を上げませんでした。国民も経済の本質が分かっていなかったようです。それこそが本当の問題なのでしょう。

豊かさを取り戻そう

経済の目的は経世済民、即ち国民を豊かに幸せにすることです。憲法第13条にすべての国民は幸福追求の権利があり、政治はこれを最大限尊重すべしとあります。その観点から過去20年間の日本の政治を見ると、完全に失敗だったと言えます。

20年間経済成長をしなかったと言うことは、20年間日本国民の所得が増えなかったと言うことなのです。安倍政権になり多少持ち直していますが、それでもピークの時より国民の所得は減少しています。言い換えれば国民は貧乏になっているのです。このことを指摘する識者は少ないです。

国民が幸せに感じるのは、今日より明日、明日より明後日、所得が増えることで実感するのです。日本の政治は20年間、国民からこの豊かさを奪ってきたのです。今からでもよいプライマリーバランスの達成・緊縮財政などと言うインフレ対策をやめ日銀がさらなる金融緩和を実施し、財務省が財政支出を増やし需要を喚起するという正しいデフレ対策を実行すべきなのです。

今年の10月に増税などやっている場合ではありません。そうしてデフレを脱却すれば他国並みに経済成長が可能となります。国力の元は経済力、経済力の指標は経済成長・GDPの増加であることを認識し、財務省や経済学者のいう「国の財政赤字で財政破綻」という大嘘に騙されることなく、正しいデフレ対策を早く実施すべきなのです。一日も早く政治家は勿論のこと国民が目を覚ますことを願ってやまないです。

以下のグラフは世界主要国が過去20年間にどれだけ経済成長をしたか示したものです。チャイナは13倍、インドは5.7倍、イタリア、ドイツは1.4倍、日本は1.0倍であることが分かります。日本だけ全く成長していないのです。このグラフを見て怒りを感じない日本人が多いのには驚きです。



この期に及んで、未だに増税しようなどと言っている政治家や官僚に対して私達はもっと怒るべきなのです。多くの人々が、幸福をなかなか実感できないとすれば、そのほとんどは自己責任ではなく、実はデータが示すように、少なくとも過去20年間については、大部分が政府の責任なのです。日本人は奥ゆかしいところがあり、なかなかそのようなことはいいませんが、現実はそうなのです。

それは以下のグラフ自殺者数の推移からみてもうかがえます。


最近は、安倍政権が成立してから、自殺者数は2万人台ですが、デフレが深刻だった時期は、毎年の自殺者数のが3万人台で推移していました。

経済政策のまずさは、科学技術の発展を遅らせるだけではなく、人の命まで奪うです。これについては、以前このブログにも詳細に掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“安倍辞めろ”の先にある「失われた20年」とデフレの再来 雇用悪化で社会不安も高まる―【私の論評】安倍首相が辞めたら、あなたは自ら死を選ぶことになるかも(゚д゚)!
自民党候補の応援演説を行った安倍晋三首相=17年7月1日午後
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、ソ連崩壊後のロシア政府の経済政策がまずすぎて、いっとき男性の平均寿命が、57.6歳にまで落ち込んだことがあります。これは、自殺者やアルコール依存症が増えたためです。経済政策のまずさは、人を殺すこともあるのです。

先に、国力=経済力と言っても間違いはないと書きましたが、経済はいっとき悪くなったにしても、極端に悪くならなければ、優秀な人が存在すれば、いずれ復活することはできます。しかし、人がいなくなれば、それもかないません。

ちなみに、冒頭の記事の江崎氏は、日本経済が今後も低迷するならば、50年時点で「中国、米国、次いでインドが世界超大国の座につく一方で、日本のGDPは中国・米国の6分の1、インドの3分の1以下の規模となり、存在感は著しく低下する」という事実をしてきしています。

この中にロシアはでてきません。どうしてかといえば、現在のロシアの経済規模は、かなり縮小して、GDPは日本の東京都を若干下回っているからです。これは、韓国を下回る水準です。このロシアが今後日本をしのぐような経済大国になることはないです。

やはり、人を大事にしなかったつけがまわって来たのではないかと思います。人を大事にするためにも、経済を落ち込ませせるとか、デフレにしてはいけないのです。

なにやら、日本では、デフレが当たり前になってしまっていますが、日本が過去にデフレでさえなけば、日本も他の国々の平均くらいの成長ができたはずなのです。デフレは、通常の経済循環を逸脱した経済の病です。

通常の経済循環では、良い時と悪い時が交互に訪れます。常時良い状態を保つことはできません。しかし、デフレは悪い状態ではなく、明らかに異常な状態なのです。デフレになっても、物価が下がるのは緩慢なので、多くの人々はなかなか気づきませんが、これは人間の病気でいえば癌のようようなものです。放置しておば、徐々に病気が進行して、取り返しがつかないことになります。

放置することは許されません。しかし、過去には放置するどころか、増税したり、金融引き締めをするというとんでもない対処法してきたのです。これは、病人や老人に対して、休みを与えないどころか、過度な運動を続けさせるようなものです。

こんなことをすれば、経済が伸びることはありません。もし少なくとも、日本が他国のような政策をとらなくても、増税や、金融引き締めなどの余計なことをせずに何もしなければ、日本はまだまだ成長していたはずです。日本はデフレから脱却さえできれば、これからかなり伸びるのは確実です。

これらのデータをみれば、これだけ、日本では過去の経済政策の失敗が明々白々なのに、また増税などと誤った政策を実行すれば、日本はまたデフレから脱却できず、同じことの繰り返しになってしまうことは明らかです。そのようなことをさせて良いはずはありません。

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2017年5月16日火曜日

実は不動産会社だった? 日本郵政が野村不動産買収との報道、その狙いは―【私の論評】官製企業から再度完全民営化しなければこれかも失敗し続ける(゚д゚)!

実は不動産会社だった? 日本郵政が野村不動産買収との報道、その狙いは

日本郵政が不動産大手の野村不動産を買収するとの報道が出ています。郵便局が不動産会社を買収するというのはピンと来ませんが、どのような意図があるのでしょうか。


 各種報道によると同社は野村證券グループの不動産会社である野村不動産に対してTOB(公開買い付け)を実施する方向で検討を進めているそうです。野村不動産は大手デベロッパー5社に入る企業で、「プラウド」というブランド名でマンションを展開しているほか、オフィスビルの運用を行っています。

 郵便事業を営む会社が不動産会社を買収というのはあまりピンと来ませんが、郵便事業の半分は不動産業ともいえます。全国に郵便を届けるためには、各地にその拠点を備える必要があり、日本郵政は2万カ所の郵便局を所有しています。

 また同社はもともと国営の事業だったこともあり、逓信病院などの医療施設、かんぽの宿といった宿泊施設など、民間では考えられないような多数の不動産を抱えています。所有する土地の面積は東京ドーム5万5000個分にもなり、建物などを加えた固定資産の総額は3兆円に達します。

 同社はNTT以来の超大型銘柄として鳴り物入りで上場を果たしましたが、郵便事業は縮小が余儀なくされており、今後の成長シナリオを描く必要に迫られています。

 しかし、現実はそう簡単ではありません。2015年5月に6200億円もの巨費を投じて買収したオーストラリアの物流会社は、予定の業績を達成することができず、はやくも4000億円の損失が発生している状況です。海外事業で躓くということになると、選択肢は日本国内にある不動産の有効活用しかありませんが、日本郵政には不動産運用に関するノウハウはほとんどありません。野村不動産をわざわざ買収することにはこうした事情があると考えられます。

「プラウド」というブランド名でマンションを展開している野村不動
 野村不動産の株式を過半数取得するということになると、最低でも2000億円以上の資金が必要となりますが、15兆円以上の純資産を持つ日本郵政からすれば微々たるものでしょう。

 買収による増益効果についても、野村不動産の売上高が全額連結決算に反映されたとして数%という程度ですから、業績への影響は軽微です。重要なのは、野村不動産のノウハウを今後、どのように自社の不動産運用に活用できるのかというところに絞られてくるでしょう。

 日本郵政が野村不動産を買収すること自体は不自然ではありませんが、海外の物流会社を買収して損失を計上したかと思えば、今度は国内の不動産会社を買収するなど、収益拡大に向けて無軌道に会社を買い続けているという印象は否めません。経営陣の戦略性がより厳しく問われることになるでしょう。

【私の論評】官営企業から再度完全民営化しなければこれかも失敗し続ける(゚д゚)!

日本郵政については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本郵政 豪物流事業の業績悪化で巨額損失計上か―【私の論評】財務省御用達人材が、東芝、日本郵政を駄目にした(゚д゚)!
この記事では日本郵政の業績悪化の原因と思われるものについて掲載しました。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にそれに関わる部分のみ掲載します。
日本郵政の社長は、元東芝の社長であった西室泰三氏です。東芝も西室氏のころから危なくなりました。日本郵便は事業や投資に関しては、官僚だけの素人集団です。これでは先行きかなり厳しいです。ちなみに西室氏が日本郵政社長になった当時の日経はかなり高く評価していましたが、どうしてそうなるのか理解できません。以下にその紙面を掲載します。
郵政民営化を簡単に振り返ると、小泉政権の時に民営化法成立し、民営化が実施されました。ところが、民主党政権になって民営化を否定し実質上「再国有化」されました。

郵政民営化のときには西川氏が本当に民間会社にするつもりで、大量の民間人を引き連れてきました。ところが、再国有化されると、西川氏とその仲間の多量の民間人は追いだされ、財務省御用達の西室氏だけがトップで来て、周りはほぼ官僚だけとなりました。これでは、海外投資業がうまくいくはずがありません。
以上のように、日本郵政の業績不振は、まずは西室氏の経営者としての能力が低いこと、さらには現在の日本郵政の幹部は西室氏を除いてすべて元官僚によって占められていることです。

さて先週末のニュースで意外性があったのは、この報道です。野村不動産ホールディングスの時価総額は約4000億円。この株式の一部あるいは全部を日本郵政が取得し、不動産開発事業を加速させる狙いがあります。

日本郵政は土地保有額の上場企業ランキングで6位に入っています(下のグラフをご覧になってください)。しかも、郵便局などの土地建物は、鉄道のターミナル駅近くにある場合が多く、都心の一等地の不動産を、有効活用できれば収益性を高めることができます。



有名な例では、東京駅の前に出来たJPタワーがあります。かつての東京中央郵便局を再開発し、大型商業施設として生まれ変わりました。また名古屋駅前にもJPタワー名古屋を開業し、博多でも同様の商業施設が博多駅前にオープンしています。

昨年、200兆円の資産を保有するゆうちょ銀行が、今後5年程度で、国内外の不動産や未公開企業などのオルタナティブ投資と呼ばれる資産に、最大6兆円を資産配分すると報道されました。ゆうちょ銀行の資産運用は金融資産が運用対象の中心で、その中でもリスクの低い国債が過半を占めていました。日銀がマイナス金利を導入したことで、運用利回りの低下が大きな経営課題になっています。

不動産開発や不動産投資事業は、日本郵政が従来手掛けてきた、郵便事業や金融資産を中心とした資産運用とは、異なるノウハウが必要です。社内で人材を育てていては間に合わないので、不動産会社を買収することで、新事業の経営ノウハウを一気に手に入れようということです。

日本郵政が保有する土地が、マンション開発などに活用されれば、住宅供給が増えて需給にとってはマイナスの影響が予想されます。一方で、JPタワーのような商業施設が駅前に開業すれば、その駅の周辺の開発が加速され、不動産価値の上昇というメリットが出るかもしれません。

今後不動産有効活用を検討する大手企業が追随する可能性もあり、国内不動産事業への注目が高まることは確実です。唐突な感じがした、今回の買収記事ですが、買収価格はともかく、有休不動産保有企業と不動産開発業者の組み合わせという点で、シナジーが期待できます。

買収額は数千億円規模といわれます。日本郵政は全国2万以上の郵便局をはじめ多くの不動産を保有していますが、不動産ビジネスのノウハウはなく、いわば宝の持ち腐れでした。今回の買収劇からは、不動産業を経営の柱に据えたいという意気込みが伝わってきます。

日本郵政も不動産開発には全く無関係だったというわけではく、2007年の民営化後、東京駅前の商業施設「KITTE(キッテ)など不動産開発を手掛けてきました。ただ、遊休地の活用など経営課題は多いです。

日本郵便初の商業施設「KITTE(キッテ)」
日本郵政は17年3月期に約400億円の最終赤字を見込んでいます。15年に買収したオーストラリアの物流大手トール社に絡み、4000億円以上の減損を計上するためです。こうしたマイナスイメージから脱却するため、成長性のある不動産ビジネスへの進出をブチ上げたのでしょう。

上でも掲載したように、西室氏は東芝時代に、米ウェスチングハウス社の買収に暗躍し、日本郵政では豪トール社買収を主導しました。両案件とも巨額損失につながっただけに、西室氏の責任を問う声大きいです

実は、野村不動産と東芝の関わりは深いのです。08年、野村不動産が東芝不動産(現NREG東芝不動産)の株式65%を取得し、子会社化しています。当時、西室氏は相談役でしたが、東芝社内への影響力は絶大でした。

NREG東芝不動産は、人気の商業施設として知られる「ラゾーナ川崎プラザ」(川崎市)を開発。隣は、東芝未来科学館の入る「ラゾーナ川崎東芝ビル」です。

ほぼ10年前に野村不動産グループとなった「東芝ビル」を、日本郵政が手に入れようとしている。そこかしこに東芝のドンのカゲがチラつきます。

とはいえ西室氏はすでに経営の第一線から退き、療養中だとされています。今回の日本郵政による野村不動産買収に口出しするとは思えません。しかし、本当はどうなのか外部からうかがい知ることはできません。

そうして、今後の不動産業界を考えると、不安がよぎります。

リーマンショック以降、不動産業界ではマンションの価格下落、ビルの空室率上昇、賃料の下落、不動産投資市場の低迷など暗いニュースが続いていました。しかし、ここ最近は、東京オリンピックの開催が5年後に迫ってることもあり、東京都心部の一部では活発に不動産取引が行われています。

一方、地域別にみると苦戦を強いられているエリアが存在するのも事実であり、都心部と地方の格差は拡大するばかりです。
また、一部の業者による「物件の囲い込み」の実態が明るみになったりと何かと世間を騒がせているのもこの業界ならではないでしょうか。オリンピックが開催する2020年までには、海外投資家が投資した東京都心部の収益物件が次々と売却される恐れもあるため、今以上に不動産市場の需要と供給のバランスが保てなくなる可能性も否定できません。

国立社会保障・人口問題研究所による推移において、市区町村別の数値が公表されるのは人口だけで、残念ながら世帯数は都道府県別にとどまります。2013年3月に公表された市区町村別人口推計を見ると、2040年の人口が現在の半数を割込むところも少なくないです。中には3分の1程度まで減少する町村もあるようです。


もちろん東京都でも、人口減少とは無縁でいられません。2040年の人口が2010年より増えると予測されているのは以下だけになります。

【東京都】
中央区、港区、新宿区、墨田区、江東区、練馬区、三鷹市、東村山市、稲城市の6区3市、それにもともとの人口が少ない御蔵島村だけです。
【大阪府】
大阪市の西区、天王寺区、鶴見区、北区の4区、大阪府下では田尻町のみが増加となっている。また、大阪市内には2割以上の人口減少が見込まれている区も多いようです。
【愛知県】
名古屋市で守山区と緑区だけが増加なのに対して、その周辺では安城市、大府市、高浜市、日進市、みよし市、長久手市、東郷町、豊山町、大口町、大治町、幸田町が増加すると予測されています。
いずれにせよ大都市圏でも大半の市区町村で人口の減少が避けられず、それに数年ずつ遅れながら世帯数の減少も進行していくことでしょう。人口および世帯数の減少は街の活気を奪い、不動産市場も次第に縮小していくことでしょう。現在もすでに住宅の数が充足し、逆に家余りが社会問題となっています。2014年7月に総務省が発表したデータによると、日本全国では820万戸空き家があり、空室率は13.5%まで上っているのです。

国内における人口の減少、それに続く世帯数の減少は、不動産業界のあり方も大きく変えることになります。

市場規模の縮小を見越して、一部の住宅メーカーはすでに海外の不動産市場へ参入を始めているほか、国内では住宅ストックの活用に軸足を移している例も多いです。

また、単身者世帯、高齢者世帯の割合の増加に合わせた商品企画も求められます。特に2020年からは、単身者世帯が最も多くなります。以下のグラフをご覧になって下さい。
今後単独世帯、夫婦のみ世帯が増加する見込み

2020年には大半の都道府県で単独世帯がもっとも多い家族類型に
間取りの変化だけでなく、留守の時間が長くなりがちな単身者世帯のセキュリティ対策、高齢者向けのバリアフリーなど普段の生活が快適に過ごせるような工夫も重要になるでしょう。さらに、顧客と長くお付き合いができる体制を作らなければ、需要が減退していく社会の中で生き残ることは困難です。

一棟マンション・アパートにはじまる収益物件をメインに扱う不動産会社であれば、「投資」という部分にフォーカスした、より高い知識が営業担当者に求められます。

投資家が求めているサービスを提供するためには、投資アドバイザーという立場から、不動産以外に資産全体の組み替えを含むポートフォーリオのアドバイス、実際の買収・売却請負、財務分析、資産評価などを行うほか、投資内容や投資先の分散、投資期間の設定などについて工夫し、助言することが要求されるようになるでしょう。

新築分譲を手掛ける不動産会社であれば、販売後のアフターサービスがますます重要になるでしょう。それも従来のような物件の定期点検や保証といった範囲にとどまらず、入居後の生活全般に対するフォローが欠かせなくなります。インテリアのアドバイスやリフォームの提案、さらに将来の売却、場合によっては子育て相談や生活相談まで、住まいに関するトータルサービスを提供することが求められます。

不動産仲介会社であれば、整備されつつある中古住宅流通市場の中で、他社より「優れたサービス」を考えることが重要です。契約時における的確な情報提供や物件調査のスキルアップはもちろんのこと、これまでのように「物件の引渡しが済んだらそれで終わり」というスタンスからは卒業しなければならなくなります。入居後の生活全般をトータル的にサポートする等、従来の不動産業からの脱却を目指すことも必要になるでしょう。

株式上場計画について記者会見する日本郵政の西室泰三社長(当時)=2014年12月26日

このように将来の不動産業界の変化を見通すことは、原子力産業の将来を見通せなかった、西室氏には到底無理なことです。そうして、現在日本郵政の幹部のほとんど占めている官僚出身者にも到底無理です。

さて、日本郵政の不動産事業はこれからどうなるかは、わかりませんが、まずは野村不動産買収に成功した場合、まずはどのような人事政策をとるかが鍵になると思います。

野村不動産の運営には、西室氏や官僚出身の幹部らは一切かかわらず、金や資産を差し出すことはしても、運営には一切口を挟まないという体制が築かれれば成功する見込みも少しはあります。

現在は、2016年4月1日付で、西室泰三日本郵政社長の病気による退任に伴い、ゆうちょ銀行の代表執行役社長職を退き(取締役としては留任)、後任の日本郵政取締役兼代表執行役社長に就任しています。

ただし、現状をみてみると、どうも疑問です。そもそも西室氏のように経営力に不安のある人物しかリーダーになれなかった日本郵政の体質にも問題があるといえるでしょう。実際のところ、本当に優秀な経営者であれば、政府が株式を保有しているために制約が多い会社に来ようとは思わないでしょう。

仮に一人あるいは数人の優秀な民間経営者が来たとしても、野村不動産を買収できたとしても、周りを元官僚で固められています。頭だけ民間に代えても、首の下は官営企業そのものです。

そうして、西川氏更迭のときに追放された民間人も悲惨な待遇を受けています。そのときは西川氏の尽力で救済された人も多いそうですが、これは彼にしかできない芸当でもあります。

この顛末をよく知っている経営者は、日本郵政のかじ取りに二の足を踏んでしまいます。民間から人を連れてくれば、このような憂き目にあうかもしれないということになれば、二の足を踏まざるを得なくなります。こうした何重もの制限がある日本郵政が赤字になるのは当然のことです。これからも、今のままでは、失敗することは目に見えています。

方法としては、もう一度完璧な民営化を目指すこと以外にはありません。

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2015年12月13日日曜日

消えた中国の富豪…新たなチャイナリスクが露見 当局拘束で「星野リゾートトマム」買収に暗雲―【私の論評】企業買収成功の5つの原則を知らない中国の投資をあてにしても、万に一つも成功する見込みはない(゚д゚)!

消えた中国の富豪…新たなチャイナリスクが露見 当局拘束で「星野リゾートトマム」買収に暗雲

郭広昌氏

中国有数の民間投資会社「復星集団」の会長で、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏(85)になぞらえ「中国のバフェット」とも呼ばれる郭広昌氏(48)が、10日から当局の拘束下におかれ、周囲と連絡が取れなくなっている。(SANKEI EXPRESS)

中国メディアが報じたもので、これを受けて関連株が軒並み下落。上海証券取引所では11日に復星傘下企業の上場株が取引停止となった。復星は日本とも関わりが深く、傘下の上海豫園旅游商城が先月、北海道占(しむ)冠(かっぷ)村(むら)にあるスキーリゾート「星野リゾートトマム」の全株式を約183億円で取得したばかり。トマムはどうなるのか? 新たなチャイナリスクが露見した形だ。

トマム・リゾート

■「捜査に協力」火消し

郭会長は中国電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)集団の馬雲(ジャック・マー)会長(51)と並ぶ中国民営企業のカリスマ実業家として国際的にも有名だ。中国東部、浙江省の農家に生まれ、上海の名門、復旦大学を卒業(哲学専攻)。1992年に大学の同窓生4人と復星の前身会社を設立し、投資、保険、医薬、不動産など幅広い分野に事業を拡大、中国を代表する民営複合企業体に育てた。

中国経済誌「財新」(ウェブ版)などによると、郭氏は拠点とする上海の空港で警察に連れて行かれた。ただ、何らかの嫌疑で自身が捜査対象になっているのか、単に参考人として事情を聴かれているのかは不明で、復星の広報担当者はメディアに「『捜査協力』で警察に呼ばれているだけで、(郭氏は)『適切な手段』を通じて社の主要な決定に関与できている。上海上場の関連株も、14日には取引が再開される」と語った。捜査協力の内容についてはノーコメントとしている。

■無罪に「不公平」

上海市では現在、艾(がい)宝(ほう)俊(しゅん)副市長(55)が「重大な規律違反」をしたとして中国共産党の中央規律検査委員会から取り調べを受けており、これに関連しているとの報道もある。

上海市艾宝俊 上海副市長
 また、郭氏は今年8月、中国国有の光明食品集団の会長だった王宗南氏(60)の親族による不動産取得で便宜を図り、王氏から何らかの見返りを得ていた容疑で警察に事情を聴かれている。この際、贈賄罪に問われた王氏には懲役18年の実刑判決が下ったのに対して、郭氏は無罪放免だったことから、「不公平」との声が国民から上がっていた。

■民間摘発を強化
腐敗追放を掲げる中国の習近平指導部は、これまでは主に党幹部や高級官僚の摘発に力を注いできたが、今年前半の株価暴落を機に、金融業界などを重点に民間分野へも追及の手を伸ばしている。今年後半からは、企業経営者が突然、当局に拘束され姿を消すケースが頻発。個人資産57億ドル(約6900億円)の郭氏の場合は、初の大物拘束であり、摘発強化を示す習指導部のサインとも受け取られている。

だが、本格的な郭氏摘発となれば、影響は甚大だ。復星は最近は国際展開にも積極的で、日本のトマムだけでなく、フランスのリゾート施設運営会社「クラブメッド」を買収したほか、ギリシャのジュエリーブランド「フォリフォリ」、カナダのサーカス劇団「シルク・ドゥ・ソレイユ」などにも出資。東京や米ニューヨーク、英ロンドンなどでランドマーク的な大型オフィスビルを相次いで手に入れている。

異形の国「中国」とビジネスでパートナーを組むには、どこまでも慎重さが必要だ。

【私の論評】企業買収成功5つの原則を知らない中国の投資をあてにしても、万に一つも成功する見込みはない(゚д゚)!

中国人の経営者にはもともと、問題がありました。その問題とは、中国は以前は共産主義、その後は国家資本主義体制という体制をとってきたことです。そのため、中国には普通の資本主義国、自由主義国の中での商売を経験するものはほとんどいません。

このブログでも、何度か掲載してきたように、中国では民主化、経済と政治の分離、法治国家化がなされていません。今の中国の体制は、国家が経済に深く関与する、国家資本主義体制にあるといえます。

そうして、中国の現状の個人消費が、GDPに占める割合は35%に過ぎません。これは、日本をはじめとする先進国では60%台が普通です。アメリカに至っては70%台です。先進国では、企業経営というと、顧客を第一に考え、顧客のことが本当に理解できれば、すぐにも経営者になって成功することができます。

しかし、中国は違います。中国のGDPの多くは、政府が国内外から資金を集め、インフラに投資することで得られたものです。そのためでしょうか。中国人の経営者には、顧客が大事とか、事業の本質とは顧客を創造することであるとの認識は希薄です。

そんなことよりも、政府の官僚(中国には選挙がないので、厳密な意味では政治家は存在せず存在するのは官僚のみです)と人脈を築くことのほうが重要です。

実際に、金をばら撒く権限のある権力者と強力な人脈を築くことができれば、顧客など無視しても、事業は大発展します。しかし、せっかく権力者と強力な人脈を築くことができても、その権力者が失脚したり、主流派でなくなってしまえば、事業は破綻したり、伸びなくなったりします。

郭広昌氏も、習近平もしくはそれに連なる人脈を構築できていなかったということが、今回の拘束劇に繋がってるのだと思います。

これでは、日本をはじめとする先進国のように、そもそも、事業というもかのが顧客の創造であるなどというまともなことを考える経営者は育ちません。

だから、中国の経営者は、顧客などあまり重要ではなく、権力者にいつも顔を向けて商売をします。そのため、中国では、先進国で普通と思われているような経営者は、ほとんど存在しません。

そうして、さらに2011年あたりから中国人経営者の異形ぶりが非常に目立つようになっていました。

①高級経営幹部の大量退社が常態の中国

ある大手中国メディアの記者の調査では、2011年7月の1か月間だけで、A株上場会社の高級管理者が合計88名辞職していました。ここでの高級管理者とは、董事長、董事、監事、総経理、副総経理など、会社の重要幹部を指します。

これらの高級管理者には、自社株を保有している者が多く、そして2人以上で一斉に退社したという共通の現象がありました。これらのことから、巷ではこの高級管理者たちの大量退社は、「自社株の売り抜け準備」ではないかと言われていました。

中国では、「自社株を持っている高級管理者は、上場後1年以内にはそれを譲渡することができない」という法律があります。したがって高級管理者が早く自社株を譲渡し、大儲けしようするならば、会社を辞職すること、つまり自分の会社を放り出し、縁を切ることがもっとも手っ取り早いのす。

今に至るまでその傾向が続いています。最近では、事業環境の悪化から、それを最後の金儲けの手段と考えている経営者も多数存在しました。

②経営者の経営意欲の減退とモラルの崩壊
中国の企業の現場では高級管理者が、10年以上前からいわゆる財テクに走っていました。それはあたかもかつての日本がバブル経済のときに、企業の幹部が財テクに血眼になっていたのとまったく同様のようです。

しかし中国では事態はもっと深刻です。なぜならそれは企業が5重苦と呼ばれるような経営環境に置かれており、実業では業績を維持することがきわめて難しくなっているところから、苦肉の策として行われているからです。ちなみに5重苦とは、労働争議の頻発(人手不足)、人件費高、金融難、電力不足、原材料高です。

5重苦の中でも、とりわけ経営者から経営意欲を奪っているものは、労働争議の頻発でした。労働争議が特に頻発するようになったのは、2007年末の労働者絶対有利の新労働契約法の施行に端を発しており、それが人手不足という状況下で起きているため、ひとたび労働争議が生ずれば経営者はほぼ完璧に負ける結果となってしまいました。

そしてその後、経営者は労働者に足下を見透かされ、譲歩に次ぐ譲歩、妥協に次ぐ妥協を余儀なくされるようになりました。そうして、企業内では労働者と経営者の地位が逆転し、労働者は経営者を見下すようになり、経営者の威光も意向も労働者にはまったく通じなくなりました。

一般に中国人は面子を大事にすると言われています。ことに中国人経営者は立派な部屋でふんぞり返っている人が多いです。日本人のように「便所掃除を日課としているような経営者」、つまり「労働者に頭を下げることに抵抗がない経営者」などいません。

それが今では、営々として築いてきた自分の会社で、自分が給料を払っている労働者に頭を下げなければならない事態となっています。これが中国人経営者にとってはもっとも屈辱であり、経営意欲をなくさせている元凶です。

より先鋭化した中国のストライキ
今の中国人経営者は「人を使う実業」を嫌い、「人を使わなくてもよい虚業」に精を出すようになっています。新聞の広告を見ても、一時大流行したMBAの広告は激減し、株やマンションなどの勉強会の広告が目立つようになりました。

真剣に経営を勉強しようとする経営者が減り、手っ取り早く投機で儲けようとする経営者が増えていることを示します。また手持ち資金をなんらかの形で裏金融に回し、巨利をつかもうとしている経営者が多くなっています。今や、中国人経営者は地道に実業で利益を出すことを諦め、企業の存続の道を虚業の世界に追い求めているのです。

先に述べたように、元々、社会主義を標榜してきた中国、現在は国家資本主義である、中国には、本物の経営者は育っていません。なぜなら元来、社会主義社会には資本家や経営者がいなかったからである。皮肉なことに、かつての中国には「資本主義社会は資本家と労働者という2種類の人間で構成されており、それは敵対的階級として存在している」という共産主義思想はあってもその実態は存在せず、したがって労働者の造反という事態もなく、現下のストライキに対処する経営者の思想的準備もありませんでした。

また資本主義社会で「労働者の敵」として生き抜き、その中で培って来た経営者の知恵やモラルは、にわか仕立ての中国の経営者には根付きませんでした。それが、今、中国のすべての経営者を虚業に向かわせてしまうという事態を生じさせています。

今、中国では経営者が経営意欲をなくし、その結果、経営モラルが音を立てて崩壊しています。

郭広昌氏も例外ではありません。そもそも、彼は経営者でも投資家でもなく、投機家とみるべきでしょう。中国のいわゆる、投資家といわれる人々は、他国では単なる投機家とみられる人々がほとんどです。中国の経済発展そのものが、他国のようにかなりの部分が個人消費に向けた実業というのとはかなり異なるものです。

そうした中で、郭広昌氏は、中国民営企業のカリスマ実業家ともてはやされていますが、企業経営者などからは、ほど遠い、単なる規模の大きな投資をする博打打ちにすぎないのだと思います。

そうして、中国の投資は、あらゆる方面で失敗をしています。日本のトマム・リゾートへの投資も、彼にとっては単なる投機の対象に過ぎないのだと思います。

ちなみに、中国の対外投資は、ほとんど成功していません。結局のところ、中国ではインフラ投資一つとってみても、国の発展とか、国民のためというより、政府の都合、あるい政府に連なる人々が儲けるために実施するのであって、明確な目標も目的もないのだと思います。それでは、そもそも、

さて、経営学の大家である、ドラッカー氏は「事業上の目的による企業買収に成功するには5つの原則がある」としています。その意味するところをドラッカー氏の書籍『マネジメント・フロンティア』より抜粋して、以下に掲載します。


事業上の意味のない企業買収は、マネーゲームとしてさえうまくいかない。事業上も金銭上も失敗に終わる。企業買収に成功するには5つの簡単な原則がある。
ドラッカーは、40年にわたる企業観察の結果、すでに1980年代の初めに、企業買収に成功するための5つの原則を「ウォールストリート・ジャーナル」に発表しています。

しかし、当時はよいことを聞いたと喜んでいた米国の企業家たちが、いざとなると、それら5つの原則を守れずに失敗していった。そして、今日も、相変わらず失敗し続けています。

ドラッカーのいう、事業上の目的による企業買収に成功するための5つの原則とは以下の諸原則です。
 第1に、企業買収は、買収される側に大きく貢献できる場合にのみ成功する。問題は、買収される側が買収する側に何を貢献できるかではない。買収する側が貢献できるものは、経営能力、技術力、販売力など、さまざまである。 
 第2に、企業買収は、買収される側と共通の核がある場合にのみ成功する。共通の核となりうるものは、市場であり、技術である。あるいは、共通の文化である。 
 第3に、企業買収は、買収する側が買収される側の製品、市場、顧客に敬意を払っている場合にのみ成功する。やがて、事業上の意思決定が必要になる。そのとき、製品、市場、顧客への敬意がなければ、決定は間違ったものとなる。 
 第4に、企業買収は、買収される側に、1年以内にトップマネジメントを送り込める場合にのみ成功する。マネジメントを買えると思うことは間違いである。社長だった者が、事業部長になって満足し切れるわけがない。 
 第5に、企業買収は、最初の1年間に、買収される側の者と買収する側の者を、多数、境界を越えて昇進させる場合にのみ成功する。買収を、歓迎されるものに仕立て上げなければならない。 
 少なくともニューヨーク株式市場は、60年代のコングロマリット熱から目を覚まして以来、企業買収に関する5つの原則の重要性に気づいている。買収のニュースによって、買収する側の株価が大幅に下落することが、あのように多いのはそのためである。
この原則は今でも変わりありません。多くの投資家が、安易に企業買収を行って、今でも失敗し続けています。成功した買収では以上の原則が貫かれています。中国の郭広昌氏を含む投資家は、上記の5つの原則などそもそも、知らないでしょうし、過去の失敗から学んでいるということもないでしょう。企業をあたかも、モノのようにしか考えていません。

そのためでしょうか、中国の投資は、国内でいっときうまくいったようにも見えましたが、最近ではその不味さが露呈するようになりましたし、中国以外の国々ではほとんど大失敗しています。

そもそも、中国以外の国では、かつて中国がやったような、人民など全く考慮することなく、政府やそれに連なる人たちの都合を再優先した強圧的投資などうまくいかないばかりか、最近では中国国内でも、うまくいかなくなり、不動産バブル崩壊、株式下落、金融の空洞化を招いているです。

トマム・リゾートの冬のイベント。経営者から従業員にいたるまで、
「おもてなしの心」がなければ、リゾート運営などできない
日本のような先進国で、商売の根本を全く理解しない、郭広昌氏が、トマム・リゾートに投資したとしても、結局はうまくいかず、失敗に終わるだけでしょう。

中国の投資をあてにして、日本国内で商売をしようとしても、以上のようなことから、全く無駄であることが良く理解できます。

異形の国「中国」とビジネスでパートナーを組んで、成功できる見込みは万に一つもありません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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