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2020年7月24日金曜日

【コロナ後の世界】「裸の王様」習主席の最終手段は戦争!? 国際的に四面楚歌も“強硬路線”展開の矛盾 — 【私の論評】中国は総力戦はしないが、6つの不可避な戦争のいずれかに挑戦する可能性は十分ある!(◎_◎;)

【コロナ後の世界】「裸の王様」習主席の最終手段は戦争!? 国際的に四面楚歌も“強硬路線”展開の矛盾 

沖縄県尖閣諸島
 三流の指導者は、行き詰まると戦争に打って出る特徴がある。

 周囲にイエスマンと茶坊主しかいない中国の習近平執行部。その失敗を冷ややかに待つのが李克強首相や、汪洋副首相ら共産主義青年団だ。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)は当初、反共の連合だった。いつしか全加盟国が中国のサプライチェーンに巻き込まれ、中国批判は希釈化した。南シナ海の領海問題ではベトナム、フィリピンが強硬だが、カンボジアなど「北京の代理人」かと思われる振る舞いである。

 東シナ海、南シナ海に戦雲が湧き、派手に展開する中国の軍事演習と米軍の対応を目撃すれば、ドナルド・トランプ米大統領のいう「台湾防衛」の本気度が試されることになる。沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵犯、接近は頻度が増した。

 しかし、中国国内事情を勘案すれば、「裸の王様」はすっかり飽きられており、「習近平よ、さようなら」というムードなのだ。

 第1は、全国人民代表大会(全人代)で、国内総生産(GDP)成長率の目標値が明示されず、第1四半期はマイナス6・8%と報告された。果たして、その程度で済むのか? 雇用が特に懸念され、李首相は「9億の労働者人口があり、雇用を守り、雇用機会を創造する」と記者会見した。

 第2は、景気刺激策を遂行するための無謀な財政措置である。

 金利の低め誘導、中小企業への融資拡大など主に企業支援政策である。新しく債務となる財政支出は合計5・5兆元(約84兆2600億円)。これは中国GDPの4・1%に相当する。

第3に、李首相の基調演説から、台湾「平和的統一」の文言が消えたことだ。

 台湾総統に再選された蔡英文氏は、就任式で「(中国の唱える)一国二制度には反対」と明確なメッセージを出した。

 尖閣諸島周辺や台湾海峡に、中国海軍の艦船が出没し、領空接近は日常の風景となった。日本の「2020年防衛白書」は明確に、中国の軍事的脅威を記載するようになった。

 中国の富裕層は、全人代で打ち出された「香港の治安維持強化」という方向に賛同を示しつつも、ホンネでは不安視し、資産をもっと安全な場所へ移管している。

 マイナスになることは分かっていても、中国は強硬路線を捨てられない。国際的に四面楚歌(そか)でも、対外活動を強硬路線で展開しなければ習政権は国内で孤立するという矛盾を抱えているからだ。

 そして、すべての矛盾をそらす最後の手段が戦争である。

 ■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。国際政治、経済の舞台裏を独自の情報で解析する評論やルポルタージュに定評があり、同時に中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書に『戦後支配の正体 1945-2020』(ビジネス社)、『「コロナ以後」中国は世界最終戦争を仕掛けて自滅する』(徳間書店)など多数。

【私の論評】中国は総力戦はしないが、6つの不可避な戦争のいずれかに挑戦する可能性は十分ある!(◎_◎;)

中国ウォッチャーとして有名な、上の宮崎正弘氏の記事では、矛盾を逸らす最後の手段としての戦争があり得ることを主張しています。

戦争というと、まず頭に浮かぶのは、台湾を武力統一することです。それに、尖閣諸島の奪取もあり得ます。これらは、日本人ならすぐに思い浮かぶことです。他には、どのような戦争があり得るのでしょうか。

昨日このブログでは、トゥキディディスの罠に嵌って、米中両国が総力戦に入ることはないであろうことと、その根拠も述べました。その上で、総力戦はないものの局地戦はあり得ることを主張しました。その事例として、米軍による南シナ海の中国軍基地への攻撃を挙げました。

本日は、その続きとして、中国による局地戦としては、どのようなものが考えられるのかを掲載します。

これに対するヒントとなるような内容が、2013年11月26日豪州戦略政策研究所(ASPI)のブログ・サイトThe Strategistに掲載されていました。豪州国立大学(ANU)のウェイド客員研究員が、中国がメディアを通して、反米感情を煽ったり、領土拡張を訴えたりしている現状を紹介して、警告を発しました。

当時ウェイド客員研究員は、中国の新書『中国は恐れない――国家安全保障への新脅威と戦略対応』を分析し、人民解放軍の戦略の一部として、軍人か否かを問わず国内の精神的引き締めを行なうと共に、中国の動を規制する外国勢力を牽制するものであると分析し、その他にも、人民解放軍が係ったと思われる映画と通信社の記事にも、同様の分析が成り立つことを主張しました。

中国の映画『静かなる競争』は、2013年10月に中国及び世界のネットに上がるや否や論争を呼びました。そして、その月の末までには、何の告知もなく、映画は中国のサイトからは削除されました。ただ、YouTubeでは見ることができましたが、今は削除されています。

映画は、米国が、5つの方法によって中国政府を転覆させようとしている様子を描いています。その方法とは、(1)政治的に中国を弱体化させる、(2)文化的浸透を図る、(3)思想戦をしかける、(4)諜報部隊を訓練する、及び(5)中国国内の反体制派を強化すること、です。全体としては、米国が中国を支配下に置こうとしているということを伝えたいようです。映画を見た中国国内の軍人や民間人は、侮辱された感情と怒りを持つだろう内容です。

映画の製作に人民解放軍は密接にかかわりました。具体的には、国防大学、中国社会科学院、及び、国家安全部の管轄にある現代国際関係研究院が、2013年初めに映画の製作に関与しました。これは、確かに、米国のアジア回帰に対応したものですが、より深い根本原因もあるでしょう。これだけ権威ある中国の諸機関が映画製作に携わったということは、そこで示された極端な感情が人民解放軍のタカ派に限られたものではないことを表しています。

2013年7月には、更に問題となる領土回復主義の記事が、中国新聞網のサイトに掲載されました。この記事は、「今後50年間に中国が戦わなければならない6つの戦争」という題名で、人民解放軍の一部に見られる超国粋主義の態度を示しています。しかし、このような記事が中国国営通信社に掲載されるという事実から、これが指導部で認められた考えであることが想像出来ます。

6つの「不可避な」戦争は、時系列で示されています。(1)台湾統一戦争(2020-2025年)、(2)南シナ海の様々な諸島の領土回復戦争(2025-2030年)、(3)チベット南部の領土回復戦争(2035-2040年)、(4)釣魚島及び琉球諸島回復戦争(2040-2045年)、(5)外蒙古統一戦争(2045-2050年)、(6)ロシアに奪取された領土の回復戦争(2055-2060年)です。

台湾に関しては、中国は、武力行使の手段を放棄したことはなく、具体的時期が示されたこともそれまではありません。偶然でしょうが、丁度この頃、台湾軍が、中国は2020年までに台湾を併合する軍事的能力を有するだろう、と発表したばかりでした。

南シナ海に関しては、現在のいざこざが戦争に発展することは想像に難くないです。3つ目の中国によるインドのArunachal Pradesh州への領有権の主張は、何十年も中印関係の棘でしたが、中国がヒマラヤのチベット文化圏のどこまでを勢力圏として主張しているかは、今だ明らかにされていません。今年の6月15日夜、ヒマラヤ高地のギャルワン渓谷で中印が衝突。報道では両国で数十人の死者が出たもようです。

尖閣諸島に対する中国の領有権の主張は、最近よく報道されるので、その状況が戦争に発展するのにさほどの想像は必要としないでしょう。今年は、現在までにすでに100日以上も中国の海警局の艦艇が、尖閣付近に出没しています。

また、モンゴルが清王朝から継承した土地に関しても、中国は領有権を主張しています。ロシアの極東地域についても同様で、多くの中国人は、そこはロシアが不当に占拠したものだと思っています。

上記の戦争は、現在の中国の政策で裏付けされたものでもなければ、極端な超国粋主義者の見解にすぎないかもしれないです。しかし、戦争によって領土を回復しなければならないという主張は、長い間中国で言われてきたことです。

中国(中華民国)政府公認の1938年「中国の屈辱」地図は、上記記事が主張する領土と驚くほど一致しています。この地図の中国が「失った」領土には、ロシア極東、琉球諸島、台湾及び南シナ海のみならず、韓国、ヴェトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、マレー半島とシンガポール、ネパール、パキスタンの一部及び中央アジアの殆どが含まれています。

「中国の屈辱」地図
中国の主張する領土が、今日の中国の国境を超えて70年以上前に遡ることや、中国の超国粋主義者の言い分を読むにつけ、我々は、これらの地域に住む人々が、恐怖を感じたり危険に晒されたりすることがないようにしなければならないだろう、と論じています。

中国の戦略は、中長期的です。上記の論説で紹介された記事のように、50年間で6つも戦争をしかけては中国ももたないと思いますが、中国人民解放軍は、ハードな軍事戦争のみならず、「三戦」(心理戦、情報戦、法律戦)と呼ばれるソフトな戦争もしかけます。更に、今日では、経済や文化も重要な手段となり、人海戦術も活用しています。

5カ年計画、10カ年計画は、中国共産党の一政権の期間であり、中国にとっての中期、長期は、50年、100年の戦略計画となります。

欧米や日本等の民主主義国は、単年度予算かつ政権も4年位の任期で(最近まで日本の政権は1年位でした)、中長期は、5~10年の計画となります。

ただ、 50年、100年の戦略計画は、たとえそれが国家による計画といえども、あまりに長期です。そもそも、そのようなスパンでは、計画当初の中共幹部のほとんどが、亡くなっているか、引退しているはずです。それに、最初の想定から、世界情勢や技術水準などあらゆる想定が異なるものなり、ほとんど無意味な計画になるでしょう。
現実的には、やはり5年〜10年の計画でしょう。このブログでは、中国海軍のロードマップを紹介したことがあります。それによれば、中国海軍は既に尖閣列島を含む第一列島線を傘下に収め、今年は第二列島線を我がものに収めることになっています。ご存知のように、尖閣諸島すら奪取できない今日、これはもうほとんど絵に描いた餅にすぎません。
私は、習近平自身もこれらの計画が計画通りに進むなどとは思っていないと思います。そんなことより、我々が危惧すべきは、プーチンによるクリミア統合のようなことが、習近平によってなされる可能性です。
2018年ロシアの大統領選挙のとき、プーチンの支持率かなり高いものでした。その4年前、ウクライナ南部のクリミアを併合したことに対する欧米からの経済制裁。そして主力の輸出品である原油の価格低迷。ロシアは当時も、厳しい経済状況を抜け出せずにいました。

国民の可処分所得は4年連続で落ち込み、最低生活費よりも低い所得で生活している人は、この4年間で400万人以上増加しました。国民の生活実感はなかなか改善されないのが現実でした。

それにもかかわらず、当時、プーチン大統領の支持率は80%台で推移。モスクワでは2017年12月、プーチン大統領を題材にした絵画や彫刻などを集めた美術展覧会「スーパープーチン」も開かれるなど、人気にかげりは見られませんでした。2018年の大統領選挙でプーチンは、通算4期目の当選を果たしました。

2017年12月開催された美術展覧会「スーパープーチン」

それは、やはり戦争を起こし、それに勝利したことが大きいでしょう。戦争は、多くの国民に愛国心を燃え上がらせる一つの手段でもあります。この戦争がなければ、あるいはこの戦争に負けていれば、プーチンは今頃引退していたかもしれません。

私は、このようなことを習近平も考えるの可能性は十分あると思います。このブログでも何度か紹介されていただいたように、中国は自国の都合で動く国であり、そもそも外交などあまり重視していません。

本来戦争は、外交手段を尽くしても解決できない他国との争いを解決するための手段の一つに過ぎないのですが、習近平は対外活動を強硬路線の最強の手段として、戦争を選ぶ可能性は十分あります。そうして、その目的は、習近平自身の統治の正統性を強化することにあります。

そもそも、習近平は、建国の父毛沢東や、経済改革を実現した鄧小平などのような大きな実績はありません。だから、統治の正統性は、どうしても弱いところがあります。

中国では、ロシアのように選挙がありませんが、だからこそ、誰の目にも明らに統治の正当性を主張し、特に共産党の中で自己の正当性を主張する必要があります。

上に掲載した六つの戦争のうち、いずれかの戦争を行い、勝利すれば、習近平の統治の正統性は飛躍的に高まり、当面大きな権力闘争などしなくてもすむようになります。

本年2020年は、中国の二つの100年計画の一つ「小康社会の全面的実現」目標の期限である建党100周年の2021年より一年前であり、もしこの時点でいずれかの戦争を行い、それに勝利すれば、習近平政権にとっては長期独裁を全党および人民に納得させるだけの効果を持つ歴史的偉業となります。

ですから、今年中にもいずれかで局地戦争が起こる可能性は、十分にあります。習近平としても、大きな冒険はしたくないので、米国と直接対決せざるを得なくなるような戦争はしないと思います。

中国とソ連は1929年と1969年に国境紛争をしており、1969年の時は核戦争一歩手前まで行った
台湾統一戦争、南シナ海の領土回復戦争、尖閣諸島奪取などは、米国が直接絡みます。もしこれらが、攻撃されれば、米国はすぐに反撃に出る可能性があります。ロシアに奪取された領土の回復戦争もやりたくはないでしょう。

中露は互いに友情は感じていないかもしれませんが、それにしても、国連などでは、中国に賛成する数少ない国の一つでもあります。それに過去には、中ソ国境紛争という苦い経験もあります。

そうなると、チベット南部のインドからの領土回復戦争あたりが手頃でやりやすいかもしれません。

これは、インドにとっては脅威ですが、中国に対抗する勢力にとっては、一つのチャンスかもしれません。これを完膚なきまでに、打ち負かせば、習近平の統治の正統性は地に落ちることになり、失脚する可能性もあります。

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2018年1月16日火曜日

このままでは見放される論拠薄弱な護憲派―【私の論評】改憲派にも矛盾あり!日本は軍隊を持つべきという国民的合意が必要不可欠(゚д゚)!

このままでは見放される論拠薄弱な護憲派

リアルな防衛から目を背けてはいけない

2016年4月3日フィリピンのスービック港に寄港した海上自衛隊の潜水艦「おやしお」(左)、
護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 憲法改正問題は、間違いなく今年の一番の政治的焦点になるだろう。安倍首相の意向を受けた自民党の二階俊博幹事長は、1月12日夜、BSフジの番組で、安倍晋三首相が狙う9条改憲について「今までで(議論が)相当のところまできている。1年もあればいいんじゃないか」と述べ、年内の改憲発議を明言した。

 安倍首相も7日放送のNHK番組で「多くの党の賛同を得る形で発議してほしい」と述べ、公明党や野党に協力を求めると共に、年内発議への期待感を表明した。

 安倍首相が提案している改憲案というのは、憲法9条の改正である。その内容は、現行9条はそのままにして、自衛隊の存在を明記するという、いわゆる「加憲」案である。つまり自衛隊の存在をどう評価するのかが、重要な争点だということである。

共産党の支離滅裂を解きほぐす本

 いま、護憲を唱える有力な政党といえば、日本共産党であろう。ただ、私はこの政党の主張をかねてから厳しく批判してきた。「自衛隊は憲法違反の軍隊」というのが、この党の主張である。では、自衛隊は即刻解体せよ、と主張するのかと思えば、“解体賛成”という国民合意ができるまでは存在を認めるとしている。その一方で「立憲主義を守れ」というのである。9条には触れず、長期にわたって憲法違反の軍隊の存在を認めるという立場が、立憲主義とどう整合するのか? 支離滅裂というしかない。

 こんな時、この支離滅裂さを解きほぐす本が出版された。ジャーナリスト、編集者である松竹伸幸氏が著した『改憲的護憲論』(集英社新書)である。

 松竹氏は、みずから明言しているように護憲派であり、間違いなくその論客である。私が共産党の政策委員長をしていた当時、共に机を並べていた仲でもある。いつも杓子定規なものの見方や共産党流の定型的な見方ではなく、自分なりに問題意識を深めた意見を持っていて、その意見を重宝させてもらったものである。

 本書には、次のような一文が記載されている。

<これまで自分なりの自衛隊論、憲法論を盛り込んだ書籍を上梓(じょうし)するなどのことはしてきましたが、共産党とこの分野で意見の違うことは、活字にしてきませんでした。共産党の規約は、『党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない』とされています。それなのに、いまなぜ活字にして発表しているのか。それは、私の意見が『党の決定に反する』ものではなくなったからに他なりません。>

 少し話が脱線した。『改憲的護憲論』などという刺激的なタイトルの本をなぜ執筆したのか、同氏は「おわりに」で次のように記している。「執筆に本気になったのは、改憲されることそれ自体への危機感からではありません。加憲案に対する護憲派の反応が気になったからです」。安倍首相の加憲案というのは、同氏が指摘するように、本来の自民党の改憲案に比べて「かなり穏やか」なものである。ところが護憲派の批判は、おどろおどろしい改憲案であるように印象づけるため、論拠の薄い、無理矢理なものになっていると指摘する。 本書の中身は、共産党の主張とは大きく隔たっている。それでも「決定に反しない」ということは、同氏がこの拘束から離れたということだろう。つまり共産党を離党したということなのだと思う。

 その上で、「自衛隊は絶対に憲法に明記してはならない」というのが護憲派の立場だが、国民の目には、自衛隊を認めるのか、認めないのかという争いに映ってしまう。そうなれば、「圧倒的多数は自衛隊に共感を持っている世論の現状において、護憲派は見放される」、そうならないためには「別の論点を提示しなければならないと、痛切に思ったのです」と同氏は述べている。

 その通りだと思う。いまの現状で自衛隊違憲論や自衛隊解体論が広範な国民に受け入れられることなど、あり得ない。本書は、この厄介な課題を解きほぐそうとするものであり、護憲派の人々こそが読むべきものである。

迷走する共産党の自衛隊論

 共産党がいかに自衛隊の取り扱いで迷走してきたか、本書を読めばよく分かる。20年近く前まで、共産党の安全保障政策の基本は、「中立自衛」であった。「自衛」には、軍事力が必要である。つまり、自衛隊は憲法違反だが、9条を改正して合憲の自衛軍を持つというのが、長らく共産党の考え方であった。

 ところが本書でも指摘するように、冷戦終結後、1994年の党大会で「憲法9条を将来にわたって堅持する」という大転換を行った。

 このとき党内では、この大転換についてほとんど議論らしい議論は巻き起こらなかった。本書によれば、かつて共産党が批判していた社会党の「非武装中立」と同じだということを上田耕一郎副委員長(当時、故人)が新聞インタビューで答えていたそうである。

 この結果、急迫不正の主権侵害に対して、「警察力や自主的自警組織など憲法9条と矛盾しない自衛措置をとることが基本」となった。“竹やり作戦”である。これで国民の命や安全を守れるはずもなく、論争にも耐えられないものであった。

 2000年8月、不破哲三議長がテレビ番組で「(日本に)自衛の権利はあるが、現憲法下では自衛隊は認めない」と発言したところ、「敵が攻めてきて、自衛隊がなかったら誰が自衛の行動をとるのか」と問われ、「必要なあらゆる手段」としか答えられないことがあった。これでは、もちろん答えになっていない。国民に玉砕しろと言うようなものである。

 この後、「(自衛隊解消前に)急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要に迫られた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する」という「自衛隊活用」論に方針転換をせざるを得なくなった。

 ところが松竹氏の本にも詳述されているが、またまた方針転換が行われる。2005年、松竹氏が政策委員会在籍中に書いた論文に、共産党指導部からいちゃもんがつけられた。松竹氏の論文は、「侵略されたら自衛隊を活用する」という党の方針に基づいたものであった。ところが指導部からは、「『自衛隊活用』論は、共産党が与党となる民主連合政府ができた段階のものであり、現時点で自衛隊の活用を一般化するものではない」と説明されたというのである。

 共産党が「自衛隊活用」論を採用した当時、私は政策委員長として指導部の一員であった。“民主連合政府が誕生したとき”などという制約がかけられた事実はない。言うまでもなく、民主連合政府などいつできるかも分からないし、未来永劫できない可能性すらある。こんな馬鹿げた方針を決めるわけがない。これでは事実上、活用論を取り下げるのと同じである。おそらく取り下げようということだったのだろう。

 いま共産党は、野党共闘にすべてを賭けている。自衛隊違憲論や自衛隊解体論が他の野党に受け入れられるはずもなくい。そこでまたまた活用論が復活してきている。

 この迷走ぶりは、自衛隊問題も、国の自衛に関わる問題も、真剣に検討していないことの証でもある。

日本防衛はリアルな問題

 松竹氏は、本書の「はじめに」で、「護憲派には、日本防衛の問題をわが事として捉える覚悟が求められている」と述べている。

 多くの護憲派は、そもそも主体的に日本防衛を論じることすら忌避する傾向になる。多くの地方で、共産党議員が自衛隊の演習に反対する運動を繰り広げている。「9条守れ」というスローガンを掲げることが運動のすべてのように思える。これでは無責任の誹りを免れない。

 日本防衛はリアルな問題である。防衛のあり方を真剣に考えないような運動が、国民の多数の支持を得ることなどあり得ないことを護憲派は知るべきだ。そのためにも『改憲的護憲』の一読をすすめたい。私は護憲派ではないが。

【私の論評】改憲派にも矛盾あり!日本は軍隊を持つべきという国民的合意が必要不可欠(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事では、護憲派の矛盾について掲載されていました。そうして、共産党ほど酷いものではありませんが、改憲派の中にも矛盾があります。

私は、護憲派か改憲派のいずれかといえば、改憲派です。ただし、9条3項改憲で自衛隊を憲法典に明記しようとの主張に対して、無条件で賛成ではありません。あくまで条件付き賛成です。

その条件とは、これまでの憲法解釈を一掃し、法体系を軍隊式のネガティブリスト(禁止事項列挙型)に全改正し、十分な国防予算をつけるというのなら、改憲に賛成です。


現状のポジティブリストの法体系では戦争になれば、自衛隊員に「死ね」と言っているようなものです。新型兵器の導入には熱心な自衛隊の陸上自衛隊員がアメリカ軍楽隊よりも銃撃訓練ができていない状態を改める必要があります。だからこそ、これを改めることは絶対条件です。

しかし、「解釈も法律も予算も無視して一点突破」だけなどという9条3項改憲ならば、大反対です。そもそも、意味がありません。憲法典が変わっても現状と何も変わりません。

そうして、憲法の条文の前に重要なことがあります。最も重要なのは、内容です。

なぜ自衛隊が合憲なのか、自衛隊をどう位置付けるのか。憲法典の条文に加筆した場合、関連措置として何が必要なのか。これらの議論なくして「9条3項一点突破」などと声高に叫ぶこと自体が無意味かつ有害となりかねません。

しかし、日本国憲法制定以来、曖昧な状態に置かれていた自衛隊を条文で明記するのに反対するつもりはありません。そこで、日本国憲法九条に自衛隊を明記しようとした場合、いかなる議論が必要なのでしょうか。

まずは、大前提として、日本国が軍隊をもつか否かの国民の合意はあるのでしょうか。改憲論議においては、ここから逃げるべきでありません。

世界の大多数の国は、「軍隊をもつ」という合意をしています。そのうえで、いつの時期にどの程度の軍備を充てるか、国際情勢と経済状態から勘案してます。

逆に、「軍隊をもたない」という合意をしている国もあります。軍隊を廃止し準軍隊(国際法で定義されるParamilitary)による防衛を国是とするコスタリカ、安全保障をスイスに全面的に依存しているリヒテンシュタイン、ツバルのような小規模の島嶼国家などです。軍隊を保有していない国は世界で25カ国あるが、いずれも小国です。


では、領土と経済規模において大国であり、核保有国が密集する地政学上の重要地帯である東アジアに位置するわが国が、「軍隊をもたない」「他国に安全保障を一任する」などと主張して許されるのでしょうか。その程度のことを国民に説得できなくて、どうやって憲法改正などという大それたことができるのでしょうか。

あるいは、憲法典に「国防軍」だの「自衛軍」だの、「軍」を明記すれば合意ができるなどと甘い考えを抱いているのでしょうか。憲法典に書き込みさえすれば、狂信的な護憲派を説得できるとでも思っているのでしょうか。憲法典の条文を万能だと思っているのなら、改憲派も護憲派と同じ穴のムジナに過ぎません。


私は、日本国は軍隊をもつべきだと思います。圧倒的多数の国民は当然だと思いながらも、護憲派を罵るばかりで、これまで真っ当な説明をしてこなかった改憲派にも問題ありです。

では、なぜ日本国は軍隊をもつべきなのでしょうか。それは、地球上で文明国として生きていくためです。

文明国とは、誰にも媚びずに、自分の力で、自分の生存を主張できる国のことです。わが国を取り巻く環境を一望すれば、比喩ではなく火薬庫と化した朝鮮半島で、米中露の3大国がにらみ合っています。米国陣営にはわが国と台湾、そして東南アジア諸国。中国陣営にはロシアと北朝鮮、最近では韓国がなびいています。この両者を分かつものは何なのでしょうか。

1つは、海洋勢力と大陸勢力の地政学的環境です。もう1つは、価値観です。人を殺してはならない。この、日本人にとって当たり前の価値観を共有できるかどうかなのです。

金正恩はいうに及ばず、習近平やウラジーミル・プーチンの核兵器がわが国を向いています。守ってくれるのは、気まぐれなドナルド・トランプです。ここで一足飛びに、いますぐ核武装しろなどと、主張するつもりはありません。

ロシアの核兵器も日本に標準をあわせていることを忘れてはならない
しかし、圧倒的多数の国民が、この危険な状況をいつまでも唯々諾々と受け入れるでしょうか。日本人は、未来永劫、アメリカの属国として生き、中国やロシアに媚びへつらい、北朝鮮に足蹴にされ続けることを望むのでしょうか。

名前が自衛隊のままであるかどうか等問題ではありません。名前がどうであれ、国民のあいだに合意がなければ、軍隊なのかどうなのか曖昧なままです。まさか改憲後も、「9条3項に明記されている自衛隊が軍隊か、どうか」という議論を続ける気なのでしょうか。自衛隊の名称を憲法典に書き込むにしても、軍隊なのかどうなのかを曖昧にしたままでは何の意味もありません。

今後、日本国は軍隊をもつのか持たないのか、国民の合意が必要です。こうした憲法観の合意なしの憲法論議など、百害あって一利なしです。

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2017年11月17日金曜日

北朝鮮 SLBM搭載の新型潜水艦建造か―【私の論評】日本は北を先制攻撃しても世界から非難されないが国内で非難されるこの矛盾(゚д゚)!

北朝鮮 SLBM搭載の新型潜水艦建造か

潜水艦のものとみられる部品が移動、SLBM用の潜水艦の建造進展か
 アメリカの北朝鮮研究機関は16日、北朝鮮東部で、弾道ミサイルを発射できる新型の潜水艦の建造が進んでいる可能性があるとして、衛星写真を公開した。

 アメリカの北朝鮮研究機関が公開した北朝鮮・新浦にある潜水艦基地の衛星写真で、建設エリアでは継続的に部品が動かされ、中には潜水艦の船体部分の部品とみられるものがあることから、SLBM(=潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載するための、新型潜水艦の建造が進んでいる可能性があると分析している。

 また、エンジンの噴射実験を示す動きが確認できるとして、潜水艦の建造と並行して、SLBMの開発も続いていると指摘している。

【私の論評】日本は北を先制攻撃しても世界から非難されないが国内で非難されるこの矛盾(゚д゚)!

本日写真を公開したアメリカの北朝鮮研究機関とは、38 Northのことです。この写真が掲載されている元の記事は以下のリンクからご覧になることができます。
North Korea’s Submarine Ballistic Missile Program Moves Ahead: Indications of Shipbuilding and Missile Ejection Testing
38Northは、フェイスブックページがあります。以下にそのページのリンク先と、そのページにあった写真を掲載します。
https://www.facebook.com/38NorthNK/

38ノース(38 North)は北朝鮮に関する分析を専門とするウェブサイト。ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院の米韓研究所(USKI)のプログラムであり、米国務省の元職員ジョエル・S・ウィットとUSKIアシスタント・ディレクターのジェニー・タウンによって管理されています。

著名な貢献者として核科学者のジークフリート・ハッカー 、元AP通信平壌支局長のジーン・H・リー 、サイバーセキュリティの専門家ジェームス・アンドリュー・ルイス及び「ノースコリア・テック」の創設者マーティン・ウィリアムズがいます。

Siegfried S. Hecker (ジークフリート S. ハッカー)
38ノースは北朝鮮の主要分野の商業衛星画像を使用し、アナリストに国内の開発に関する洞察を明らかにする機会を提供しています。たとえば、過去に以下のような発表を行っています。
2013年11月、38ノースは北朝鮮のミサイル発射地点で新たな建造物を発見したと公表し、より大型のロケットを扱えるようにアップグレードされていると述べました。
2015年12月21日の北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1号」の「排出」実験後の2016年1月に、38ノースは新浦市南部の造船所の衛星画像分析を使用して北朝鮮のSLBMプログラムについて報告しました。ジョセフ・バミューデスは衛星画像は北朝鮮のSLBMプログラムへの能動的な探求を示していると述べ 、その予測は後に2016年の3回のSLBM実験(4月23日、7月9日、8月24日)や、2017年2月13日に北極星1号を改良し、地上発射型にした新兵器「北極星2号」の試験発射成功で裏付けられることになりました。
2016年1月下旬、38ノースは北朝鮮の東倉里ミサイル発射場での不審な活動を報告しました。ジャック・リウによる衛星画像分析で東倉里の主要施設と地点で低レベルの活動が示されました。記事が公表されてから10日後、北朝鮮は東倉里で人工衛星「光明星4号」を搭載した光明星の打ち上げを実施しました。
2016年4月、38ノースのアナリストは主要プラントを加熱するために使われた寧辺核施設の蒸気プラントから出ている排気プルーム(煙)について報告しました。これは追加プルトニウムの再処理が進行中である徴候の可能性があるとされました。4月中旬、38ノースは北朝鮮が核兵器用のプルトニウムの再処理を開始したことを示す活動を報告しましたが、国際原子力機関は約2ヶ月後の6月7日まで認めませんでした。
2016年9月、38ノースはジョセフ・バミューデスとジャック・リウによって行われた衛星画像分析に基づき豊渓里核実験場の3か所のトンネル全てで新たな活動が見られると報告したました。この活動は、メンテナンスと小規模な掘削作業が再開したことを示していました。翌日、北朝鮮は豊渓里で5回目の核実験を実施しました。
過去の実績内容からみても、38ノースはかなり確度の高い情報を提供しています。北朝鮮情勢を知るには見逃せないサイトです。

朝鮮中央テレビでは、昨年「戦略潜水艦弾道弾水中発射成功」を大々的に報道しました。その動画を以下に掲載します。



このときは、まだ半信半疑でした。今回の38ノースの発表からどの段階までいっているのかわかりませんが、SLBMとこれを発射可能な潜水艦を開発中であることは間違いないようです。いつ開発に成功し、実戦配備するのかは、まだ未知数ですが、北朝鮮の過去の核・ミサイルの開発をふりかえると、いずれ数年のうちにはブロとタイプができるとみるべきでしょう。

だからこそ、38ノースはこの動きを公表したのでしょう。日米の対潜哨戒能力などは、かなり高度であり、たとえ北朝鮮がSLBM発射可能の潜水艦を開発したとしても、それを撃沈することはできます。しかも、北朝鮮の付近の海域には、日米が追跡することが不可能なとほどの深い海域はありません。

さらに、北朝鮮の潜水艦は原潜ではないので長い期間潜水することはできません。また、原潜までいかなくとも、技術水準の高い水準の高い日本の新型潜水艦のように、実戦的には十分であると考えられる長時間潜水もできません。ちなみに原潜は理論上、無限近いほどに潜水していられますが、乗組員の飲料・食料の補給、交代があるため限界があります。

しかし、そうはいっても潜在的脅威になることは間違いないです。北朝鮮のSLBMを搭載した潜水艦がオホーツク海や、南シナ海の深海に潜伏することが可能になれば、日米もこれを発見することは難しいです。

現状では、そんなことはあり得ないと断言できますが、中国がその究極の目的である深い海域のある南シナ海を中国原潜の聖域(戦略原潜を深海に沈めて敵から発見できない場所)にすることに成功した場合、北朝鮮の潜水艦もここを聖域にすることを許容するなどということも考られます

あるいは、元々北朝鮮という国をつくったソ連の後継国であるロシアが、深い海域が存在するオホーツク海を北朝鮮の潜水艦の聖域にすることを許容するなどということも全くあり得ない話ではありません。

もし、そのようなことがおこることが事前に察知できた場合には、日本としては北朝鮮の潜水艦を撃沈することも視野にいれておかなければなりません。

イスラエルは、過去にイラクの原子力施設を破壊したことがあります。これは、イラク原子炉爆破事件として有名です。

建設中に破壊されたイラク・「オシラク原子炉」
イラク原子炉爆撃事件は、イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を、バビロン作戦(別名オペラ作戦)の作戦名で1981年6月7日に攻撃した武力行使事件です。

これはイラクが核兵器を持つ危険性があるとして、イスラエルが「先制的自衛」目的を理由にイラクに先制攻撃を行ったものです。この攻撃に対して国際連合安全保障理事会決議487(英語版)がなされ、イスラエルは非難されました。

バビロン作戦における戦闘爆撃機の飛行進路
しかし、これはイラクの原子力施設が必ずしも核兵器につながるとはいえないにも関わらず、先制攻撃したため非難されたものです。しかし、結果としてイスラエルはイラクの原子力施設を破壊して、イラクの核の脅威を葬り去ったのです。

日本の場合は、北朝鮮が日本に攻撃すると威嚇し、実際にミサイルの発射実験を行ったり、核実験を行っているし現実に北朝鮮は日本にミサイルを発射することができるわけです。北朝鮮の報道官が、今年8月9日に「日本列島を瞬時に焦土化できる」と警告する声明を発表しました。日本が北朝鮮を先制攻撃をして、核施設やミサイル施設を破壊したとしても、イスラエルのように非難されることはありません。

当の北朝鮮や、中国やロシアなどは非難するかもしれませんが、国際連合安全保障理事会決議により、非難されるということにはなりません。他の国々は最初から非難することもないでしょう。

なぜなら、国連憲章でも独立国の自衛戦争は認めらているからです。独立国であれば、自国が他国に攻撃されることがあらかじめわかっている時に自衛のために他国を攻撃することは自然権であるという認識は、世界の常識です。その常識が日本にだけ通用しません。

日本も、この自衛戦争は、憲法改正でも良いし、憲法解釈の改変でも良いのでできるようにしておくべきです。

仮に日本が北朝鮮を先制攻撃しても、世界から非難されることはないのに、日本国内で非難されるという、この奇妙な現実は変えなければなりません。

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2015年10月31日土曜日

井沢元彦氏がSEALDsに意見 「9条を守れ」の主張は人権侵害―【拡散希望】主流派憲法学者の解釈を踏襲するな!京都学派の解釈に従えば、ほとんど現実世界と矛盾しない(゚д゚)!


井沢元彦氏(写真左)今年1月 写真、動画はブログ管理人挿入 以下同じ

作家・井沢元彦氏は、集団的自衛権行使容認に反対する人たちのやみくもな軍隊否定や護憲主義に疑問を投げかけている。憲法9条を守れと主張することは、ときに人権侵害にも及ぶ状況があるという。週刊ポストの連載「逆説の日本史」における井沢氏の解説を紹介しよう。

* * *
1985年(昭和60)のことである。当時イランと戦っていたイラクのフセイン大統領は、敵国イラン領空を飛ぶ飛行機はたとえ民間航空機であってもすべて撃ち落とすという、とんでもない声明を発表した。当時イランにいた日本人二百人余りは直ちに脱出しようとしたが、脱出のための航空機派遣を政府から依頼された日本の民間航空会社はこれを拒否した。労働組合が反対したのである。

もっともこれは当然の反応ではある。ミサイルが飛んでくるかもしれない危険空域に丸腰の民間機が入ったら乗務員の安全は保証できない、反対したこと自体は責められない。だからこそ、こういう時のために訓練を積んだ軍隊というものが必要なのである。警察では国外の戦争が絡んだ事件に対処する能力も権限もない。

しかしそういう能力を持った自衛隊機は現地に飛べなかった。日本社会党を中心とする護憲派が「海外派兵絶対反対」と強く反対したからである。このためイランの首都テヘランに残された日本人約二百人は脱出できず、中には死を覚悟した人もいたという。


助けてくれたのはトルコであった。トルコ共和国政府の意を受けたトルコ航空の民間パイロットが名乗りを上げ、危険を冒してテヘランに飛び日本人全員を脱出させてくれた。実は1890年(明治23)、トルコ海軍の軍艦エルトゥールル号が日本の紀州沖で沈没した時、近くの村の日本人が命がけで乗組員多数を救助してくれたという話がトルコでは歴史の教科書に載っていて、「その借りを返すため」に命がけで助けてくれたのである。

ところが、この行為に対して感謝するどころか、もっとも不快に思ったのが「護憲派の守護神」朝日新聞である。朝日は記事でトルコが助けてくれた理由を、日本が「トルコ経済援助を強化している」からだと書いた。要するに「カネがもっと欲しいんだろう」と貶めたのである。朝日がなぜそんなことを書いたか、これをきっかけに「軍隊は必要だ」という議論が高まることを恐れ「カネをバラ撒いていれば大丈夫だ」と思わせたかったのだろう。

こんな事件が過去にあったことを、つい最近まで国会を包囲していたSEALDsの若者たちは知っているのだろうか? そしてまた同じような事件が起こったら「海外派兵絶対反対」と叫んで、再び「平和憲法を守るため」戦うのか?


エウトール号の遭難や、テヘランでの日本人救出に関してはこの動画をご覧ください

以上のような事例を知った上で、まだ「日本に軍隊は必要ない」と叫ぶなら、それはそれで仕方がない。論理を受け付けない人間と議論はできない。しかしそうでないなら言おう。

 軍隊の必要性を認めた上で「憲法九条を守れ」と主張することは、極めて重大な人権侵害であることに君たちは気がついているのか? 「必要ない」と言うなら仕方がないが「必要」ならば、自衛隊及び自衛隊員は法治国家日本において正式な存在であるべきだ、しかし憲法九条は法律がなんと言おうと彼等の存在を否定している。だから憲法九条を守るということは、実は自衛隊員の地位と権利を正式なものとしては絶対に認めないということになる。

これもわかりやすく時代劇にたとえようか。

ある旗本の家、そこが突然武装強盗に襲われた。先代の嫡男である当主が撃退しようとしたが日ごろから武芸にはうとく、危うく殺されそうになった。そこへ颯爽と登場したのが側室の生んだ次男、つまり当主の弟である。次男の命をかけた奮闘で賊は撃退された。そして、あそこには強い用心棒がいるという評判が立ち賊も敬遠するようになった。何もかも弟のおかげである。

ところが兄は感謝するどころかこう言う。「メカケの子のくせに図に乗るな、お前はあくまで日陰の存在だ。メシは食わせてやるが、名誉も地位も求めるな!」。

どうです? ひどい兄だとは思いませんか? 人間のクズと言っても過言ではないだろう。

しかし「憲法九条を守れ」と言うのは実はこれと同じことで、「自衛隊員よ、お前たちはあくまでメカケの子だ、引っ込んでいろ」と言っているに等しい。そのことに君たちは気がついているのだろうか?

たぶん気がついてはいないのだろう。気がついているならばこんな態度をとるわけがない。瀬戸内寂聴さんや大江健三郎さんのような日本の良心と言われている人たちも気がついていないのだから仕方がない。本当の日本の歴史を知らないからだ。

【拡散希望】主流派憲法学者の解釈を踏襲するな!京都学派の解釈に従えば、ほとんど現実世界と矛盾しない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事の、トルコが助けてくれた話は有名なものです。もし、あの時トルコが助けてくれなかったら、多くの日本人が本当に命を落としたかもしれません。そうして、この事例は日本の安全保障を考える上で非常に良い事例だと思います。

さて、井沢氏が指摘するとおり憲法9条には上記で示すような矛盾があります。しかし、このような矛盾は、日本の東大を頂点とする憲法学者主流派の解釈を踏襲しているから矛盾しているように見えるだけです。

その解釈とは、憲法9条ではいかなる戦力を保持しても、武力を行使してもいけないう解釈です。東大を頂点とする、日本の主流の憲法学者の解釈を踏襲すれば、確かに上記のように、人権侵害を憲法が許容しているようなとんでもないことが起こる可能性がこれからもあり得ます。

しかし、憲法9条に対する解釈を変えれば、このような矛盾は生じません。実際、憲法学会における京都学派の解釈に従えば、このような矛盾は生じません。

では、京都学派の解釈とはどのようなものでしょうか。それに関しては、このブログに以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
佐々木惣一の「憲法第九条と自衛権」―【私の論評】安保法制=戦争法案としてデモをする人々は、まるで抗日70周年記念軍事パレードをする人民解放軍の若者と同じか?

佐々木惣一氏は憲法学者の中で、京都学派の重鎮だった方です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から憲法9条の解釈に関する部分を以下に掲載させていただきます。
さて佐々木惣一は戦後、特に力をいれた仕事は、憲法第九条と自衛力との関連のものである。今日の安保法制に関してマスコミの報道では、「集団的自衛権は違憲である」というのがまるで総意であり、「真理」であるかのように喧伝されている。だが敗戦後、佐々木惣一は一貫して、憲法第九条の法理論的解釈として、日本が自衛力を保有することを合憲としていた。ちなみに今日の議論のように、自衛権を個別的自衛権と集団的自衛権にわけて、それを厳密に区分して議論する日本的な風土とは、佐々木の自衛権解釈は一線を画している。つまり自衛self-defenseには、国際的な解釈と同じように、自分(自国)のみならず、親や子など近しいもの(同盟を組んでいる他国など)を守るという意味も含んでいる。
佐々木の自衛権解釈の多くはネットなどで容易に見ることができないせいか、ほとんど忘却されている。まず佐々木は、さきほどの倉山本の内容を紹介したときに言及したように、憲法論と政策論は別にわけて慎重に議論すべきだとしている。つまり憲法解釈がいかに解されようと、それと現実の問題はまた別に認識し、相互の関係を判断しなければならない、という姿勢である。これは佐々木の憲法第九条解釈の重要なポイントである(後の砂川最高裁判決の内容と共鳴する論点ではないかと思案する)。佐々木のこの区別(憲法解釈の次元と政策論の次元の区別)は、彼の戦前からの立憲主義の見方にも通ずるものである。つまり単に条文解釈に安住するのが立憲主義ではなく、その現実的政策、政治のあり方との関連を厳しくみることが、立憲主義の本意である(佐々木惣一『立憲非立憲』)。
佐々木の「憲法第九条と自衛権」をめぐる主張は、まずは純法理論的に行われている。この憲法第九条と自衛権の関係については、佐々木の『憲法学論文選(三)』(有斐閣)を中心に収録されている。ここでは、以下の著作から引用しておく。
「国際関係複雑を極め,諸国間の対立激甚を極める今日,いかなる場合にも,いかなる国家よりも,侵略をうけることがないとは限らぬ。そういう場合に,国家としては,自己の存在を防衛するの態度をとるの必要を思うことがあろう。これに備えるものとして戦力を保持することは,国際紛争を解決するの手段として戦力を保持することではないから,憲法はこれを禁じていない。このことは,わが国が世界平和を念願としている,ということと何ら矛盾するものではない。これは,今日いずれの国家も世界平和を希求していること,何人も疑わないにもかかわらず,戦力を保持しているのと同じである。」(佐々木惣一『改定 日本国憲法論』)。
また佐々木は憲法第九条の条文そのものに即して以下のように詳述する。
「憲法によれば、国家は、戦力、武力による威嚇及び武力の行使については国家が国際紛争を解決する手段としてする、というものという標準を設け、かかる戦争、武力による威嚇及び武力の行使を放棄している。故に、国際紛争を解決する手段としてではなく、戦争をし、武力による威嚇をし、武力を行使することは、憲法はこれを放棄していない。即ち禁じているのではない。このことは、前示憲法第9条第一項の規定を素直に考究すれば、明瞭である。同条項によりて、国家は、戦争、武力による威嚇及び武力の行使の三者を放棄する。換言すれば、してはならぬ、と定めている。が、併し、これらの行動を全般的に放棄しているのではなく、その行動を、国際紛争を解決する手段として、することを放棄する、のである。故に、国際紛争を、解決する手段以外の手段として、戦争することは、憲法により禁ぜられているのではない。国際紛争を解決する手段以外の手段として、戦争をする、という場合としては、例えば、わが国が突如他国の侵略を受けることがあって、わが国を防衛するために、その他国に武力を以て対抗して、戦争をするが如きは、明らかにこれに属する。(略)故に、いわゆる自衛戦争は憲法の禁ずるところではない」(佐々木惣一『憲法論文選(三)』)。 
また第二項の戦力の保持や交戦権についての条文については、まず前者は国際紛争を解決する手段としての戦力保持を禁じているだけであり、自衛のための戦力保持を禁じてはいないとする。また交戦権については、「第一項は戦争するという事実上の行動に関する規定であり、第二項は、戦争に関する意思の活用に関する規定である」として、国際紛争を解決する手段としての戦争をする意思を活用することを表現している。そのためこの交戦権も自衛権を放棄していることではない。
この佐々木の解釈は純粋な法理論のモノであり、現実の政策とは分けて考えるべきだと、繰り返し佐々木は強調している。わかりやすくいえば、どんなに憲法解釈が純法理的にすばらしくても、現実に平和が維持されないでは意味をなさない。そこに佐々木の平和主義的な立場が濃厚に表れる。現在の安保法制議論でも単なる憲法学者の「違憲」表明だけで法案の現実政策的側面が忘却されがちであるが、その点を合わせて考えると、佐々木の視点はいまも鋭い。
また(旧)日米安保条約について、佐々木は米国軍の日本駐屯と憲法第9条は矛盾しないと述べている。この点は純法理的な解釈だけではなく、佐々木がどのように、現実の政策と純法理的な解釈との(緊張)関係をみていたのか、それを考えるうえでも有益である。
佐々木は当時の日本の現実の自衛力を踏まえた上で、「然るに、わが国は、現在では一切の戦力を有していないのだから、自衛のための戦争でも事実、することはできない。それで、自国を防衛する方法として、他国の戦力に依頼し、他国の軍隊をして、わが国の領土に駐屯して、必要に応じてわが国の防衛に当らしめる、ということを定めたのが日米安全保障条約である。これは、わが国が他国の侵略に対して自国を防衛する一方法である。憲法第九条に抵触するものではない」(『憲法論文選(三)』)。
今日では砂川判決をめぐる議論の際に、「判決は日本の個別的自衛権のみについてふれていて、米軍基地は米軍の集団的自衛権に関わる」などの主張がきかれる。これらの「通説」と佐々木の主張がいかに離れたものであるかが、わかるだろう。

佐々木惣一氏は、憲法9条は、国際紛争を解決する手段として武力を用いることを否定しているのであって、これ以外の自衛戦争まで禁じているわけではないと解釈しています。例えば、わが国が突如他国の侵略を受けることがあって、わが国を防衛するために、その他国に武力を以て対抗して、戦争をすることは、明らかにこれにこれを禁じているわけではないとしています。

そんなこと憲法典(文書として書かれた憲法)には、一つも書かれてはいないから、それは詭弁にすぎないという人もいるかもしれません。しかし、憲法9条を端から端まで何度読んでみても、明らかに防衛戦争を否定するとは、はっきりとは書かれていません。

このようなことをいうと、書かれていないからといって、書かれていないことが、なんでもできたらとんでもないこになてしまうから、そんなのは詭弁だというかもしれません。

しかし、そんなことはありません。世界の多くの国々の憲法典でも、自衛権に関してはっきり明記しているものは多くはないです。それは、自然権であり、当然の権利であり、わざわざ記載する必要もないということなのだと思います。

この事実からも、憲法典に書かれていない事柄は、やってはいけいことなどという解釈は成り立たないことが理解できます。であれば、佐々木惣一氏の日本憲法典の解釈は、突飛でも、詭弁でもないことが理解できます。

ブログ冒頭の記事を書いた井沢元彦氏は、おそらく改憲派だと思うのですが、それにしても、佐々木惣一氏らの京都学派による憲法解釈はご存知ないのではないかと思います。確かに、日本主流の憲法学者らの解釈によれば、外国にいる日本人の生命がおびやかされても、日本は何もできないということになってしまいます。

しかし、京都学派の解釈なら、自衛隊そのものはそもそも違憲ではないし、場合によっては、日本人の生命を守るために海外に自衛隊を送っても何ら憲法違反にはならないことになります。

かつては、京都学派の憲法解釈も知られていた時期がありました。私が中学生か高校生だった頃に、社会科の教師が「京都学派」という名称までは語らなかったとは思いますが、憲法学者の中にはこういう考え方の人もいるという話をしていたことを覚えています。

確か、テレビでも、コメンテーターがそのようなことを語っていたこともあったことを記憶しています。

しかし、今では、この京都学派の憲法解釈はほとんどの人が知りません。井沢氏も知らないのだと思います。だからこそ、ブログ冒頭の記事のような矛盾を指摘したのだと思います。

作家といえば、百田尚樹氏もあるテレビ番組で「確かに憲法を字面通りに読めば、軍隊を持てないし、武力も行使できません」と語っていました。おそらく、百田尚樹氏ですら、京都学派の憲法解釈のことなど知らないのだと思います。

百田尚樹氏

日本の安全保障を考える上で、今の日本の主流の憲法学者の憲法解釈を踏襲すると、ほんとうに矛盾だらけです。しかし、京都学派の解釈であれば、大きく矛盾するようなことはありません。

であれば、私たちは京都学派の憲法解釈を踏襲するべきではないでしょうか。そうすることにより、憲法を改正しなくても、自衛隊を自衛軍とすることもできますし、日本人の生命を守るために、自衛隊を海外に送ることもできます。そうして、実際に他国が日本を攻めたり、日本人の生命を脅かすような軍事行動をとった場合、それに対抗しても、何ら矛盾は発生しません。自衛隊員を日陰者扱いする必要性もありません。

それにしても、どうして日本では京都学派の憲法解釈が顧みられなくなったのでしょうか。私自身は、京都学派の憲法解釈が忘れさられたからこそ、日本の安全保障の論議が全くおかしなことになっているのだと思います。

私自身、憲法解釈としては、こと憲法9条などに関しては、京都学派の見方が正しいと思います。そもそも、日本国憲法は、GHQが作成したものを下敷きにして作成されたものです。そうして、GHQには当時コミンテルン(旧ソ連のスパイ)が多数存在していました。

そのコミンテルンらが、日本国憲法草案に関わったとされています。これは、ベノナ文書などでも明らかにされています。

当時のコミンテルンがソ連に有利になるように、日本国憲法で日本国弱体化を目論んだのでしょうが、さすがに彼らも「日本国には防衛権すらない」などとはっきりと、憲法典に明記することはできなかったのでしょう。

もし、「日本国には自衛権がない」という条文を日本国憲法に盛り込んだ場合、さすがに日本国弱体化を目論むマッカーサーや、米国大統領や議会もこれではあまりにもあからさまということで、承認しなかったことでしょう。そもそも、西欧諸国にとっては、自衛権は独立国にとって「自然権」であるという大前提があります。さすがに、この大前提を崩すことはできないかったと思います。

実際には、ひよっとすると、コミンテルンは「日本には自衛権がない」という条文を盛り込んでいたかもしれませんが、そんなことではとても独立国の憲法としては認められないということで上層部に却下されて、今日の日本国憲法になったのかもしれません。

いずれにしても、憲法典に書いてあることだけは正しくて実行しても良いことであり、書かれていないことはとにかく何が何でも実行してはいけないなどということでは、あまりにも硬直的であり、それはもうすでに、実務的な政治や法律の世界とはかけ離れており、それはすでに宗教の領域です。それも、宗教の権威だけが正しいとする教条的、強権的なものであり、それこそ、イスラム過激派、原理主義者などとあまり変わりないと思います。

日本の護憲派は、行動ではさすがに、過激派や原理主義者のような酷いテロ行為はしませんが、考えたは非常に似ていると思います。テロリストにとっては、自分たちの考えが絶対的ですが、日本の護憲派にとっては、憲法典そのものが絶対的なものになっていて、京都学派などの憲法解釈などは全く受け付けません。

こんな状態を打破するためには、井沢氏や百田氏ですら知らない、京都学派の憲法解釈を拡散していく必要があると思います。井沢氏や百田氏だって、これを知れば随分と考え方が根本から変わると思います。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2014年3月12日水曜日

人民元変動幅拡大のウラに習主席の地元利権 矛盾から目をそらす対日批判 ―【私の論評】中国の矛盾が次々と明るみに出たこの10年、もう現体制の綻びは明白、世界は中国崩壊に備え現中国の指導層の裁判に備え「普遍的管轄権」による公正な判決ができるように備えよ(゚д゚)!

人民元変動幅拡大のウラに習主席の地元利権 矛盾から目をそらす対日批判 

北京の人民大会堂
5日開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)では、経済成長率7・5%の目標や国防費2ケタ増、人民元の変動幅拡大などが打ち出された。

全人代は、中国の今後1年間の重要政策について話し合う場で、例年3月上旬から中旬にかけて北京の人民大会堂に全国の省や軍などの代表約3000人が出席する。形式的には日本の国会と似ているが、中国は共産党の一党独裁であり、政党間の政権交代はなく、重要事項は共産党の指導部が決定する。全人代は党の決定を確認するだけとも指摘されている。

全人代で掲げられた成長率目標7・5%は、消費者物価指数(CPI)の伸び率3・5%とともに、前年と同じである。これは、そろそろ中国経済が頭打ちになってきていることを示している。

また、中国経済が「ルイス転換点」にぶつかってしまったという識者の指摘とも合致している。

・・・・・・・・・・・・<中略>・・・・・・・・・・・

習近平国家主席は太子党(共産党幹部の子弟)出身で、沿海部の福建省や浙江省の党要職を務め頭角を現してきた。その地域は中国の大手輸出企業が集まっており、人民元は安くしておくことが既得権を守ることになる。そのため、変動相場制への移行は政権のアキレス腱(けん)となる。

そうした国内の矛盾から目をそらすために、対日批判を使っているフシがある。そして、それが国防費2ケタ増につながっている。

先日のコラムでも紹介したが、中国の国防費は国内総生産(GDP)の2%と、日本の倍である。その国防費を中国はさらに伸ばして、アジア地域の軍事バランスを歪めている。

中国のシャドーバンキング問題は世界経済の弾薬庫であり、大波乱要因になる。その来たるべき日に備えて、日本も今のうちから経済力を強化する必要がある。 

【私の論評】中国の矛盾が次々と明るみに出たこの10年、もう現体制の綻びは明白、世界は中国崩壊に備え現中国の指導層の裁判に備え「普遍的管轄権」による公正な判決ができるように備えよ(゚д゚)!

このブログでも従来から紹介させていただいたように、この10年中国の大矛盾が次々と明らかになっています。その矛盾度合いは、日本の比ではありません。日本の政治家の利権など、中国の官僚(中国に厳密な意味で政治家は存在しません。全部官僚です)に比較すれば微々たるものであり、最悪のものでも、中国のそれと比較すれば「天使の戯事」に過ぎないと言っても良いくらいです。他のアジアの諸国と比較しても、幅と奥行きのスケールが根本に異なります。

カナダ紙グローバルポストは記事「中国:愛人の報復」を掲載した

習近平国家主席の沿海部の福建省や浙江省の利権など、想像を絶するものがあり、変動相場制への移行も実行できません。とにかく、利権は凄まじく、習近平国家主席の義兄や、温家宝前首相の息子、温雲松氏を含む中国指導部の親族ら少なくとも十数人が、タックスヘイブン(租税回避地)の英領バージン諸島の企業を資産管理に活用しています。

バージン諸島のタックスヘイブンは、中国と香港の2万1000人以上が利用。中国からは2000年以降、1兆~4兆ドル(約104兆~約417兆円)の資産が流出していると推計されています。

習主席は公務員に「倹約令」を出すなど腐敗防止に力を入れていますが、義兄夫妻が中国や香港に高級ホテルを所有していると一方で、「3億人以上が1日2ドル未満で生活している」という事実があります。

こうしたなか、中国経済は「ルイス転換点」にぶつかってしまったということです。「ルイス転換点」とは、イギリスの経済学者、アーサー・ルイスによって提唱された概念です。
工業化前の社会においては農業部門が余剰労働力を抱えています。工業化が始まると、低付加価値産業の農業部門から都市部の高付加価値産業の工業部門やサービス部門へ余剰労働力の移転が起こり、高成長が達成されます。工業化のプロセスが順調に進展した場合、農業部門の余剰労働力は底をつき、工業部門により農業部門から雇用が奪われる状態となります。この底を突いた時点がルイスの転換点です。日本においては1960年代後半頃にこの転換点に達したと言われています。 
ルイスの転換点以降は、雇用需給が締まるため、賃金率の大きな上昇が起きます。古典派経済成長理論における人口増加による成長モデルはここで限界になるため、経済構造の変革が起こらない限り中所得国の罠(英語版)に陥り1970年代から1980年代の南米諸国に見られたような長期のスタグフレーションに突入することになります。

要するに、社会構造そのものを根本的に変えない限り、中国はこれから長期のスタグフレーションに突入するということです。

とりあえず、デフレから脱却さえすれば、かなり良くなる日本などとは根本的に経済状況が異なるということです。

中国の矛盾は経済だけではありません。 現中国は、建国以来毎年平均2万件もの暴動が発生したとされていました。それが、2010年からは、毎年平均10万件もの暴動が発生するようになり、政府もこれを公表しなくなりました。現在の中国は、人民の怨嗟のマグマが頂点に達し、いつどこで、その大爆発が起こっても不思議ではないような状況になっています。

江沢民元国家主席や李鵬元首相らかつての中国指導部お歴々に対し、スペインの裁判所が逮捕状に基づき国際手配を求めました。これは、スペインの法には、普遍的管轄権が設定されているという根拠に基づくものです。

スペインの裁判所から逮捕状が出ている中国の面々

チベット族へのジェノサイド(民族・人種などの計画的殲滅(せんめつ)、人道犯罪の一つ)のかどだといいます。高齢の江氏らは外遊しないでしょうし、中国の反発を受けて国外の人道犯罪に対するスペイン特有の裁判を制限する法改正が進んでいることもあり、氏らの逮捕・訴追は現実にはあり得ないでしょう。

日本での犯罪は日本で裁かれますし、米国での犯罪は米国で裁かれます。それぞれの国が国内の裁判管轄権を持つからで、国家主権と司法が密接に結びついている現代では、当たり前のように見えます。



しかし、ある国での犯罪が別の国で裁かれることも、ないわけではありません。その条件や法理論は複雑ですが、わかりやすい例が、ジェノサイドや、人道に対する罪の場合です。これらの犯罪は国際秩序を脅かす性格を持ち、その影響は一国のうちにとどまりません。だから、犯罪者が処罰を免れてはいけないのですが、往々にして権力者自身や国家機関が手を染めており、その国の法制度で対応するには限界があります。だから、別の国家が、捜査や訴追に乗り出さなければならならなくなります。このような考え方を、国家に縛られない管轄権であることから「普遍的管轄権」と呼びます。

とはいえ、この件は、チベット族に対する中国当局の過酷な弾圧について国際社会に強烈な印象を与えたという意義はあります。

スペインだけではありません。普遍的管轄権を設定していたベルギーの裁判所に、1991年の湾岸戦争を遂行した前述のブッシュ元大統領、チェイニー元国防長官、パウエル元統合参謀本部議長らが戦争犯罪で告訴されるという事態が2003年に起きて、ベルギーはやはり米政府の圧力で普遍的管轄権を撤廃するに至っています。

とはいいながら、旧ソ連が崩壊したときのように、国が崩壊してしまえば、「普遍的管轄権」による国際裁判なども考えられるわけで、中国という現体制が崩壊すれば、それもあり得る話です。

東京裁判

さて、この「「普遍的管轄権」といえば、あの東京裁判を思い出します。大日本帝国が崩壊したため、大日本帝国の管轄による裁判はできないため、あのようなとんでもない形の裁判が行われたわけです。この点については、皆さんご存知でしょうから、ここでは詳細は述べないですが、あの裁判は、「普遍的管轄権」どころか、勝者による敗者に対する一方的なリンチ以外の何ものでもありません。

国際法的にみれば、日本にはあの裁判における戦犯など一人存在しませんでした。中国の現体制が崩壊したときには、私は中国の現体制の指導層は、「普遍的管轄権」による裁きを受けるべきと思います。しかし、その裁きは、東京裁判のように一方的なリンチであってはならないと思います。

ただし、現中国の指導層は、明らかに犯罪を犯していると思います。かといつて、東京裁判のような過ちを二度と繰り返してはいけません。このへんが明確になるように、今から世界は、中国崩壊にともなう、「普遍的管轄権」のあり方を考えておき、公正な裁判ができるように準備をしておくべきと思います。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

本日は、震災に関する記事を掲載しようとも思いましたが、結局本日の記事にしました。

震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りさせていただきます。

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2013年5月30日木曜日

池田信夫 blog : 自称「慰安婦」の矛盾だらけの証言 - ライブドアブログ―【私の論評】池田先生GJ(・.・;)従軍慰安婦問題を語る輩は余程の馬鹿か、詐欺師(゚д゚)!ところで、橋下氏は策士?

池田信夫 blog : 自称「慰安婦」の矛盾だらけの証言 - ライブドアブログ

慰安婦問題には物的証拠は何もなく、彼女たちの「証言」が唯一の根拠だ。しかしNYタイムズの田渕記者などは、いまだに記者会見で橋下徹氏に「慰安婦が嘘つきだというんですか!」などと詰問しているので、彼女たちが嘘つきであることを証明しておこう。

金福童

橋下氏に面会するといって来日しながら、なぜか直前にキャンセルした金福童(87)と吉元玉(84)の2人は、大阪市内で開かれた集会には参加した。朝鮮新報によれば、「金福童さんはまず、14歳の時に軍需工場に連れて行くと騙され、南洋群島の戦場に慰安婦として送られた」という。彼女の証言は次のようなものだ。

吉元玉

 最初、中国・広東の慰安所に入れられた。そこには陸軍司令部の本部があり、私たちは将校と軍医官に身体検査をされ、すでに用意してあった部屋に行かされた。日本政府は『自分たちがやったことではない』と言っているが、民間人がどうやって軍人相手のための慰安所を作ることができるのか。

まず彼女が最初に送られたのが南洋群島(パラオ・サイパンなど)なのか広東なのかという事実が、同じ記事の中で食い違っている。さらに金は「広東から香港、マレーシア、スマトラ、インドネシア、ジャワ、シンガポール…、前線地帯の戦地を日本軍と共に転々とした」という。日本軍の部隊でも、このように太平洋を数千kmも移動した将兵はなく、まして慰安婦がそれに随行することはありえない。

金は87歳というから、「14歳の時」というのは1939年か40年だ。そのころ朝鮮半島に徴用令は出ていないので、「軍需工場に連れて行くと騙した」のは民間人だろう。軍医が身体検査をするのは当然で、衛生管理のためである。「民間人が軍人相手のための慰安所を作る」のはもうけるためで、何の不思議もない。要するに、彼女は民間人にだまされて民間の慰安所で働いたと言っているのだ。どこにも「強制連行」は出てこない。

この記事の詳細はこちらから!!

【私の論評】池田先生GJ(・.・;)従軍慰安婦問題を語る輩は余程の馬鹿か、詐欺師(゚д゚)!ところで、橋下氏は策士?


池田信夫

池田氏というと、私は嫌いですし、このブログでは、過去には非難ばかりしてきました。しかし、上の記事は素晴らしいです。私が見たなかでは、最高のグッド・ジョブです。池田氏はこんな論考もするのですね。経済の論考はげんなりするものばかりですが、これは素晴らしいです。池田氏もう、経済の論評はやめて、従軍慰安婦問題とか、反日とかに特化すると良いのではないかと思ってしまいます。

私も、 橋下氏に面会するといって来日しながら、なぜか直前にキャンセルしたのは、弁護士でも橋下氏に徹底的に追求されるのを恐れてであるというように以前このブログで掲載しました。そのURLを以下に掲載します。

「謝罪パフォーマンス」情報源は日本?韓国? 元慰安婦面会キャンセル―【私の論評】橋下市長のパフォーマンスは半端ではないことを恐れた、韓国人女性と市民団体の退散(゚д゚)!!?さよなら韓国(・.・;)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部分のみコピペさせていただきます。
 従軍慰安婦だったとする、韓国人女性と、その支援団体、橋下市長との面会について、軽く考えていたのが、実際に会う段になると、自分たちにとって非常に危険であると察知し、取りやめたのだと思います。

何しろ、橋下市長は元弁護士です。それに、過去においては大阪府で徹底的にどのような妨害にもたじろがず地方公務員改革をやってきた人間です。一筋縄ではいかないのは、当然のことです。
これに関しては、維新の中山成彬氏も似たようなことを語っており、誰がみてもそのようにしか見えないのだと思います。彼女らが、詐欺師でないというのなら、どうどうと橋下市長と渡り合うべきだったと思います。

ところで、日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は29日の記者会見で、旧日本軍の慰安婦をめぐる自身の発言について「今は国民の皆さんの理解を得られていない」との認識を示しています。

一連の発言が国内外から批判を受けているのを踏まえ「日本だけが不当な侮辱を受けている。言うべきことは言わないといけない」と重ねて主張。「そうしないと外交戦争で負けっぱなしになる」と持論を展開しました。

 6月中旬の米国視察中止に伴い、キャンセル料約180万円が公費負担になることについては「個人では負担しない。そんなことしたら、この仕事は務まらない」と発言しました。

また、維新が夏の参院選で敗北して自身が共同代表から退く事態に至った場合でも、大阪市長は辞任せず、職 務を継続する意向を明らかにしています。「(共同代表辞任と)市長とは全然関係ない」と語っています。ちなみに、橋下氏の市長任期は2015年 12月まです。
橋本氏、私は何らかの意図や戦略があって、あのような発言の仕方をしたのかと思いましたが、どうもそうでもないようです。発言の仕方、順序、背景について少し間違ったのかもしれません。

しかし、今回は、やはり戦略的なものもあったのかもしれません。橋下氏はもともと、今回の参院選には出馬しないと語っています。これは、私のうがった見方かもしれませんが、今回もし維新が参院で大勝利をするということにでもなれば、国会議員でもない橋下氏の影は薄くなります。最近、東京と大阪で、意思の疎通がうまくできていないことがクローズアップされていました。もし、参院選大勝利ということにでもなれば、この亀裂がさらに大きくなって、収拾がつかなくなるかもしれません。であれば、まだ国会議員でもない橋下氏にとっては、何も良いことはないです。

大飯原発稼働容認発表をした橋下市長
今回の参院選は、大勝利とまではいかないほうが橋下氏にとっては都合が良いのかもしれません。これに関しては、あの大飯原発の稼働容認のことが思い出されます。あれに関しては、私は、もしどこまでも稼働反対として突っ張っていれば、橋下氏は、政治生命を失ったと思います。まあ、国会議員にもなれて、維新の会の代表にはなれるかもしれませんが、大きな流れになることは完璧に不可能になったことでしょう。

あのとき、橋下氏をかなり見直しました。それまでは、あまり政治のことを知らなすぎ、特に国政に関しては知らなすぎと思っていました。しかし、橋下氏はかなり勉強しているようで、日に日に変わっています。今回もし、橋下氏が、私が述べたような背景で、あのような発言を意図して意識してしたとしたら、橋下氏相当器が大きいですし、相当の策士ですし、将来大物になると思います。いずれせよ、後一二年は見てみないとわからないとは思いますが、私はそう思います。皆さんは、どう思われますか?

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2012年11月20日火曜日

安倍晋三氏の無責任な経済政策 - 池田 信夫氏−【私の論評】安倍総裁を無能呼ばわりしたつもりでしょうが、矛盾点が露呈してますが?!

安倍晋三氏の無責任な経済政策 - 池田 信夫

池田信夫氏
・・・・・・<前略>・・・・・・・
  中でも重要なのは、金融政策だ。安倍氏は『インフレ目標の達成のためには無制限に緩和をしてもらう』というが、こういう無責任な政策を公言するのは危険だ。日銀が無制限にマネタリーベースを増やせば、ハイパーインフレが起こることは自明である。それは通貨の信認が毀損されるからだ。安倍氏は『マネーを増やしていけばどこかでマイルドなインフレになる」と信じているのかもしれないが、残念ながらそういうことは起こらない。次の図は各国の中央銀行のバランスシートのGDP比だが、日銀はECBと並んで世界最大である。安倍氏の賞賛するFRBの2倍近い。

なぜそういうことが起こらないかも理論的に説明できる。金利がゼロに貼りついた流動性の罠では、マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えないからだ。これは大学1年生の試験問題なので、安倍氏が自分で考えることをおすすめしたい。

・・・・・<後略>・・・・・・・

この記事の詳細はこちらから!!

【私の論評】安部総裁を無能呼ばわりしたつもりでしょうが、矛盾点が露呈していますが?


さて、上の記事、随分そっけないです。それに、矛盾点が露呈しています。特に上の文章は、経済や金融のことを理解していなくても、十分看破できます。ただし、言葉の意味を正確に理解していなと、理解できないかもしれません。言葉の定義をしつつ、矛盾点を掲載していきます。

結論からいうと、池田氏は、安倍総裁が、「インフレ目標の達成のためには無制限に緩和をしてもらう」という金融政策を行えば、「ハイパーインフレが起こることは自明である」と述べているにもかかわらず、その直後に、「金利がゼロに貼りついた流動性の罠では、マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない」、要するにいくら金融緩和しても、インフレにならないと語っているわけです。これは、完璧に矛盾しています。

もっと簡単にいえば、「安倍総裁の言っているような金融緩和をすれば、ハイパーインフレになる。現在日本経済は、流動性の罠にはまっているので、いくら金融緩和をしても、インフレにはならない」ということを言っているということです。酷い矛盾です。

さらに、最後で、憎々しげに、「なぜそういうことが起こらないかも理論的に説明できる。金利がゼロに貼りついた流動性の罠では、マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えないからだ。これは大学1年生の試験問題なので、安倍氏が自分で考えることをおすすめしたい」と述べています。これは、意見というよりは、個人攻撃に近いです。

東京大学1年生!!
本当に大学1年生になったつもりで、この試験問題を考えてみます。マネーストックとは、世の中に流通している預金通貨を含むお金の総量と考えていいのです。池田氏は、日本経済は、流動性の罠にはまっているので、どれだけ日銀がマネタリーベース、つまり、日銀券を発行しようとも、市中に出回るお金の総量が増えることはないと言っているのです。

では、「流動性の罠」とは何かといえば、wikipediaによれば、「金融緩和により利子率が一定水準以下に低下した場合、投機的動機に基づく貨幣需要が無限大となり、通常の金融政策が効力を失うこと」となっていますが、これだけ読むと何やら良くわからなくなります。確か、古典派経済学者のりカードが最初に言い出したものだと思います。過去の日本の経済状況に対して、あのポール・クルーグマンが著書で指摘していたと思います。


池田氏の記事にそって、説明すると、流動性の罠にはまった状態では、 名目金利がゼロの状況であり、一般企業が、金利がゼロであっても銀行からお金を借りようとはしない状況です。だから、そのような状況では、日銀がいくら金融緩和を行なってお金を市場に提供したとても、市中に出回るお金の量は増えないということです。

なぜなら、一国の経済が流動性の罠にはまっている状態では、、本来あるべき名目の金利水準はマイナスであってしかるべきで、そしてマイナスの金利であれば、一般企業の資金需要も起こり、世の中に流通するお金の量が増えることになりますが、現実の世の中では名目金利をゼロ以下に引き下げることができず、従って、一般企業の資金需要を引き起こすことができないので、世の中に出回るお金の量は増えないということです。

名目金利をゼロ以下に引き下げるとは、現実世界においては、銀行からお金を借りると、利子を払うのではなく、逆に銀行から利子分のお金をさらに上乗せしてもらえるということです。そんなことは、銀行だって、商売でやっているので絶対にできません。だから、銀行はお金をかせなくなるということです。であれば、いくら、中央銀行がいくら市中銀行にお金を提供しても、銀行は企業にお金を貸すことはなく、よって、市中に出回るお金も増えないということです。


そうして、現実に今の日本では、銀行がお金を貸すことができず、大量のお金が滞留しているのも事実てす。あの維新の党の石原元東京知事は、知事時代に都営銀行を設立しましたが、そのときの設立趣旨は、「中小企業は、銀行からお金を借りようにも借りられないから、困っている。だから、都営銀行を設立して、中小企業お金を借りやすくする」というものでした。しかし、この銀行ご存知のとおり、大失敗です。現実には、不良債権だらけになっています。


池田氏は、こうした回答を求めているのだと思います。これで、満点かどうかはわかりませんが、流動性の罠だけではなく、ケーススタディーも出しているので、少なくとも及第点はいただけるものと思います。

では、日本経済は、この流動性の罠からは、永遠に逃れることはできないのでしょうか。そんなことは、ないと思います。確か、リカードが流動性の罠を発表して以来、かなりの間、そのような事例がなくなり、日本が流動性の罠にはまったのは、百年数十年ぶりのことだったはずです。全く久しぶりに、そのようなことが起こったので、最初は何が起こっているのかクルーグマン博士どころか、誰も気付かなかったというのが実情です。リカードの時代に流動性の罠にはまった国があったのは確かです。だからこそ、このような事例が残ったのだと思います。しかし、どこの国かは知りませんが、流動性の罠から抜けだしたことだけは間違いありません。だから、日本がこの罠にはまったのは、久しぶりだったのです。一度流動性の罠にはまったからといって、永遠に抜け出せないということはないはずです。

そういわれてみれば、この流動性の罠から抜け出すための、処方箋を上にも出てきた、クルーグマン博士が出していたはずです。それが、インフレターゲット理論です。

ポール・クルーグマン氏
これは、流動性の罠にはまった、国の中央銀行(日本では日銀)が、長期的なインフレ目標を設定して、それに向かって断固たる姿勢を取り続けるというメッセージを出すことで、さしもの流動性の罠も解消の方向に動くのではないか、それを期待しようというものです。

クルーグマン博士がこの政策提言をしたときには、侃侃諤諤の議論が沸き起こりました。そもそも中央銀行の最大の使命は、貨幣の流通をコントロールして、物価を安定させることだ。それなのに自らインフレを引きおこそうとは、どういう了見だ、という批判が巻き起こりました。

しかし、現在では、アメリカのバーナンキもインフレターゲットを設定していますし、他の先進国でも、当たり前に実施する金融政策の手法のうちの一つになりました。こうして、インフレターゲットを設定するやり方を今ではリフレ政策と呼びます。

これについては、インフレ期待そのものについての、経済学的あるいは倫理的な批判が依然としてあるほかに、果して緩やかな、インフレが実現できるのか、危ぶむ声も未だにあります。日本では、池田氏が、その代表格です。

しかし、古くは、日本では、昭和恐慌(世界恐慌の日本版)での、高橋是清による、リフレ政策を実行したことにより、いち早く恐慌から脱出できたことがわかっています。高橋 是清 自身は、インフレターゲット理論とか、リフレ政策など知らなかったと思いますが、いわゆる世間一般の常識に従い、結果としてリフレ政策を実施したのだと思います。リフレ政策を実行しなかった他国が不況から脱出できたのは、戦争が始まってしばらくしてからでした。要するに、戦争を遂行するためには、膨大な戦費が必要であり、これを可能にするため、インフレなど無視して、大幅増刷などの思い切った金融緩和政策、積極財政政策をとらざるをえなかったためです。要するに、しぶしぶリフレ政策をとらざるをえなくなってから、恐慌から脱出できたということです。

高橋是清
それに、1990年代の研究により、世界恐慌の根本原因がデフレであることがはっきりしました。今では、デフレから脱出するには、リフレ政策がかなり有効な手法の一つであることが実証されています。それに、最近では、不況時に大規模な金融緩和をすると、ハイパーインフレになるとする池田氏等の主張は、イギリスの事例が裏付けているように見られていましたが、これも、そうではないことが明らかになりました。

イギリスの事例とは、不況に喘いでいた、イギリスが、財政赤字を解消するため、2010年に付加価値税の大幅増税を行いしまた。その後まもなく、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)が、大増刷を含む、大規模な金融緩和をしました。その後、イギリスのインフレ率は、4%を上回り、それたみたことかと、池田氏をはじめとする世界の反リフレ派が、「不況時に大規模な金融緩和をすれば、ハイパーインフレになる」ことの実例だとしていました。しかし、これは、今年に入って、2%台の穏やかなインフレとなり、そうではなかったことが実証されました。これについては、以前のブログにも掲載しましたので、その記事のURLを以下にコピペしておきます。詳細は、こちらを御覧ください。

【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も―【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!


収束したイギリスのインフレ
それに、クルーグマン博士は、デフレ解消への処方箋としてのほかに、雇用を作り出すためにも、一定のインフレは許容すべきだとかねがね考えていました。そうして、今では、世界中の中央銀行が、雇用情勢の調整を自らの、主要な任務とするに至っています。いずれにしても、どうも、池田氏の論考は、問題ありです。イギリスのインフレにしても、4%台を超えなかったわけですから、もともとは、ハイパーインフレなどとはいえません。ハイパーインフレというには、4%内外では小さすぎます。

安倍総裁が最近打ち出しているのは、まさにリフレ政策であり、クルーグマンが昔提唱し、今では、多くの国で実施されている、金融政策、財政政策をしようとているだけです。何も、安倍氏独自の突飛で、珍奇方法ではんく、他国でうまくいった方法を日本にも適用しようとしているだけです。

それに、最近では、日銀白川総裁も、野田総理も、安倍総裁の提唱する金融政策、特に日銀の建設国債引受に反対しているようですが、復興の財源などもともとの、復興税にするのでなく、建設国債にすべきでした。財務省は、復興税でうまく行った例を古今東西にないかをかなり調べたようですが、結局そのような事例などあるはずもなく、結局増税のための理論的根拠にすることはできませんでした。それに関しては、以前のブログにも掲載したことなので、以下にその記事のURLを下にコピペしておきます。詳細は、こちらを御覧ください。

まだ生々しい震災の記憶

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それに、経済が安定しているときや、インフレ気味のときではなく、こんな"デフレ"とも呼べるような経済状況の最中に、日銀が引き受けたとしても何の問題もないと思います。

それにしても、こんな安倍批判をするくらいなら、日銀総裁も、野田総理(この方、もう半分総理大臣ではないので、かわり財務省)も、なぜ現状のようなデフレ状態がかくも長い間放置されてきたのか、その合理的な説明をすべきです。そうして、それに対する対策を速やかに行うべぎです。

もう日本は、デフレ傾向になってから20年、誰もが認めざるをえない統計上でもしっかりとデフレになってからも、14年目に突入しています。この間、小渕氏と、麻生氏だけが、積極財政を行いました。そうして、それなりに成果をあげていました。小泉政権だけが、金融緩和措置を行いました。これも、それなりに成果をあげていました。この時期には、あの懐かしい、ライブドア事件や、村上ファンド事件などがおこりました。今では、酷いデフレなので、こんな事件が起こりえる余地すらない状況です。

それに、過去20年間にわたって、日本では、金融緩和と、積極財政を同時に実施したことは一度もありません。もうそろそろ、いろいろ、反論があったにしても、これを同時実施する時期に来ていると思います。それに、池田氏は、大々的に金融緩和を実施しても、大学1年生の問題を通してインフレにならないと、確約してくれています。実際にリフレをやってみても、インフレにはならないそうなので、ましてや、ハイパーインフレなどにはならないということで、安心して実行できるではありませんか!!リフレ政策を実施すると、うまくいくか、何も変わらないかのいずれかということです。何も変わらないということは、悪いこともないということです。そうして、安部総裁は、それを実行しようと主張しているわけです。では、過去20年間政府・日銀やってきたことの真逆をやってみる価値は十分にあると思います。

そう思うのは、私だけでしょうか?





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