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2020年8月27日木曜日

中国、弾道ミサイル4発発射で南シナ海が戦場に…米国に“先に手を出した”代償―【私の論評】中国には、かつての北朝鮮のように、ミサイルを発射しつつ米国の様子をうかがい、あわよくば取引をしようとする暇もない(゚д゚)!

中国、弾道ミサイル4発発射で南シナ海が戦場に…米国に“先に手を出した”代償

文=渡邉哲也/経済評論家

中国の習近平国家主席

南シナ海をめぐるアメリカと中国の応酬が激化している。8月26日、ドナルド・トランプ政権は中国企業24社に事実上の禁輸措置を発動することを発表した。

 国有企業である中国交通建設の傘下企業などについて、南シナ海での軍事拠点建設に関わったとして、「エンティティー・リスト」に27日付で追加する。今後、対象企業にアメリカ製品を輸出する場合は米商務省の許可が必要となるが、申請は原則却下されるという。

 中国交通建設は習近平指導部が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」に関わる企業であり、ほかにも、デジタル通信機器やGPS関連機器を手がける広州海格通信集団などが含まれており、今後大きな影響が出るものと予測される。

 ウィルバー・ロス商務長官は「(制裁対象企業が)中国の挑発的な人工島建設で重要な役割を担っている」と断定しており、南シナ海関連では初めてとなる経済制裁のカードをここで切ってきたことになる。ただし、今回の措置は「アメリカ原産技術の禁輸」であり、金融制裁を伴うものではない。そのため、警告の意味合いが強く、短期的には影響が限定されるだろう。

 また、米国務省も、南シナ海の埋め立てや軍事拠点化などに関与した中国人と家族に対して、入国拒否などのビザ(査証)制限を実施すると発表した。マイク・ポンペオ国務長官は、「アメリカは中国が南シナ海での威圧的行動を中止するまで行動する」と警告している。

 中国が南シナ海で人工島を建設するなど軍事拠点化する動きについて、7月には、ポンペオ国務長官が「完全に違法」「世界は中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うのを認めない」と明言し、アメリカが初めて公式に否定した。また、同月には南シナ海で米中が同時に軍事演習を行い、一気に緊張が高まったという経緯がある。

中国のミサイル発射で南シナ海が“戦場”に

 一方、中国は8月26日朝に南シナ海に向けて中距離弾道ミサイル4発の発射実験を行ったことが報じられており、ミサイルは南シナ海の西沙諸島と海南島に挟まれた航行禁止海域に着弾したという。しかも、そのうち「東風26」は米領グアムを射程に収めることから「グアムキラー」と言われ、同じく発射された「東風21D」とともに「空母キラー」と呼ばれる強力なものだ。

 中国は前日に軍事演習区域を米軍偵察機が飛行したことに対して「あからさまな挑発行為だ」と非難しており、アメリカを牽制する意図があることは明らかだ。しかし、あくまで威嚇的な行動であるとはいえ、これは事実上の宣戦布告と言っても過言ではない。南シナ海を舞台にした米中による戦争状態を加速させる動きであると同時に、中国がアメリカに対して先に手を出してしまったことの代償は大きなものになるだろう。

 すでに、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中国の在留アメリカ人に対して帰国命令を出しており、残留者については保護の対象外としている。そのため、中国には保護すべきアメリカ人はいないということになっている。

 中国に対して強硬姿勢を取るアメリカは、台湾との関係を強化している。8月10日には、アレックス・アザー厚生長官が台湾を訪れ、蔡英文総統と会談を行った。これは、1979年の断交以来、最高位の高官訪問であり、中国に対する牽制の意味合いも多分に含まれているだろう。

 当初は8月末に予定されていたG7サミット(主要7カ国首脳会議)は11月に延期され、世界的な話し合いの場は先送りとなった。今後は、9月半ばに迎える、華為技術(ファーウェイ)や北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画アプリ「TikTok」に対する制裁期限、9月26日から実施される香港の貿易上の優遇措置廃止などが、事態が動くタイミングとなるのだろう。

 また、アメリカ大統領選挙の選挙戦が本格化する中で、中国共産党員のアメリカ資産凍結と入国拒否、アメリカからの退去命令などの、より強い制裁が発動されるのかも注目に値する。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】中国には、かつての北朝鮮のように、ミサイルを発射しつつ米国の様子をうかがい、あわよくば取引をしようとする暇もない(゚д゚)!

いよいよ、中国が本格的に北朝鮮化してきたようです。これから、中国は北朝鮮のように、ミサイルを頻繁に発射しつつ、核を開発し、様子をうかがいつつ米国との取引ができる状況になれば、ミサイルの発射を控えるということを繰り返すようになるのでしょうか。

いずれにせよ、中国が北朝鮮のようになることは十分に予想できました。中国共産党が「香港の1国2制度破棄」によって、引き返すことのできない、ルビコン川を渡ったのは明らかだらかです。習近平氏は従来から「毛沢東崇拝」を隠しもしませんでしたが、習近平政権の毛沢東化はついに「ルビコン川」を渡ったと言えるでしょう。

ルビコン川 川幅の身近いところは1mに満たない

「香港国家安全維持法」が6月30日に行われた中国全人代常務委員会で可決されましたが、施行されるまでこの法律の全文は公開されませんでした。さらに、中文のみで英語のものはありません。香港で施行される法律で英文がないものは初めてだろうと言われています。

しかも、この法律は中国共産党の統治下にはいない国外の外国人や組織にまで適用するという異常ぶりでした。

この時にすでに、中国は英語でいうところの"point of no return"(引き返せない地点)、すなわちルビコン川を渡ってしまい、かつてのナチス・ドイツと同じように、「殲滅すべき人類の敵」と民主主義国の国々から認識されたのです。

この「人類の敵」は、当時のナチス・ドイツと比較すれば、さほど強力ではないようです。特に核兵器に関しては、ソ連の核兵器を継承したロシアにも劣ります。さらに、人民解放軍は人民を抑圧するための組織であり、養わなければならない兵隊の数は多いがですし、長期にわたる一人っ子政策で、ほとんどが一人っ子ということもあり、外国と戦うための戦力としてはあてになりません。

ナチス・ドイツのV2ロケット

2隻の国産空母はほとんど戦力になりません。そうして、これは特に強調しておきますが、対艦哨戒能力に関しては、中国は時代遅れであり、日米とは比較にならないほど遅れています。また、潜水艦に関しても、ステルス性において、日米とは比較の対象にならないほど遅れています。

これは、何を意味するかといえば、日米の潜水艦は中国に発見されず、南シナ海や東シナ海、その他の海域を自由に航行できますが、中国の潜水艦はすぐに日米に発見されるということです。実際、最近では奄美大島の沖を中国の原潜が通過し、それを日本側がいちはやく発見し、河野防衛大臣が、それを公表しました。

ちなみに、日米の潜水艦は、南シナ海、東シナ海は無論のこと、中国の近海やもしかすると、港の中まで自由に航行しているでしょうが、それに関して中国のメディアが公表したことはありません。というより、中国側がそれを発見する能力がないです。

最近、サイトなどで中国の軍事力についての記事をみると、南シナ海で米中が戦えば米軍が負けるなどという、噴飯ものの記事をいくつか見ることもあります。

それらの記事には、対潜哨戒能力や潜水艦のステルス性については、なぜか一言も触れらておらず、その上で、ミサイルがどうの、航空機がどうのと、もっともらしく述べられ、結論として米国が負けるとしていました。

そういう記事には、「日米は南シナ海や東シナ海では潜水艦を使わないのですか?」と直截に質問をしてみましたが、返事がかえってきたためしはありません。痛いところを突かれたのでしょぅ。

特に、米国の原潜は、中国に発見されることなく、世界のすべての海域を自由に航行し、核を含めたあらゆるミサイルを発射することができます。日本の潜水艦も米国の潜水艦よりステルス性に関しては優れています。これでは、最初から勝負になりません。

要するに、南シナ海でも、東シナ海でも、いや世界中の海で、中国は米国に勝つ見込みはないのです。

世界最強の攻撃型原潜、米海軍のバージニア級 

さらに、米国の世界の金融支配は、中国としてはいかんともしがたく、世界金融市場をカジノにたとえると、米国がカジノの胴元とすれば、中国はいくら金をかなり使うとはいっても一プレイヤーに過ぎず、胴元に対抗しようとしても、対抗するすべがありません。胴元がプレイヤーに対して、カジノから出ていけといわれたらおしまいです。

あるとすば、中国国内にある米国企業や銀行の支店に対して、取引停止や資産凍結ができるだけです。それは、全体からみればほんのわずかなものに過ぎません。もし、中国がこれを大々的(とはいいながら最初から限界がありますが)に実施するなら、米国も国内で同じことを実行し、中国がさらに疲弊するだけです。

要するにも金融でも、軍事的にも米国は中国の敵ではないということです。そうして、米国は軍事衝突の前に、中国に対してあらゆる金融カードを切ることになります。そうされても、中国には対抗手段がほとんどありません。

では、今後中国がどのような道を選ぶことができるかというと、以下の二つしかありません。

1) 現在の北朝鮮のように、毛沢東時代の貧しい鎖国をする国になる。あるいは、北朝鮮やイラン、その他の少数の国々と経済圏をつくりその中で細々と貿易をする体制になる。
2)「人類の敵」として世界中の先進国から攻撃を受け滅亡する

中国が、ここ数十年驚異的な経済発展を遂げることができたのは「改革開放」という資本主義・自由主義的政策を共産主義に変わって、国家資本主義ともよべる体制を築き実行したからです。その中のほんの一部の自由の象徴が香港でした。

「改革開放」が存在しない中国大陸は、北朝鮮と何ら変わりがありません。習近平氏の運が良ければ、北朝鮮のように貧しい国で王朝を築くでしょうが、毛沢東時代と違って「自由と豊かさを知った」中国人民を押さえつけるのは至難の技でしょう。

ただ、現在の中国と北朝鮮とは根本的に異なることもあります。金正恩は、根本的に中国嫌いです。それが証拠に、中国に近いとされた、張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長と、実の兄である、金正男氏を殺害しています。

金正恩にとって、最大の関心事は、金王朝を存続させることです。それを邪魔するのが、中国であり、北朝鮮内の親中派です。これを金正恩は許すことができないのです。

北朝鮮内の親中派はことごとく処刑すれば、それですむかもしれませんが、中国に関しては、そう簡単にはいきません。黙っていれば、中国はすぐにも朝鮮半島に浸透して、半島を我が物にしてしまうでしょう。

しかし、それを防いでいるのが、北朝鮮の核であり、ミサイルなのです。北の核は、無論韓国や日本に向いているのですが、中国に向けられているのです。ただ、金正恩にも、中国を無碍にできない事情もあります。現在厳しい制裁を受けているので、何かと中国の手助けが必要であるということです。だから、表だって中国に対する反抗的な態度をみせないだけです。

しかし結果として、北朝鮮とその核の存在が、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるのです。このあたりを理解しているので、トランプ政権も現在のところは、北朝鮮を泳がせて様子見をしているというのが実情なのでしょう。

それに、米国(韓国は含まず)と中国、ロシア、北朝鮮とは、朝鮮戦争の直後の休戦協定で、38度線を互いにずらすことをしないという取り決めをしているので、みずからその現状維持を破るということはしたくないという考えもあるでしょう。

しかし、中国は、北朝鮮とは立場が異なります、中国は北朝鮮のように米国の大きな敵と対峙しているわけではありません。中国がかつての北朝鮮のように、ミサイルを頻繁に発射すれば、米国はどんどん金融制裁を推進し、最終的に人民元とドルの交換を停止したり、中国の所有する米国債を無効化する措置まで実行することになるでしょう。

そうなると、中国の選べる道をは上で示した二つしかなくなるのです。そうして、中国がどちらかの道を選べば、北朝鮮の将来もきまります。

一つは、他の国が入ろうが、入るまいが、北朝鮮が中国の経済圏の中に入り、他の経済圏からは切り離され、細々と生きていく道です。ただし、これは中国の浸透を嫌う金正恩がなんとか避けたいと思う道です。

もう一方の道は、中国が「人類の敵」として世界中の先進国から攻撃を受け滅亡し、全くの別の国、もしくは国々になった場合です。

この場合、中共が崩壊した後の新体制は、少なくとも米国とは対立するものとはならないため、北朝鮮と核の存在が朝鮮半島への浸透を防いできたという状況は消えるというか、必要がなくなります。そうなると、北朝鮮は滅ぶしかなくなります。特に、金王朝は滅ぶしかなくなります。

どちらの道も厳しいですが、北朝鮮が存続するためには、金正恩がいやがるかどうかは、別にして中国の経済圏の中で細々と生きていくしかありません。

米国としては、中国との対立の前には、北朝鮮は従属関数にすぎないと考えているでしょう。米国にとって、最優先は、中国です。

いずれにしても、中国にはかつての北朝鮮のように、ミサイルを発射しつつ、米国の様子をうかがい、あわよくば、取引をしようとする、暇もないようです。そうして、今の北朝鮮は中国の出方次第です。どちらの未来も明るくはありません。

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2020年8月26日水曜日

台湾、香港、中国の社会運動から見る青春と挫折、未来への記録 映画「私たちの青春、台湾」公開―【私の論評】今日の台湾は、アジアの希望だ(゚д゚)!

台湾、香港、中国の社会運動から見る青春と挫折、未来への記録 映画「私たちの青春、台湾」公開

「私たちの青春、台湾」ポスター

[映画.com ニュース]2014年に起きた台湾の「ひまわり運動」のリーダーと、中国人留学生ブロガーの活動から、台湾の民主化の歩みとその後を追い、台湾アカデミー賞こと金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した「私たちの青春、台湾」が10月31日、公開される。

23日間に及ぶ立法院占拠、統率の取れた組織力、全世界に向けたメディア戦略で成功を収めたといわれる一方、立法院内では、一部の指導者たちによる決議に対する不満など、困難に直面し、多くの課題を残した「ひまわり運動」。

陳為廷(チェン・ウェイティン)は、林飛帆(リン・フェイファン)と共に立法院に突入し、ひまわり運動のリーダーになった。そして、中国からの留学生で人気ブロガーの蔡博芸(ツァイ・ボーイー)は、“民主”が台湾でどのように行われているのか伝え、大陸でも書籍が刊行される程の支持を集めた。そんな彼らの活動を見ていた、傅楡(フー・ユー)監督は「社会運動が世界を変えるかもしれない」という期待を胸に抱いていたが、彼らの運命はひまわり運動後、失速。運動を経て、立法院補欠選挙に出馬したチェンは過去のスキャンダルで撤退を表明。大学自治会選に出馬したツァイは、国籍を理由に不当な扱いを受け、正当な選挙すら出来ずに敗北する。

『私たちの青春、台湾』傅楡(フー・ユー)監督

そして、香港の雨傘運動前の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)との交流など、カメラは台湾、香港、中国の直面する問題、海を越えた相互理解の困難さ、民主主義の持つ一種の残酷さを映し出していく。

アジア初の同姓婚法制化、蔡英文総統の歴史的再選、女性議員がアジアトップ水準の4割を占め、世界も注目した新型コロナ対策などで関心を集める台湾。フー・ユー監督は、金馬奨授賞式で涙を流しながら、「いつか台湾が“真の独立した存在”として認められることが、台湾人として最大の願いだ」とスピーチし、大きなニュースとなった。

私たちの青春、台湾」は、10月31日からポレポレ東中野ほか全国順次公開。また、フー・ユー監督の人生と台湾の民主化の歩みを書いた、「わたしの青春、台湾」(五月書房新社)邦訳版が、映画公開にあわせ10月23日に発売される。

▼「ひまわり運動」とは
 2014年3月17日、国民党がサービス貿易協定をわずか30秒で強行採決した。翌18日、これに反対した学生たちが立法院(国会)に突入し、23日間にわたって占拠した。占拠直後から多くの台湾世論の支持を集め、与党側は審議のやり直しと、中台交渉を外部から監督する条例を制定する要求を受け入れた。議場に飾られたひまわりの花がシンボルとなり、この一連の抗議活動を「ひまわり運動」と呼ぶ。運動は一定の成果を残し、同年11月の統一地方選挙での国民党大敗を導き、台湾政治の地殻変動を引き起こした。翌年にはひまわり運動を起こした若者らが中心となり、政党・時代力量が設立された。ひまわり運動は、近年の台湾アイデンティティの興隆を象徴する出来事となった。

【私の論評】今日の台湾は、アジアの希望だ(゚д゚)!

一体何が台湾を変えたのか?この映画は、この疑問に答える映画の一つになりました。 2014年の「ひまわり学生運動」は大きな転換点であるように思います。そう、学生や運動家たちが国会を占拠した、あの事件です。実はこの事件だけではない。台湾の歴史を振り返ると、市民運動が政治を動かしてきたことが分かります。

もともと台湾は、現在の大陸中国と比較しても、比べ物にならないほどの独裁国家でした。1949年から1987年の38年間、台湾では戒厳令が敷かれ、中国国民党(=国民党)による一党独裁政治が行われていました。この38年間にわたる戒厳令は、決して名誉ではない世界最長記録です。

台湾 の離島、緑島 の政治犯収容所、蠟人形によって当時の様子が復元されている

白色テロ」とも呼ばれるその時代に、政治活動や言論の自由が厳しく制限され、多くの知識人が弾圧され、投獄され、処刑されました。それでも民主化を望む多くの知識人が、「党外(=国民党の外で、の意)運動」と呼ばれる民主化運動を行っていました。

中でも特に有名なのが1979年の「美麗島事件」です。これは『美麗島』という雑誌社が台湾南部の都市・高雄で主催した反体制デモで、例にもれず言論弾圧に遭い、主催者を含め数十人が有罪判決を受けました。裁判の過程でむごい拷問に遭った人も多かったとされています。デモ自体は鎮圧されたのですが、これがきっかけで国民の政治への関心が高まり、台湾の民主化を推し進める結果となったのです。

美麗島事件後、国民から民主化を求める声が高まり、やがて政権が押さえつけられないほど勢いを強めていきました。1986年、政権に対抗すべく運動家たちは政府が敷いた結党禁止令を破って民主進歩党(=民進党、今の与党)を結成しました。

「美麗島事件」で投獄された活動家や裁判に関わった弁護士の一部は民進党の党員となりました。翌年、長い戒厳令が解除され、台湾はようやく民主化を迎えました。民進党の党員の中には、政府の要職についた人も多かったのです。

これら独裁政治や民主化運動の歴史は、台湾では義務教育できちんと教えられている。感じ方は人それぞれだろうが、「今の民主主義は先人が長い時間をかけて、血を流しながら反体制運動を繰り返してやっと手に入れたものだ」ということを、台湾人なら少なくとも知識としては知っています。「望む政治を手に入れるためには声を上げ、行動しなければならない」というのが、民主化を求める台湾の歴史に刻まれたDNAであるように思います。

1987年に戒厳令が解除されたは良いのですが、政治改革のペースは緩慢でした。それに不満を覚え、1990年に大学生を中心に「野百合学生運動」が行われました。この学生運動の直接的あるいは間接的な成果として、国会議員の総選挙、そして国民の直接投票による総統の選出を可能にした制度改革の実現が挙げられます。それまでの国会議員は1947年選出以来ずっと改選されておらず、総統も国民ではなく「国民大会」という形骸化した機関が選出していたのです。

その後、1996年に初めて総統選挙が行われ、2000年の総統選挙では史上初の政権交代が実現し、国民党に代わって民進党が与党になりました。この政権交代は、台湾社会は本当の意味で民主化したことを示しています。

2000年に当選した陳水扁(ちんすいへん)総統は2004年に僅差で再選を果たすも、2006年に汚職疑惑が噴出し、彼の退陣を求めて数十万人規模のデモが何度も行われました。その後、民進党の支持率が低迷し、2008年の総統選挙では国民党の馬英九が民進党の立候補者に大差をつけて当選しました。国民党は与党に返り咲き、馬英九は2012年に再選を果たしました。ちなみに陳水扁は任期満了後に汚職で有罪判決となり、収監されました。

陳水扁

親中派である国民党の政策は中国に配慮するあまり、台湾の(特にリベラル派の)国民の反感を買っていました。その一例として、2008年の「野いちご学生運動」があります。

当時、中国の海協会(中国の対台湾交渉窓口機関)会長・陳雲林が会談のために台湾を訪問しましたが、政府は治安維持の名目で人権侵害とも取れる政策を行いました。空港や道路を封鎖したり、理由なく職務質問や任意捜査を行ったりしました。台湾独立のスローガンや中華民国の国旗を掲げるだけで拘束された人もいました。そんな中で政権に対する反発として行われたのが「野いちご学生運動」ですが、名称はもちろん、前述の「野百合学生運動」にちなんでいます。

国民党が政権に返り咲いた2008年から、台湾では毎年何かしらの社会運動や抗議デモが行われました。都市再開発に伴う土地の強制収用、地下鉄建設に伴うハンセン病療養所の取り壊し、性的少数者の差別問題、食品安全問題、賃金や退職金の不払い問題。

それらの問題はまるでがん細胞のように、面積が日本の十分の一しかない台湾という小さな島を日々蝕んでいくように見えました。
やがて「もう十分だ」と言わんばかりに爆発したのが、2014年の「ひまわり学生運動」です。きっかけは台湾と中国のサービス貿易協定であり、これは台湾の国民生活に幅広く影響を及ぼす協定ですが、国民党政権は説明責任を果たすことなく、数の力に頼って30秒で強行採決しました。
不満を覚えた大学生や社会運動家は「貿易協定を撤回せよ、民主主義を守れ」をスローガンとし、国会の議場に乗り込み、国民の幅広い支持のもとで警察と対峙しました。運動はやがて3週間の籠城に発展し、50万人規模のデモも行われました。

「私たちの青春、台湾」は、この「ひまわり学生運動」の空気感を余すところなく伝えてくれたようです。

運動は最終的に政権側の譲歩で収束し、サービス貿易協定は撤回されたのですが、成果はそれだけではありません。ひまわり学生運動がきっかけで、それまで政治に無関心だった多くの若者が政治の重要性を再認識し、積極的に参加するようになりました。これらの若者を指して「覚醒青年」という言葉が生み出され、「時代力量」など小さなリベラル政党が結成されたのもこの時期でした。

「覚醒青年」と呼ばれる若者と、「時代力量」などのリベラル新興勢力を中心に、人権問題や社会正義に対する関心が高まりました。そのため、世代間の平等、居住権の平等、婚姻の平等、移行期正義(=独裁時代に弾圧された政治犯への名誉回復や補償など)、マイノリティの差別解消など、人権を重視する政策を打ち出す政党が支持を集めるようになりました。一方、保守派の国民党は支持率が低迷し、2014年末の地方選に続き、2016年の総統選も大敗を喫しました。

2016年に民進党は再び政権を握り、史上初の女性総統・蔡英文が誕生しましたが、民進党政権は決して安泰ではありません。中学中退でトランスジェンダーである唐鳳(オードリー・タン)をIT大臣に起用したり、年金改革や同性婚を断行したりなど、国民党政権では考えられなかった大胆な人事や政策を打ち出しましたたが、そのせいで保守層や既得権益層から反感を買いました。

一方、労基法改正などの政策は「労働者の権利を無視した」として、一部のリベラル層からも批判を浴びました。年金改革や同性婚、労基法改正を巡って、やはり抗議デモが何度も行われました。そんな中で、2018年末の地方選では民進党が敗北しました。

習近平の独裁体制や香港デモの勃発で、中国に呑み込まれる危機感が国民の間で募り、その結果として2020年総統選挙では親中派でない民進党が勝利し、蔡英文が再選を果たしました。

しかし2018年の敗北を経験した民進党は、自らの政権は決して盤石ではないことを知っているようです。100年の歴史を持つ国民党のように強固な支持層があるわけではなく、リベラル志向の若者も多くは浮動票で、政策を誤ればすぐに離れるのです。

何より民進党自身が反体制デモから生まれた政党なので、市民運動の力をよく分かっているようです。だからいつも強い危機感を持って政権の運営に当たっており、利権や前例、党内のしがらみなどよりも、常に国民を第一に考える姿勢を見せているようです。そしてそれがコロナ禍の対応にも反映されたのです。

「ひまわり学生運動」後の台湾の若者は、選挙のために帰省し、日常生活で政治的な会話をし、SNSで自分の意見を表明し、臆することなく政権を批判します。

かつて、現在の中国よりも、比べ物にならないほどの独裁国家だった、台湾が変わったのは、こうした市民学生運動の力があったことは間違いありません。

誤解のないように最後に付け加えておきますが、台湾と日本の市民学生運動の違いはなにかというと、日本はあくまでも「市民学生運動ごっこ」に過ぎないことです。台湾は違います、間違いなく台湾社会の転換期を作っています。その差はなんなのかというとを、日本の若者や市民たちに、しっかり真剣に考えてほしいです。

シンガポールの独裁者故リー・クアン・ユー氏はかつて、決して西洋の自由民主主義が誤りだとは主張しませんでした。ただ「アジア人」には向いていないとは述べていました。アジア人は、個人の利益よりも集団の利益を上に置く考え方に慣れていると主張しました。生来、権力者に対して従順で、こうした傾向はアジアの歴史に深く根差す「アジア的価値観」なのだと主張していました。

しかし、今日の台湾をみていると、リー・クアン・ユー氏のこの考えは間違いだったといわざるをえないです。もし氏が存命だったとしたら、台湾についてどのように語るのか聴いてみたいです。

今日の台湾をみているとシンガポールも大陸中国や他のアジアの独裁国家もいつの日か、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が可能になるのではないかとの希望がわいてきます。

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2020年8月23日日曜日

「TikTok」 中国の運営会社がトランプ政権相手取り裁判の方針―【私の論評】KikTokの本当の脅威は、得られた膨大な情報をAIを用いて分析するオシントだ(゚д゚)!



世界的に人気の動画共有アプリ「TikTok」を運営する中国のIT企業に対し、アメリカのトランプ政権がアメリカ事業の売却を命じている問題で、会社側はこれを不服として裁判を起こす方針を明らかにしました。

「TikTok」をめぐってアメリカのトランプ大統領は、利用者の個人情報が中国政府に悪用され、安全保障を脅かすおそれがあるとして、これまでに運営会社である中国のIT企業、バイトダンスとの取り引きを来月下旬から禁止することやバイトダンスに対してアメリカ国内での事業を売却することを相次いで命じています。

会社側は22日、声明を出し「トランプ政権は事実関係に関心を払わず、企業どうしの交渉に干渉しようとした」と批判しました。

そのうえで「わが社と利用者への公平な対応を実現するため、司法を通じて大統領の命令に異議を申し立てるしかない」として、トランプ政権を相手取り裁判を起こす方針を明らかにしました。

会社側はSNSの公式アカウントに訴えは24日に起こすと投稿しています。

「TikTok」をめぐっては、大手IT企業マイクロソフトがアメリカ事業の買収に向けて交渉を進めていますが、その行方は不透明で、アメリカの利用者からは不安の声も出ています。

【私の論評】KikTokの本当の脅威は、得られた膨大な情報をAIを用いて分析するオシントだ(゚д゚)!

この裁判自体は、結審までには時間がかかるし、その頃には大統領選挙はとっくに終了しているだろうし、米国はこのようなことにお構いなしに、中国や「TikTok」を運営する中国のIT企業に対して制裁を課すでしょうし、場合によって結審前に、アメリカ事業の売却されてしまうかもしれず、それに運営会社側に勝ち目はなく、あまり意味がないでしよう。

TikTokの危険性については、以前から指摘されていましたが、それがはっきり示されたのは、今年の1月、米ワシントンDCに本部を置くシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics, PIIE)は最新調査報告によるものでした。

私自身は、日本や欧米の企業によって製作されたアプリに関しても、情報の不正使用もある可能性も全くないとはいいませんが、それは国家目的に使われることはないと考えています。もし、そのようなことがあれば、大問題になるからです。

しかし、中国は違います。当然のことながら、アプリで収集した情報などは、中共が必要とあれば、すべて閲覧できるでしょう。だがら、私はKikTokをはじめ、中国製や韓国製のアプリなどは使用したことはありません。

報告書によれば、他の中国開発アプリと同様に、ユーザーの個人情報や位置情報を中国にあるサーバーに送っているといいます。中国政府から情報収集の協力要請があれば、ユーザー情報を簡単に入手できます。

米国当局が問題視しているのは、一部の若い軍人が軍服のまま基地内や航空機内などで自撮りしてTikTokに投稿していることです。これらの情報に基づいて、中国当局による西側諸国の軍事活動の情報入手を許すほか、兵士らの顔面識別情報を提供することになります。

ピーターソン国際経済研究所は、TikTokはファーウェイのように、欧米各国政府の国家安全保障を脅かす可能性が高いとその危険性を強調。各国政府に対策を講じるよう呼び掛けました。

TikTokの画面、小学生の投稿

TikTokは日本の小中高生の間でブームとなっています。株式会社マイナビが運営する10代女子向け総合メディア「マイナビティーズ」が昨年11月に発表した「2018年10代女子が選ぶトレンドランキング」では、TikTokは「流行したモノ」ジャンルの2位となりました。

バイトダンス側の最新統計によれば、全世界の月間TikTokアクティブユーザーは5億人。中国国内の月間アクティブユーザーは3億人です。

2019年2月、TikTokが米国の児童オンラインプライバシー保護法に違反しているとして、児童法保護団体などが米連邦取引委員会(FTC)に訴えを起こし、TikTokはFTCから、罰金570万ドルの支払いを命じられていました。

このころから、米国議会の議員たちが次々とTikTokの情報安全問題について言及し始め、CFIUSは2019年11月1日からTikTokの調査を開始。またCFIUS(対米外国投資委員会)は、米国を代表する医療情報共有コミュニティPatientsLikeMeやゲイ専用出会い系アプリのグリンドルに対し、CFIUSの審査を経ずに、北京ゲノム研究所の元CEO王俊氏が設立したバイオテック企業iCarbonXやゲーム会社・北京崑崙万維科技が巨額投資していることを問題視し、中国企業側に支配的持ち分株の売却を要請し、中国企業側もこれに同意しました。

米国では当時、米国の患者のゲノムデータが中国に流れたり、出会い系アプリを利用しているゲイの政治家や高官の個人情報が中国側に漏れることで、脅されてスパイ行為を働いたりするリスクなど、中国製アプリの具体的な危険性に言及されはじめました。
ウォールストリートジャーナルによれば、 TikuTokはグーグルのOS「アンドロイド」の個人情報保護をすり抜け、何百万もの携帯端末から個別の識別番号を収集し、グーグルの規約に違反してユーザー追跡をしていたことが12日までに判明しています。
元ホワイトハウス国家安全保障委員会の官僚で、大西洋評議会デジタル・フォレンジック・リサーチラボ(DFRLab)のグラハム・ブルーキー主任はTikTokがもたらす米国の国家安全上の脅威を3つ挙げています。
その3つとは、
その3つとは、
(1)中国政府にはTikTokからユーザーの個人情報提供を直接要請する能力がある。

(2)ユーザーは個人情報をどのように利用されるか知るすべがない。

(3)投稿内容に対し中国が検閲できる。(1)中国政府にはTikTokからユーザーの個人情報提供を直接要請する能力がある。

これら、3つは当然といえば当然です。そもそも、中国に国家情報法国防動員法がある限り、中国と対立を深める米国は当然のこととして、日本を含むすべての国々にとって、あらゆる中国企業は国家安全上のリスクがある、ということになります。


TikTokだけでなく、微博、微信、百度翻訳などのあらゆるアプリも、またアリババや京東といったEコマース企業、トリップドットコムなどの旅行サイトも、ネットイースなどのゲーム企業も個人情報を中国政府に渡すリスクはあり、スパイ企業になりうる、ということになります。

実際、アップルは人気オンラインゲームも含めて3万以上のアプリをアップルストアから撤去しました。

トランプ大統領自身もすでにTikTokの被害にあっています。トランプ大統領のオクラホマ州タルサ集会(6月20日)に100万人の参加申し込みがありながら、実際は6000人ほどしか出席せず、トランプのメンツ丸つぶれとなる事件がありましたが、これはTikTokユーザーの「ステージ上でトランプを一人ぼっちにさせよう」と呼び掛ける動画が広がったことにも大きな原因があったとされています。

トランプ大統領が、中国アプリの中でTikTokを真っ先にターゲットにしたのはトランプ大統領の個人的恨み、という見方も一部で流れていましたが、中国政府が検閲を行使できる圧倒的な世論誘導力をもつアプリが米国の若年層に広がることの怖さを考えると、大統領選前にこのアプリを何とかしたいと思うトランプ大統領の考えも納得できます。

それに、TikTokのもう一つの脅威があります。昨日は日本が『ファイブ・アイズ』に入ることの真のメリットについて掲載しました。その記事の中で、現在のスパイ活動は、オシント(公開されている情報を情報源とする情報収集活動)を中心行われていることを示しまた。

実は昔からスパイ活動のうち007のような派手な活動は、ほんの一部で、スパイ活動の大部分は一見地味に見えるこのオシントによるものです。CIAもかつてのソ連のKGBの活動も大部分は、オシントです。ヒューミント(人を介して行う超包活動)はごく一部です。

スパイ活動には、オシント、シギント、ヒューミントの3つがある

そのオシントの例として、第二次世界大戦中に、新聞その他の公開情報から、たとえばドイツの高官がある町の結婚式に参加した等の情報を丹念につみあげていき、独ソ戦の開始日をあてた諜報員をあげました。

TikTokから得られる情報は、このオシントの効率を著しく高める可能性があるのです。たとえば、これらから得られる情報を丹念につみあげいげは、いますぐにではなくても、その時々の米国の国内の状況をつぶさに知ることができる可能性が高まります。

先程のなぜドイツの将官がある町の結婚式に参加したことが、独ソ戦の開始日の予測にむすびついたかといえば、当時のドイツとソ連の国境(現在のポーランド)に、ドイツ軍の機甲部隊が結集しているという情報があり、それに加えて、何か特殊なことが無い限り、その町に縁のないドイツの将官が来るはずもなく、しかも結婚式に参加という事態は普通なら起こり得ないことだったからです。

無論この二つの情報だけでは、独ソ戦の開始日など予測することなどできず、その他様々な公情報から独ソ戦の開始日を予測したのです。その当時は、インターネットも、AIもなかったので、これを調べるためには、複数の諜報員がかなり時間をかけて、様々な膨大なソースからこれを割り出したのでしょう。

しかし、現在では、インターネットがあり、AIもあります。TikTokから得られる様々な膨大な情報をAIと人間が分析して蓄積していけば、独ソ戦の開始日の予測どころか、かなりことを予測できる可能性があります。無論、TikTokから得られ情報は、中国外では非合法ですが、中国内では、合法であり、それは中国国内では、諜報活動にかかわるものとしては、公開情報と同じということになります。

だからこそ、一見TikTokから得られる諜報活動は、シギント(通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動)だといえますが、これは得られた情報が膨大にあるだけでは何のインテリジェンスにもならず、かなりオシント的なものになると思います。

そうして、その予測にもとづき、中共が様々な手を打てば、米国内の様々なことを操作できるようになるでしょう。いや、それどころか、世界中の国々の様々なことを操作てきるようになるのです。これが本当の脅威です。多くの日本人は、長い間平和に慣れ親しんできたせいで、このような脅威に鈍感になってしまったようです。日本では、このような脅威について、指摘するものはほとんどありません。

本来政治とは関係ない、若者の娯楽アプリであるはずですが、使いようによっては洗脳や世論誘導のツールとなりえます。もちろん、映画やテレビ、音楽、ファッションのあらゆる文化産物に、そうした世論誘導効果、中国の言うところの「宣伝効果」はあるのですが、スマートフォンとアプリの登場によって、その伝播力、影響力、そして低年齢層化が格段にレベルアップした以上、こうしたハイテクソフトのナショナリズム化は避けられないでしょう。

張一鳴氏は、思想的には必ずしも共産党一党独裁体制には染まっていないようです。むしろ傾向としては自由主義的な考えの持ち主で、真のグローバリストと評する声も出ています。

少なくとも共産党体制と決別したほうが、企業も社員もハッピーに違いないです。中国ではすでに習近平政権に敵視されて、経済犯として逮捕されたり失脚したりしたうえ、資産接収された民営企業がいくつか存在し、今後増えていきそうな気配です。

ただ、張一鳴氏がたとえ米国内の事業を売って、共産党体制と決別しようとしたとしても、中国に国家情報法国防動員法がある限り、張一鳴氏が中国人であるかぎり、中国共産党の要望や希望を叶えなければ、張一鳴氏は法律に違反したことになり、中共に逮捕されてしまうのです。これが、中国の脅威の本質なのです。

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2020年8月16日日曜日

中国の小麦買付量が1000万トン減、習近平氏は食糧を浪費しないよう呼びかけ―仏メディア―【私の論評】中国が食料危機の可能性を公表しないのは、自らの無謬性を強調のため、危機を人民のせいにするための方便か(゚д゚)!


中国の家庭料理

2020年8月13日、仏RFIの中国語版サイトは、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が国民の食習慣における食糧の浪費に注目すると同時に食糧関係機関の責任者らが頻繁に打ち合わせをし、政府メディアも食糧の安全を重視するよう求め、国民に食糧を節約し、危機意識を持ち続けるよう呼びかけたと報じた。

中国農業科学院の統計によると、2015年の統計では毎年3500トンの食べ物が浪費されているという。

記事によると、中国国営新華社通信は次のように中国の人々に理解を求めた。食糧資源が豊富な国で産業チェーンが断絶する可能性がなくはない。サプライチェーンが断絶すると、恐慌のような購買が発生する。また、昨年末からこれまでの世界各地のバッタの大量発生や山火事、さらに新型コロナウイルス感染拡大により、物流が滞ったり輸出制限を受けたりして、世界の農産物供給の不確実性が増し、食糧市場が不安定になっている。

また、フランス通信社は「中国人は盛大な食文化から節約へと移行し、習近平の呼びかけに応えている」と報じ、北京市や武漢市、西安市など多くの都市の職業飲食協会が提唱し推進している「N-1」の飲食モデルに注目した。「N-1」とは、人数分の食事から一品減らすというもので、これにより品数は多様でありながら、食糧の節約ができ、浪費を防ぐという。同時に、中国の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」などは、プラットフォーム上のプログラムでの誇張した「大食い」を禁止すると発表したという。

記事によると、中国政府はこれまで、年間在庫は消費量に対し十分で、食糧供給に問題はないと度々強調してきた。国家食糧・物資備蓄局が今週発表したデータでは、河北省から江蘇省、山東省から河南省の多くの小麦主産地の買付量が前年同期比減となり、全体で938万トン以上減少した。だが、現在の小麦と米の在庫量は国民の1年間の総消費量に相当するという。また、米、小麦、トウモロコシの「中国三大食糧」の中国国内自給率は平均97%以上、2019年の中国の1人当たりの平均食糧占有量は470キロを超え、国際食糧安全基準より1人当たり400キロ多いという。データは、食糧の余裕への「十分な自信」を示したと記事は伝えた。(翻訳・編集/多部)

【私の論評】中国が食料危機の可能性を公表しないのは、自らの無謬性を強調のため、危機を人民のせいにするための方便か(゚д゚)!

中国の食糧事情の現状は、どうなのでしょうか。2020年8月14日、中国メディアの観察者網は、「食べ物を粗末にしないため」体重に応じたメニューを提案する湖南省長沙市内のある飲食店について伝えました。

4日、中国メディアの観察者網は、「食べ物を粗末にしないため」体重に
応じたメニューを提案する湖南省長沙市内のある飲食店について伝えた。

記事によると、この飲食店のシステムは、客が入店前に測定した体重に基づいて店がメニューを推薦し、客が注文するというもの。店は「これは客が適切な量の食事ができるように誘導するもので、浪費を根絶するためだ」としている。この店では客のために余った食事を持ち帰れるよう無料で容器を提供しているといいます。

同店の対応は、習近平(シー・ジンピン)国家主席が最近、「食べ物を粗末にしてはいけない」などとする「重要指示」を出したことと大きく関係しているとみられています。

共産党機関紙・人民日報は12日付と13日付の1面で、習氏が「飲食物の浪費は衝撃的で心が痛む」と語り、食料を無駄にしないための対策を取るように命じたと伝えました。中国都市部の外食産業で1年に出る残飯は1700万~1800万トンと推定され、3000万~5000万人分の1年間の食料に相当するといいます。

習氏は2013年から食べ残しをしないように求めています。習氏が改めて指示を出したのは、食料問題が切迫する可能性があると判断しているからです。習氏は「食料の安全確保について常に危機意識を持たないといけない。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大はわれわれに警鐘を鳴らしている」と述べました。

中国では今年、長江流域を中心に大雨による水害が起きています。食料の輸入先である米国との関係が極めて悪化していることも不安材料です。習氏は米国との対立が深まる中、「自力更生」「持久戦」を訴えてきました。今回の「食べ残し禁止」の呼び掛けも長期的な覚悟を国民に求めたものといえます。

中国の水害を伝えるテレビの画面

習氏の指示を受け、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は、飲食の浪費を抑制するための法整備について検討を開始。国営中央テレビは、ネット上で人気となっている「大食い」を誇る動画を「食べ物を無駄にする極端な事例」と批判し、食料の節約を訴えました。

米ラジオ放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、7月に四川省成都市農業農村局が近日、成都市全市における果樹園や樹林園が水稲栽培に変更する状況を調査報告するように公文書を出しました。同公文書には、水稲栽培を促すために政府は田んぼに切り替えた農民には6.667アール(約666.7平方メートル)ごとに3千人民元(約4万6千円)もらえる保証すると書かれています。

現地の農民によると、当局がこれだけの補償を出してまで、水稲栽培に切り替わるように要求したのは中国の食糧貯蔵が厳しいことが垣間見えるそうです。

四川省だけでなく、湖北省孝感(こうかん)市の地方当局も田んぼ政策を促しているそうだ。田んぼ6.667アール(約666.7平方メートル)開墾ごとに150元(約2千円)の手当てを出すという。

また、6月からイナゴの大群が農業地区である広西チワン族自治区桂林市を襲いかかり、関連映像からは密集したイナゴによる農作物の被害状況が確認できます。ウエイボーでは全市が被害に遭ったといいます。

ここ2か月、中国各地は洪水やバッタ、ペストなど様々な災害に見舞われ、下半期の食糧危機の可能性が懸念されています。中共国家統計局も、今年の夏の穀物生産量は今年の洪水同様、過去最高を記録し、豊作であると発表しました。

中国メディアも種々様々な報道をしています。いずれも最終的に判で押したかのように、様々な統計値を出した上で、最後には「食糧危機は起きない」と報道しています。

ところが、7月15日付で米国農務省(USDA)は、7月14日に米国企業がトウモロコシ176万2000トンを中国へ輸出する契約に調印したと発表しました。 

これはトウモロコシの契約規模としては過去4番目に大きく、1日の取引量としては1994年以来最高の規模でした。これより4日前の7月10日には中国向けにトウモロコシ136万5000トンの輸出契約が締結されていました。

これら2つの契約は今年中に商品の納入を完了することが予定されています。 

今年1月に米中両国は貿易協議の第1段階として、「中国が米国産品の輸入を2年で2000億ドル(約21兆円)増やすのに対し、米国は中国製品にかけた追加関税を段階的に下げること」で合意しました。 

6月30日に香港で『香港国家安全維持法』が施行されたことにより米中関係は今まで以上に悪化しているというのに、中国が依然として米国産農産物を買い付けているのは第1段階の目標達成というよりも、中国国内の食糧危機を見越した「背に腹は代えられない」事情があると考えるのが筋でしょう。

中国当局は最近、米国だけからというわけではなく、大豆やトウモロコシの輸入そのものを増やしています。中国税関当局が26日に公表した統計では、6月にブラジルから大豆1051万トンを輸入しました。5月と比べて18.6%増で、前年同月比では91%増となりました。

また、米農務省(USDA)が毎週公開する統計によれば、7月9~16日までの1週間で、中国向けのトウモロコシ輸出量(196.7万トン)は、週間統計として過去最高となりました。中国は同週、米国から169.6万トンの大豆を購入した。2019年3月以来の高水準となりました。

8月10日に公表された中国の7月の食糧価格は、12カ月連続で2桁上昇となっています。8月に入るとさらに国内の穀物価格が上昇しています。

中国国内が未曾有の大災害に見舞われる中、習近平国家主席は7月22日、天変地異とは無関係の食糧の主要生産地である東北部の吉林省を視察し、「吉林省は食糧安全保障政策を最優先課題にすべきだ。戦争の際、東北部は非常に重要だ」と異例の発言を行いました。

こうした大災害の時にこそ、民衆の苦しみを少しでも和らげ、労わろうとするのが、本来の徳ある為政者の姿のように思いますが、習主席は「災害対策本部」のような組織もろくに立ち上げず、最前線へ出向いた中央政府の責任者は一人もいないとも言われています。

吉林省のとうもろこし畑を視察する集金兵

胡春華副首相は7月27日、国内の食糧生産に関する会議で、各省の幹部に対して「食糧の生産量を増加すべきである。けっして減らしてはならない。国の食糧安全保障にいかなる手違いも許されない」と厳命しました。

中国では近い将来、レストランで好きな料理を多めに注文すると「監視員」に止められたり、食べ残しを残して出ようとすれば拘束されてしまう、というよう信じられないような話が現実となってくるでしょう。食料危機への対処として、情報を開示して国民の協力を呼びかけるのでなく、習近平が人民の「食べる自由」まで奪おうとしているのでないでしょうか。。

これは、初期段階で武漢ウイルスの感染を隠していたことを彷彿とさせます。本当は、今後食料問題がこれから深刻になっていく可能性があるのに、それを公表して人民の協力を求めるのではなく、中共や自らのの無謬性を強調したいがために、そのようなことはせずに食糧不足やそれにともなう食料の高騰が起こった場合には、それを人民のせいにし、自らの責任を逃れるための方便とするのではないでしょうか。

それを実行すれば、中共はマスク外交で諸外国から信頼を失ったように、今度は国内で人民の憤怒のマグマを直接受けることになってしまいます。これに関して、さすがに米国や、日本のせいにすることはできません。

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2020年8月15日土曜日

終戦の日も侵入…中国の「尖閣暴挙」許すな! “開戦前夜”のようだった4年前の漁船団襲来 識者「領海に1隻も入れるべきでない」―【私の論評】中国の尖閣奪取は直近ではないが、中長期的には十分ありえる、日本はそれに備えよ(゚д゚)!

終戦の日も侵入…中国の「尖閣暴挙」許すな! “開戦前夜”のようだった4年前の漁船団襲来 識者「領海に1隻も入れるべきでない」

日本の領土尖閣諸島

日本は15日、終戦から75年を迎えた。戦没者を追悼し、平和について静かに考える日だが、今年はいつもとは違う。中国発の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)は止まらず、沖縄県・尖閣諸島周辺海域には、連日のように中国海警局の武装公船などが侵入しているのだ。中国側が設定した休漁期間が終わる16日以降、中国漁船団が大挙して押し寄せる可能性も指摘されている。中国は2016年8月にも、尖閣周辺に200隻以上を送り込んできた。先人が残した日本固有の領土・領海を守り抜くには、口先の「遺憾砲」ではなく、そろそろ具体的行動が必要ではないのか。


「中国側は4年前、わがもの顔で尖閣の海を荒らした。中国側は、海上保安庁の巡視船の後方に自衛艦や米海軍が控えていると分かっていながら、強引に侵入した。日本には強烈なジャブになった」

海洋防衛に詳しい東海大学海洋学部の山田吉彦教授は、こう語った。

4年前の暴挙は後述するとして、中国海警局の公船4隻は、日本の「終戦の日」である15日朝も、尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域を航行しているという。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは4日連続。

第11管区海上保安本部(那覇)によると、領海に近づかないよう巡視船が警告した。中国に「鎮魂の祈り」は通じないのか。

こうしたなか、中国の休漁期間明けの来週16日以降、中国漁船が大量に尖閣周辺海域に押し寄せ、日本領海を侵犯する危険性が指摘されている。

日本政府は先月、外交ルートを通じて「中国漁船が大挙して尖閣周辺に来ると日中関係は壊れる」と警告したが、習近平国家主席率いる中国政府側は「(尖閣は)固有の領土だ」と反発したという。4年前の凶行を繰り返すのか。

海保などによると、中国は16年夏の休漁明けに約1000隻の漁船団を出漁させた。同年8月初旬には、日本の四国ほどの広さの尖閣周辺の海域に、うち200~300隻を送り込んできた。

周辺海域に殺到した中国漁船と公船=2016年8月6日(海上保安庁提供)

漁船団に続けて、中国海警局の公船も周辺海域に侵入してきた。中には機関砲を搭載した武装公船もいた。同年8月8日、公船15隻が尖閣周辺で確認され、一部が領海侵犯した。一度に15隻は過去最多だ。

海保関係者は「中国漁船が多く、中国公船と連動して、現場の緊迫度が一気に上がり、一触即発となった。こちらは違法操業を確認すれば退去警告を連発し、船と船の間に割って入るなどして、何とか尖閣諸島を守り抜いた」と振り返る。

当時は「漁船には中国軍で訓練を受け、武装した海上民兵が100人以上、乗り込んでいる」「8月15日に尖閣諸島・魚釣島に上陸するようだ」との報道もあった。日本政府が抗議しても、中国側は挑発を続けた。現場海域は“開戦前夜”のような状況だった。

尖閣諸島は、歴史的にも、国際法上も、日本固有の領土である。

福岡の商人、古賀辰四郎氏が1884(明治17)年、探検隊を派遣し、尖閣諸島を発見した。その後、日本政府が他の国の支配が及ぶ痕跡がないことを慎重に検討したうえで、95(同28)年1月に国際法上正当な手段で日本の領土に編入された。

日本の民間人が移住してからは、かつお節工場や羽毛の採集などは発展し、一時200人以上の住人が暮らし、税の徴収も行われていた。

1951(昭和26)年のサンフランシスコ平和条約でも「沖縄の一部」として米国の施政下におかれ、72(同47)年の沖縄返還協定でも一貫して日本の領土であり続けている。

新型コロナで世界を大混乱させた中国は「力による現状変更」を狙っているのだ。

前出の山田氏は「中国は最近、尖閣が自国の施政下にあるとの主張を強めている。今度は4年前を上回る大船団を、より綿密に計画立てて尖閣周辺に送り込んでくるのではないか。海保巡視船にぶつけてくる危険性もある。日本は4年前の教訓をもとにガードを固め、領海に1隻も入れるべきではない」と語っている。



【私の論評】中国の尖閣奪取は直近ではないが、中長期的には十分ありえる、日本はそれに備えよ(゚д゚)!

共同通信は、本日以下のような報道をしています。
尖閣30カイリへ進入禁止、中国 休漁明け漁船に、摩擦回避か
 沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で中国が設けた休漁期間が16日に明けるのを前に、東シナ海沿岸の福建、浙江両省の地元当局が漁民に対し「釣魚島(尖閣の中国名)周辺30カイリ(約56キロ)への進入禁止」など、尖閣への接近を禁じる指示をしていたことが15日分かった。漁民らが証言した。中国は尖閣の領有権の主張を強めているが、日本との過度な摩擦を避ける意向とみられる。  15日には日本の閣僚らが靖国神社に参拝しており、中国の反発は必至。指示が行き渡らない可能性もあり予断を許さない状況だ。  福建省石獅市の船長は「政治問題は分からない。当局には従う」と話した。
産経デジタル版でも以下のような報道をしています。
敏感な海域で漁労厳禁 中国当局が尖閣沖で漁船の管理強化 16日に漁解禁
   祥芝港(ブログ管理人注:中国福建省の漁港)を抱える石獅市当局は7月、「敏感な海域」に無断で入った漁船を厳罰に処すとの通達を出した。各漁船に対し中国独自の衛星利用測位システム「北斗」などに常時接続することも要求、漁船団の行動を綿密に把握する構えだ
 多くの漁業関係者は「敏感な海域」を台湾近海と認識しているが、実際は尖閣沖も含まれるもようだ。

一方、漁船乗組員の言(げん)さん(55)は「釣魚島は中国のものだ。今年も一部の船は行く。(接近禁止の)規制線は決められているが、こっそり規制線を越える船もある」と明かした。
 確かに、予断は許さないですが、ここ数日以内に中国漁船が退去して尖閣の水域にはいってくることはないのではないでしょうか。ただし、少数の漁船が入ってくる可能性は十分に予想されます。

そもそも、中国政府が日本政府に対し、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での多数の漁船による領海侵入を予告するような主張とともに、日本側に航行制止を「要求する資格はない」と伝えてきたことをどう解釈すべきでしょうか。

沖縄県・尖閣諸島周辺海域には、確かに連日のように中国海警局の武装公船などが侵入しているという事実がありますが、もし本気で尖閣を奪取するつもりならそのようなことは全くせずに、黙って、駆逐艦や空母を派遣し、強襲揚陸艦なども派遣し兵員を輸送すればよいだけの話です。

もし、本気なら奪取の前に、わざわざ武装公船で挑発したり、ましてや大量の漁船の了解侵入の予告などするでしょうか。

そんなことは、おくびにもださず、何もせず、ある日突然上陸作戦を敢行するのではないでしょうか。第二次世界大戦中の連合軍によるノルマンディー上陸作戦もそうでした。

ノルマンディー上陸作戦

ノルマンディー上陸作戦に関しては、箝口令が敷かれ、カレーに上陸するように見せかける工作がなされました。

もし、中国が本気で尖閣を奪取しようとするなら、中国軍も日米にさとられないように、奇襲攻撃的に尖閣を奪取することを考えるのではないでしょうか。

ただし、中国という国は常識外れの国ですから、本当に「やるぞ、やるぞ」と言って実行してしまうかもしれないので、油断は禁物です。でも、その場合は犠牲が多くなるのは当然のことです。

犠牲を少なくして、奪取しようとするなら、隠密裏に行動して、いきなり奪取というのが一番です。

ただし、そのためには、直前の哨戒活動を行い、日本の航空機や艦艇や潜水艦の位置を確認して、奪取直前にあらかじめ上陸部隊に対する、攻撃を未然に防ぐべきです。

しかし、以前にも述べたように、中国の哨戒能力は日米よりも格段に劣っています。潜水艦のステルス性能は日米に比較して格段に劣っているので、中国の潜水艦や艦艇は日米に簡単に発見されてしまいます。これでは、中国側はどう考えてみても、隠密裏には行動できません。

このような軍事的背景があるのに加えて、こうした中国の動きに米国は強い警戒心を見せているということがあります。

米国は尖閣諸島は日本の施政の下にある領域であり、日米安保条約第5条の適用範囲だとの認識を持っているからです。

直近では、2017年2月に訪日したジェームス・マティス国防長官(当時)がこの点を明確に再確認、中国を念頭に「米国は尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と強調しました。

中国の尖閣諸島への威嚇行動が続く最中、米有力シンクタンク「ナショナル・ビュロー・オブ・アジアン・リサーチ」(National Bureau of Asian Research=NBR、全米アジア研究所、ロイ・カムパウザン理事長)が尖閣諸島防衛のための「日米統合機動展開部隊」常設構想を打ち出しました。

日本国内には尖閣諸島防衛のための陸海空3自衛隊を統合した常設の機動展開部隊を創設し、同部隊と在沖海兵隊との連携強化する構想があります。

しかし、米国サイドが一気に「日米統合機動展開部隊」を常設を提案するのは初めて。画期的です。

中国側がさらに尖閣で行動を強めると、こうした動きを加速させることも考えられるので、中国側としては、いたしかゆしというところなのでしょう。

中国海軍のロードマップでは、今年の2020年までには、第2列島線まで確保することになっているのですが、現実には尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていません。この列島線なるものは、単なる妄想にすぎなかったようです。


このように書くと、私は尖閣諸島の中国による奪取は、ないと考えているように聞こえるでしょうが、そうではありません。ただ、マスコミが煽るように今日明日はおそらくないだろう言っているだけです。数年後にはあるかもしれません。

それに備えるためにも、日本としても、何かをする必要はあると思います。ただ、尖閣が仮に奪取されたとしても、たとえば、日米の潜水艦で尖閣諸島を包囲して、近づく艦艇や航空機を最終的には破壊するようにすれば、尖閣諸島に上陸した中国軍はすぐにお手上げになります。


このアイディアは、以前このブログにも何度か提唱したことがあります。まともに、考えれば、こういう考え方になります。

なお、機雷というと、多くの方が、第二次世界大戦中の艦艇に接触して爆発する接触機雷を思い浮かべるでしょうが、現在は様々なタイプがあります。それについては、ここで説明していると長くなるので、他のメディアなどを参照していただきたいです。

ここで強調したいのは、海自の掃海能力(機雷を除去する能力)です。哨戒能力に関してはね、かつてはトップだったのですが、最近では米軍のほうが若干優れています。しかし、掃海の能力に関しては現在でも日本がトップです。

中国には掃海能力はありません。要するに、日本が機雷を敷設すれば、中国はそれを除去できません。これに対して、中国側が機雷を敷設した場合、日本はそれを除去できます。

おそらく中国はここ数年は、尖閣を奪取できないでしょう。ただし、何度も尖閣水域に侵入し、それを恒常化し、その次の段階では、実効支配を宣言するかもしれません。そうなってからでは、手遅れです。

日本としては、機雷敷設などのことも本気で視野にいれるべきです。機雷を敷設してしまえば、漁船はおろか、中国の駆逐艦や、武装公船も近づけなくなります。日本の海自の潜水艦や艦艇だけが近づけることになるでしょう。

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日米豪、合同軍事演習で中国威圧! 尖閣侵入「100日連続」…識者「日本は実効支配の強化へ公務員常駐を」— 【私の論評】日本は尖閣を守備できるし、奪取されても十分取り返せる能力がある!(◎_◎;)

2020年8月14日金曜日

【有本香の以読制毒】安倍首相が李登輝元総統への弔問に森喜朗元首相を送った意味 始まりは2001年の「訪日問題」 中国に痛烈な一撃となったか―【私の論評】安倍総理の優れた人選と、その期待に100%以上のパフォーマンス応えた森氏に、中国はだんまり(゚д゚)!


台湾の李登輝元総統の遺影に花を手向ける森元首相=9日

8月9日、75年前のこの日は、長崎に原子爆弾が投下され、ソ連が日ソ不可侵条約を破って参戦した日だ。日本の敗戦が決定的となり、当時、1つの国だった日本と台湾が別れ別れになる、その運命が決まった日でもあった。

 75年後の同日、台湾・台北の午後の気温は33度。うだるような暑さの中を、黒い服に身を包んだ日本の男たちが集まった。先月30日に逝去した「民主台湾の父」李登輝元総統への弔問に、外国から一番乗りした日本の国会議員弔問団だった。団長は森喜朗元首相。先週の本コラムでも触れたが、森氏が団長を務めた理由や経緯を知らない人のために、いま一度、大事な逸話を書いておく。

 李氏と森氏の浅からぬ縁の1つの始まりは、2001年の「李登輝訪日問題」にある。1年ほど前に、総統を退いて、「私人」となっていた李氏が、心臓の持病治療を理由に訪日を希望したことがきっかけだった。

 この李氏訪日を阻止する方向で動いたのが、外務省のチャイナスクールであり、これに同調した当時の外相、河野洋平氏だった。

 対して、「李氏の入国を認めないことは人権問題だ」として、毅然(きぜん)と「ビザ発給」を決めたのが首相だった森氏であり、ともにビザ発給を強く主張したのが、官房副長官だった現在の安倍晋三首相である。この時の様子を、森氏は台北での記者会見で、次のように述懐した。

 「中国・北京の方から働きかけがあったといいましょうか、(外務省から)『台湾の政治指導者は日本に入れないんだ』という話がありました。『日本政府はビザの発給について慎重であれ』というのが、ずっと懸案事項となっていました。結論から言えば、私が総理の時に『(李氏が)日本にお帰りになることは人道上正しいことだ』と判断し、ビザの発給を認めたということです」

 現下の国際情勢にあって、日本の元首相が、かくも赤裸々に「中国の浸透」を公言したことは大きなニュースであろう。だが、この台北での森発言を大きく報じた日本の大メディアはなかった。蔡英文総統との会談の席で森氏はさらに言った。

 「安倍総理から電話があり、『体のことがあるので森先生には頼みにくいが、誰に弔問に行ってもらうか悩んでいる』とおっしゃった。『あ、これは私に行けということだな』と思って引き受けました。しかも、私がちゃんと務めを果たすか、弟(=安倍首相の実弟、岸信夫衆院議員)に監視させて(笑)」

 森氏の弔問が安倍首相の意向によるもの、「事実上の首相特使」だと明言したのである。だが、この発言もほとんど報じられなかった。

安倍晋三氏と握手を交わす李登輝氏 2010年台北

 森氏率いる日本の弔問団が台北を去ったのと入れ替わりに、米国のアレックス・アザー厚生長官が台北に到着。海外メディアは「(米台)断交以来、最高位の訪問」と劇的に報じた。日米相次いでの大物弔問の様子は、台北での発言も含め、北京にとって、さぞ忌々(いまいま)しいものとなったにちがいない。

 がんの加療中、人工透析も受けている森氏は、台北賓館の入り口で一瞬、足元おぼつかない様子を見せた。しかし、その後の弔辞、記者会見、蔡英文総統との会談では、一貫して堂々と和やか、時折ユーモアまで交えた見事な弁舌で、「横綱相撲」の貫禄を見せつけた。

 感謝を伝えたく思い、帰国後の森氏に電話した。

 「日本と台湾が最も互いを必要としている今、命懸けで台湾へ行ってくださり有難うございます」

 すると、森氏はこう答えた。

 「口幅(くちはば)ったく聞こえるかもしれないが、私が総理の時に入国をお認めした方です。それから幾度も来日されるようになり、日本人に多くのことを教えてくださった。その方への最期のお別れは、私がするのが務めと思ってね」

 首相を退いて20年近くがたってなお、ザ・政治家。見事、国際政治のひのき舞台のど真ん中に立って、北京に痛烈な一矢を放った森氏に、最高の敬意と感謝の拍手を送りたい。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】安倍総理の優れた人選と、その期待に100%以上のパフォーマンス応えた森氏に、中国はだんまり(゚д゚)!

今回の森元首相の台湾弔問は、米国に対しても、台湾に対しても日本には、二階氏のような親中派の政治家だけではないことを強く印象づけることになったと思います。その意味では本当に良かったと思います。

李登輝氏遺影

森元首相は日本と台湾のメディアを前に、李登輝氏の日本に対する貢献と感謝について語りました。以下にそのときの森元首相のお言葉の要旨を掲載させていただきます。
 日本の国会議員団は、党を超えて李登輝先生のお話を聞くことに大変関心を持っている。それは日本人が知らなかったことをむしろよく知っておられたからだ。 
日本が敗戦の中でどちらかというと自虐的になり、自分たちの国の責任と言うことにあまりに思いを強くしたために、日本に対する自信を持っていなかった。 
李登輝先生は勇気をもって、日本人がもっと自分たちの国に誇りを持つべきだよと強くおっしゃっておられ、もっともっと日本人が日本人として国際的な貢献ができるように努力をしろと、そういう李登輝先生の教えだった。 
 日本に対し自信を持ちなさいと言って、敗戦国の日本が今日まで頑張り抜いてこられたのは李登輝先生の教えによるものが大きかった
 このように、森元首相は、李登輝氏の「日本は自信・誇りをもつべきだ」、「日本として積極的に国際貢献すべきだ」とのメッセージが日本にとって重要だったと指摘しましした。 
また、森元首相は自らの首相在任時に、李登輝氏が学生時代に学んだ日本を訪問したいという希望を、中国の反対を押し切って実現させた際のことについて語りました。 
 李登輝閣下が総統も終えられた後に、昔自分が学ばれた日本に行って体の治療、健康のこともあるので日本に入りたいと希望があった。 その時に中国・北京の方からも働きかけがあったというか、台湾の政治指導者は日本には入れないという話があった。
色々複雑なものがあった。日本政府はビザの発給について慎重であれと言うことが懸案事項になっていた。 私が総理の時に、日本にお帰りになることは健康上の問題、人道上の問題として正しいと判断しビザの発給を認めた。今も、遺族から感謝しているという話をいただいた。
そして、森元首相は弔辞の中で、日本と台湾の関係について「台湾はあなた(李登輝元総統)が理想とした民主化を成し遂げ、台湾と日本は普遍的な価値を共有する素晴らしい友好関係を築き上げた」と強調し、李登輝氏の功績を讃えました。

弔問団には、自民党の古屋元国家公安委員長、安倍首相の実弟である岸信夫元外務副大臣、 立憲民主党の中川元文科相ら与野党の政治家が参加し、李登輝氏への弔意を表しました。

団員は弔問前に蔡英文総統とも会談。安倍晋三首相の事実上の名代として訪台したことを打ち明けた森氏に対し、蔡氏は感謝の意を伝えています。

森・蔡英文会談

中国は今のところ、森氏の台湾弔問に対して、表立った批判はしていません。というより、できないのでしょう。これは、民間人の森氏が実質上の団長としての弔問であり、これに対して中国が批判しても日本はそれに反応のしようがないわけで、批判をしても何の反応も期待できず、面子が潰れるだけだからです。

似たようなケースの場合では、みてみぬふりをするのが外交の常識ですが、今回はさすがに中国くも常識に従わざるを得なかつたのでしょう。

森氏を選んだ安倍総理も素晴らしいですし、その期待に応えて100%以上のパフォーマンスを発揮した森氏も素晴らしいです。

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2020年8月11日火曜日

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに―【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

対中政策は「国際法の順守」をキャッチ・フレーズに

岡崎研究所

7月28日、米国務省にて、米豪二国間の外交・防衛担当閣僚協議(「2+2」)が開催された。米国からはポンぺオ国務長官とエスパー国防長官が、豪州からはペイン外相とレイノルズ国防相が参加した。


 これに先立ち、ジョン・リー(ハドソン研究所上級フェロー、元豪外相国家安全保障補佐官)は、7月27日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「豪州は中国をチェックする努力を倍加している。トランプは同盟国に協力を求め、豪州は勇気と決意を持ってそうしている」との論説を寄せ、対中関係での米豪協力強化を歓迎している。この論説は、米豪の「2+2」会合が終わる前に掲載されたものではあるが、豪州の考え方がよくわかる論説である。

 7月27-28日の米豪会合の結果として共同声明が発表されたが、中国の南シナ海の領有権主張は「国際法上無効」と改めて指摘し、中国の覇権的行動に対抗していく立場を打ち出した。また、2016年のハーグの仲裁裁判所の判断を支持することを表明し、香港での国家安全法の施行、ウイグル族の人権抑圧への「深刻な懸念」も表明した。

 ポンぺオ国務長官は終了後の記者会見で中国への対応に関して、日本、インドなどとも連携していくと述べたが、日本としても、南シナ海の9段線主張は全く受け入れられないことであるので、米豪と同じく、中国の南シナ海領有権主張は国際法上違法であり、無効と言う声明を出してもよいのではないかと思われる。

 今の米中の争いは、冷戦の定義にもよるが、冷戦と呼ぶにふさわしいと判断している。

 先の米ソ冷戦では、キャッチ・フレーズは「封じ込め」であった。「封じ込め」は時折誤解されているが、ソ連が共産主義体制を今そうでない国にも違法な手段を用いて確立し、拡大していくことを抑え込んでいくことを目的とする政策であって、当時ダレス長官などのいっていた「巻き返し」よりも穏健な政策であった。

 今後の対中政策について、どういうキャッチ・フレーズがいいか、よく考える必要があるが、「国際法の順守」をキャッチ・フレーズにしたらどうだろうか。一国二制度を50年間約束した英中共同声明のような条約の順守、南シナ海での根拠のない領有権主張の撤回などを中国に求め、それに応じない場合にはそれなりの不利益を与えていくということであろう。条約や国際法を順守しない国とは安定した関係など作りようもない。

 中国の政治体制そのものの変更は中国国内での諸事情の発展に委ねるしかないし、それを問題にしてもうまくいかないと思われる。

 また、覇権的行動は定義が難しいが、日中友好条約に覇権反対条項があるので、それをベースに中国側に申し入れをすることもありうるだろう。

 米中冷戦は日本にとってはそれほど悪い話ではないと思っている。東アジアで米中が結託して、米中共同支配になるのよりずっと良い。米中冷戦は米国にとっても中国にとっても日本の価値の上昇につながるだろう。いずれかを選ばざるを得なくなると言う人がいるが、そういう時には躊躇なく同盟国米国を選べばよい。日本の領土をとろうとしている国とそうはさせじとしている国のいずれをとるか、明らかで、議論の必要もない。

【私の論評】元々外交の劣等生だった中国は、外交を重視し国際法の歴史から学ぶべき(゚д゚)!

国際法という観点からみると、たしかに中国が次々と国際法違反をしています。南シナ海は誰の目からみても、明らかですが、中国が内政問題とするもののなかにも明らかな国際法違反があります。

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではありません。香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題であす。

ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということです。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実です。さらに言えば、ウイグルはもともと外国であったものを中国が武力で併合したものです。

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多いです。中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めないです。

国際関係においては、中国は自ら緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるというやり方を踏襲しています。これは、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術ですが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになりました。
やはり、中国はまずは国際法に目覚めるべきなのです。中国は国際法の歴史的背景から学び直すべきです。

そもそも、中国は国際関係を無視して、国内の都合で動くことはやめるべきです。そもそも、中国では外交が重視されていません。日本では、外務大臣とみなされている楊潔篪外交部長は、一政治局員であり、中共中央政治局委員(25名)の一政治局員であり、中共中央政治局常務委員会委員(7名。チャイナ・セブン)には含まれていません。

中共中央政治局常務委員会は、中国共産党の最高意思決定機関です。憲法に於いて「中国共産党が国家を領導する」と規定されている中華人民共和国の政治構造において、事実上国家の最高指導部でもあります。以下に、中共中央政治局常務委員会の現在の名簿を掲載します。


この名簿をご覧いただいてもおわかりになるように、主要役職の欄をみると、外交とか、国際等の言葉が見当たりません。これだけみると、まるで世界は中国一国で成り立っているかのようです。

日本で言えば、中共中央政治局常務委員会委員こそが、閣僚クラス(とするには明らかに人数が少なすぎるとは思うのですが、それはおいておき)といって良いと思うのですが、この常務委員会には、伝統的に外交の専門家は含まれていません。これをみても、明らかに中国では外交の位置付けが低いのです。

おそらく、一政治局では、複雑で幅も奥行きもかなり深い、外交問題にとてもまともに意思決定などできないでしょう。

だからこそ、中国の外交に関する意思決定は粗雑なものが多いのです。最近だとさすがに、言う人はいなくなりましたが、十数年前までは、単に粗雑な外交を「したたかな外交」などと、褒めそやす輩が左右・上下にかかわらず、存在しました。このブログでは、十数年前から、中国のことを「外交の劣等生」と評してきました。その見方は、今日正しかったということが示されたと思います。

中国は、まずは外交をもっと重視するように体制を整えていく必要があると思います。たとえば、中共中央政治局常務委員の中に外交を担当するものを加えるなどのことをすべきと思います。

それとともに、中国は国際法を、その歴史から振り返って学習し直すべきと思います。現在の国際法の基本は、ウエストファリア条約にまでさかのぼります。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
“帝国主義的覇権国家”の異常ぶり…中国とまともに付き合うのは限界だ! 日本は欧米諸国と安保・経済の連携を— 【私の論評】世界の中国の全体主義との戦いの終わりに、日本は新世界秩序の理念を提唱せよ!(◎_◎;)
ミュンスター条約(ウェストファリア条約)締結の図
ウエストファリァ体制とは、1648年のウェストファリア会議で成立した世界最初の近代的な国際条約とされている、三十年戦争の講和条約による体制です。66か国がこの条約に署名し、署名までに4年の歳月を費やしています。 
この体制によって、プロテスタントとローマ・カトリック教会が世俗的には対等の立場となり、カルヴァン派が公認され、政治的にはローマ・カトリック教会によって権威付けられた神聖ローマ帝国の各領邦に主権が認められたことで、中世以来の超領域的な存在としての神聖ローマ帝国の影響力は薄れたました。 
スイス、オランダの正式な帝国離脱が認められ、フランスはアルザス地方を獲得しました。 
現代の世界を見渡せば「ウェストファリア体制」がどれぐらい残っているでしょうか。 
主権国家の並立体制は、建前上は残っています。その意味でいえば、世界はいまだに「ウェストファリア体制」と言えます。 
「ウェストファリア体制」とは、煎じ詰めると以下の3点です。
一 心の中では何を考えてもよい 
二 人を殺してはならない 
三 お互いの存在を認めあおう
という三要素です。
そして、これらは最も確立された国際法であり、法則なので否定のしようがありません。 
この三要素が当然だという価値観を持った国はどれぐらいあるのでしょうか。日米、そのた西欧先進国は、全てこの価値観を持っている言って良いでしょう。

ところが中国もロシアも、そうして無論北朝鮮もこのような価値観は持っていません。習近平、プーチン、金正恩共通しているのは、自分が殺されなければ、やっていいと考えるところです。むしろ、すでにバンバンやっています。

どっちつかずなのが韓国です。無論、韓国では中国やロシアのように人を殺すことはありませんが、それにしても、歴代の元大統領の多くは、無残な死に方をしています。

日本としては、明治以来西欧的価値観を受け入れ、全体主義的に陥ったこともなく(大東亜戦争中の日本の体制をナチズムと似たような全体主義というのは歴史を真摯に学んだことのないものの妄想です)、どちらかといえば、米国の方に与し易いのは事実です。
 上の三要素のなかで、現在ではあまりに当たり前になりすぎていて、理解し難いのが「心の中では何を考えてもよい」だと思います。これは、当時ローマ・カトリック教会が人々の精神まで縛っていたことから脱却しようというものです。

これは、自由主義国の人々にはもう当たり前過ぎですが、中国では、今でも中国共産党が人々の精神を縛っています。

他の二要素「人を殺してはならない」「お互いの存在を認めあおう」というのも今日自由主義国では当たり前です。そもそも、この二要素がなければ、国際関係など成り立ちません。

このウェストファリア体制より以降、欧州では「国際法」という考え方が芽生え、その後様々な法体系がつくられ、今日に至っています。 ただ、この体制は、西欧諸国のものであり、他の文化圏には当てはまらないものとの暗黙の了解があり、その後西欧諸国は植民地を求め、帝国主義的な行動をとるようになりました。

日本はウイルソン米大統領が第一次大戦後のパリ講和条約で国際連盟設立を提案をしたとき、日本が提唱した人種差別撤廃条約に即座に反対し却下しました。

国際連盟設立委員会で「人種差別撤廃」を提案した牧野伸顕

しかし、第二次世界大戦後は、人種差別撤廃がなされました。これには、様々な理由がありますが、私自身は日本が戦争に負けつつも、人種差別撤廃も大義として戦いアジアの植民地諸国に独立の機運を盛り上げたこと、さらに植民地経営が植民地獲得競争の当初に思われいたほど、宗主国に利益をもたらさなかったことなどが原因だと思います。

このようなことを真摯に学んでいないからこそ、中国は「一帯一路」などで、覇権主義の道を歩もうとしていると思います。国際関係に疎いために、国際投資の常識も知らないようで、中国は投資効率の低い投資も盛んに行い、世界各地で大失敗しています。先進国がなぜ、中国のように海外に投資しないのか、その理由を知らないようです。

今日の事態を回避するためにも、中国は「国際法」とその歴史を学ぶべきと思います。そうして、西欧諸国や日本など、民主的な国家がなぜ現在も「国際法」を重視するのかを知るべきと思います。

中国が今後も現在のやりかたを改めず、外交を軽視し、国際法を無視して、現在の体制を維持し続けるなら、西欧諸国や日本のような民主的な国家は、中国と通商などできません。

そもそも、国際関係にも通商にも、一定のルールがあります。そのルールを守れば、国際関係も円滑にすすみますが、そうでなければ、中国が他国の利益を不当に貪るだけになります。

無論、中国にも国際法や通商ルールには不満なところもあるかもしれません。しかし、それは、それこそ日本が第一次世界大戦後にパリ講和条約で人種差別撤廃を提唱したように、国際社会においてどうどうと主張すべきと思います。今日の世界は、第一次世界大戦後とは異なり、中国が主張した内容を国際社会が吟味し、その言い分が正しいのであれば、それを受け入れる度量はあります。

しかし、そうした主張をして受け入れられるためにも、まずは外交を重視し、国際関係や通商で、国際法等を遵守する姿勢をみせる必要があります。実際に、西欧諸国でない国でも、そのようにして国際社会に受け入れられ、通商も継続している国は多いです。日本はその典型かもしれません。そうして、従来のように姿勢を見せるだけではなく、遵守すべきです。

ご近所付き合いにも、一定のルールがあります。これを守らなければ、まともにご近所付き合いもできないのは当然です。今のままでは、中国は民主主義体制の国家とは、別枠の経済圏をつくりその中で生きていくしかなくなります。

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