2017年3月5日日曜日

【中国全人代】陰の主役はトランプ氏 米の国防費増、対中制裁課税…中国のアキレス腱狙う“攻勢”に習政権は耐えられるか―【私の論評】秋の政治局常務委員改選で異変が?


5日、北京の人民大会堂で開幕した中国の全国人民代表大会
 全国人民代表大会(全人代)の陰の主役はトランプ米大統領である。間を見計らったかのように、トランプ米政権は矢継ぎ早に通商、軍事両面で対中強硬策を放った。習近平政権は耐えられるか。


 トランプ政権は2月末に国防費を前会計年度比約10%増額する方針を公表。3月1日には世界貿易機関(WTO)ルールに束縛されず、不公平な貿易相手国に高関税などの制裁を科す米通商法301条の発動もちらつかせる通商政策の年次報告書を米議会に提出した。3日には中国の鉄鋼製品への制裁課税を決定。これらは、国家通商会議(NTC)のピーター・ナバロ委員長が作成中の貿易と軍事を一体とする対中強硬策の前触れだ。

 習政権は国防費増を打ち出すが、軍拡を支える経済力に不安を抱える。全人代では国内総生産(GDP)成長率目標を6・5%前後に引き下げた。一方、GDPの約10%の資金が海外に流出している。

 思い起こすのは1980年代のレーガン政権の対ソ連強硬策である。レーガン大統領はアフガニスタン侵攻など対外膨張路線のソ連に対抗し、戦略防衛構想(通称「スターウォーズ計画」)を打ち出すと同時に、高金利・ドル高政策をとって石油価格を数年間で3分の1に急落させた。国家収入をエネルギー輸出に頼るソ連経済は疲弊し、90年代初めに崩壊した。

 トランプ政権もまた中国の弱点をつく。貿易制裁が対米輸出に打撃を与えるばかりではない。米株高と連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは中国からの資本逃避を促す。流出した資金は米ウォール街に流れ込み、米株価を押し上げている。

 人民元防衛のために外貨準備は取り崩される。外準は今や対外負債を大きく下回り、借金なくして維持できない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導し、全アジアを北京の影響下に置こうとするもくろみはついえる寸前だ。

 個人・企業の海外での「爆買い」や対外送金規制などの小手先の対策では資金流出をとめられない。金融を引き締めれば国内景気が持たない。党中央は逆に、銀行融資を急増させて不動産相場の下支えやインフラ投資後押しに躍起だが、企業債務の膨張など人民元マネーバブルを招き、元暴落不安が募る。習氏は全人代で答えを出せるか。(特別記者 田村秀男)

【私の論評】秋の政治局常務委員改選で異変が?

これから先も、米国の対中国政策は、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」ということになります。今年はアメリカと中国の「経済戦争」の元年です。トランプ政権の中国に対する姿勢は、閣僚人事を見れば明らかです。

ピーター・ナバロ氏
新設された国家通商会議のトップには、ピーター・ナバロ氏が起用されましたが、ナバロ氏は過去に「中国製品を買うべきではなく、購入すれば国家安全保障上の脅威となる」と発言している人物です。また、通商代表部の代表に起用されたロバート・ライトハイザー氏も、中国製鉄鋼のダンピング(不当廉売)輸出を批判するなど、対中強硬派として知られています。今後、トランプ政権の通商戦略は、このナバロ氏とライトハイザー氏が司令塔となって進められます。

ロバート・ライトハイザー氏
また、台湾を中国の一部とみなす「ひとつの中国」の原則を見直すことを表明するなど、トランプ大統領は各方面から中国を揺さぶっています。トランプ大統領はこの後で、習近平と電話会談をして、中国に「ひとつの中国」政策を認める発言をしました。

これは、かなり矛盾するようにもみえますが、これは政治観点からみると、トランプ大統領は一つの大きな外交カードを握ったことになります。オバマ政権とは打って変わって、トランプ政権の対中政策はかなり厳しいものになりました。

もともと、トランプ大統領は「中国を為替操作国に指定する」「中国製品に45%の報復関税を課す」と宣言していました。

これは、中国の経済基盤と産業構造を否定するものです。「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由化するグローバリズムの最大の受益者は中国であり、中国は自由経済と計画経済の“いいとこ取り”をするかたちで、国際社会での存在感を拡大してきました。しかし、それは同時に先進国で大量の失業者を生むことにつながり、世界各国で紛争の原因にもなりつつあります。

資源や食糧は有限のため、人口の多い新興国が発展すれば、資源や食糧の枯渇、やがては奪い合いにつながります。中国が急成長することで、地球が発展の限界を迎えていると言い換えてもいいでしょう。トランプ大統領は、そうした流れにも「待った」をかけているわけです。

そうして、この対立構造においてはアメリカのほうが圧倒的に有利です。中国側は有効なカードを持っていないに等しいのですが、習近平国家主席は求心力を失いたくないために引くに引けないのも事実です。

しかし、中国は、国家運営の根幹となる穀物もアメリカからの輸入に頼る構造になっており、環境問題の悪化によって食糧問題が悪化することがあっても、改善する可能性は低いです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】トランプ氏「中国敵対」決断 台湾に急接近、習近平氏は大恥かかされ…―【私の論評】トランプ新大統領が中国を屈服させるのはこんなに簡単(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に中国の食料事情に関連する部分だけ引用します。

実際最近では中国が突如、近年世界の穀物輸入国上位に躍り出てきました。2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になりました。2006年の時点では、ま中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていたというのに、何がこの激変をもたらしたのでしょうか? 
2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵します。 
人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからです。 
2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費されました。そのうちの半分を消費したのが中国でした。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費しています。 
とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎません。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れています。
中国江蘇省の豚肉売り場、価格は上昇し続けている
中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要があります。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になります。 
それだけの穀物がどこから来るのでしょうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつあります。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどです。 
その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えています。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られています。 
2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つでした。 
また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環です。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものです。
このような状況を考えると、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」という政策は、さして困難な政治目標ではないと思えてきます。

さて、保護主義的な政策を掲げるトランプ大統領は、「自国優先」を旗印に、製造業の国内回帰を目指しています。そして、「強いアメリカを取り戻す」とうたっているわけですが、これは歴史的にいえば1980年代の米国のことだと思われます。当時、日米貿易摩擦が国際問題となり、アメリカの強硬策によって日本は生産体制をアメリカにシフトせざるを得なくなり、その後のバブル崩壊につながりました。

今後は、中国が当時の日本のような立場に追い込まれることになります。そして、かつての日米間以上に激しい摩擦になると同時に、中国側にほぼ勝ち目はないです。日本製品は日本にしかつくれない「オンリー・ジャパン」だったため需要がありましたが、中国製品は単なる組み立て品で付加価値や優位性ありません。中国製品を選ぶ理由は価格の問題だけですが、そこで公約通りに45%の関税が課せられれば、中国経済にとっては致命傷になります。

トランプ政権による中国製品の排除が加速するという動きは昨年からありました。11月に日本の財務省が中国など5カ国を「特恵関税制度」の対象外とすることを発表しています。同制度は、新興国の輸入関税の税率を低くしたり免除したりすることで経済発展を支援するというものですが、もう中国には援助の必要性はないという判断です。
 
また、経済産業省は12月に中国をWTO(世界貿易機関)の「市場経済国」に認めない方針を発表しました。市場経済国とは、国際社会から「自由な市場経済を重視する国」と認められた国のことです。現在、「非市場経済国」扱いの中国は、他国からのダンピング認定などで不利な条件を課されていますが、その規定条項が失効した12月以降も市場経済国への移行を認めないというわけです。

日本と同様にアメリカやEUも認めていないため、日米欧は不当に安い価格で輸出される中国製品に対して、反ダンピング措置をとりやすい体制にあるわけです。このように、アメリカをはじめとする先進国は、さまざまな方法で中国の競争力を奪う方向に向かっています。

こうした厳しい状況に対処しなければならないのが、習近平なのですが、簡単に南シナ海から撤退することもままなりません。そうすれば、中国国内での習近平の求心力が失われてしまいます。

さらに、金融面を見たとき、アメリカと中国の力関係はゾウとアリぐらい違います。確かに中国の銀行は巨大化しているのですが、それは米ドルとの両替保証があってこそです。たとえば、人民元は変動幅が決まっている管理変動相場制で、事実上のドルペッグ制(米ドルが裏付け)です。また、香港ドルは米ドルがなければ発行できないドル預託通貨です。一見、強く見える中国経済だが、実際は非常に脆弱で米ドルに生殺与奪権を握られています。

また、アメリカは14年12月の時点で、アメリカ国内にある中国人および共産党幹部の資産を調査しており、その総額は最大3兆ドルともいわれています。つまり、アメリカは国内の中国マネーをすべて把握しているわけで、有事の際には共産党幹部の個人攻撃を始めることも可能です。対露制裁の際、個人に対しても口座の封鎖などを行ったように、狙い撃ちのように共産党幹部の口座を封鎖することもやりかねないです。

また、トランプ政権はロシアと近づきつつありますが、これには中国牽制という意味合いもあります。米露が関係を改善して中東問題で手を組めば、中東での多面展開はなくなり、その分アメリカは南シナ海の問題に全戦力を集中できるようになります。

さらにいえば、南シナ海においてロシアが日米側につけば中国は勝ち目がなくなります。ロシアとしては勝ち馬に乗ったほうが得だし、そういう計算ができる国です。中国とは昔から仲が悪いという事情もあり、南シナ海において中国の肩を持つことは考えにくいです。

 アメリカとしては、自分から先に仕掛けることはないものの、中国の出方次第では、海上封鎖と金融制裁によって内側から中国を潰すことができるわけだ。現代においては武力よりも金融制裁のほうが効果的であり、それが筆者の言う「経済戦争」である。

しかしながら、中国は今年秋に5年に一度の共産党全国代表大会を控えているため、強硬な姿勢を崩すことができません。一歩でも引けば、習近平政権の瓦解につながる可能性もあるからです。一方、トランプ大統領は「100日計画」を発表しているように、就任から100日以内にある程度の実績を出したいという思惑がある。そのため、就任前から中国に揺さぶりをかけていたのです。

2017年秋に開かれる第19回党代表大会では、新執行部(政治局常務委員)が選出されます。現執行部メンバー7人のうち、習近平国家主席と李克強首相を除き、「江沢民人脈」と見られる4人を含む5人は年齢的な原因(67歳が上限)で引退します。


これまでの経験則によれば、党大会の開催に向け、党内の権力闘争が激化します。1995年陳希同・元北京市書記の失脚、2006年陳良宇・元上海市書記の失脚、2012年薄熙来・元重慶市書記の失脚などは、いずれも党大会開催直前の「政変」劇です。2017年新執行部の選出をめぐり、5つの最高幹部のポストを狙う熾烈(しれつ)な争奪戦が予想されます。

そうして、従来通りに権力闘争は激化するだけならな、政権転覆のシナリオはないと見て良かったかもしれません。

しかし、今回はトランプ大統領が手を変え品を変え、引くに引けない習国家主席が前に出れば出るほど、米中の対立が深まり、段階的にアメリカの制裁が強まることになるのです。それに、米中関係とは全く関係なく、元々中国国内は経済的に苦しい立場に追い込まれることが確実です。

また、5~6月にはアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が開催されますが、このままいけば、同会議で中国が非難の的になることも間違いないでしょう。

このままだと、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」政策は、完璧に功を奏して、今年の今年秋に5年に一度の共産党全国代表大会には、習近平は実質上失脚という事態になることも十分予想できます。それは、まず第19回党代表大会の中国共産党常務委員の改選に異変から見られるかもしれません。太子党が多数派を維持できなかった場合には、習近平氏は事実上失脚とみても良いでしょう。

そうなったにしても、ならなかったにしても、米国による「トランプ大統領が中国を叩き潰す」政策は中国が南シナ海から退かない限り、徹底的に実行されることになります。これにより、いずれ中国にはいずれ確実に何らかの異変が起こることは確かです。

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