2011年1月18日火曜日

Appleを復活させた「魔法使い」、ジョブス氏の休職―【私の論評】ジョブスの生き方は、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という日本人の理想を体現している!?

Appleを復活させた「魔法使い」、ジョブス氏の休職


大衆を魅了し続けるジョブス氏
スティーブ・ジョブズ氏が療養のため休職するが、iPodやiPhoneを生み出した同氏は、多くのAppleファンや投資家から代わりがきかない存在と考えられている。

スティーブ・ジョブズ氏(55)はAppleのCEOを2度にわたって務めた間に、パーソナルコンピューティングの方向を変えた。その間にその独特のスタイルとiPod、iPhone、iPad、Macという象徴的な製品は、同氏の名を世間に知らしめた。

同氏は1月17日、治療に専念するために療養休暇を取ると明らかにした。健康問題による前回の休職から2年ぶりとなる。同氏は、ほかの人では代わりがきかないと多くのAppleファンや投資家に考えられており、過去にはすい臓がんを患ったこともある。

同氏の健康問題についてはこれまで開示が不十分だと批判されているが、同氏は今回も自身の健康状態について何も説明していない。

これまで病気を抱えながら、ジョブズ氏はAppleのイベントで華々しく最新の製品を発表し続け、顧客や社員、アナリストは一様に同氏のやせ細った姿から憶測をめぐらせていた。

同氏は12年ぶりにCEOに復帰した後、Appleをよみがえらせた。それは主に、大人気となったiPodを生み出したデザインへの情熱によるものだ。

iPodは2001年の発売以来、2億5000万台以上売れている。

Appleは2007年、タッチスクリーンのiPhone――半宗教的なファンからは「ジーザスフォン」と呼ばれる――で携帯電話市場を変え、1年前にはiPadを立ち上げてタブレットコンピュータの新たな市場を作った。

「スティーブ・ジョブス氏はマーケットから、Appleの戦略的な方向に強い影響力を持つと見られている」と野村のグローバルテクノロジースペシャリスト、リチャード・ウィンザー氏は17日に語った。

しかし近年では、同氏の健康状態と、Appleを率いる能力への疑問も持ち上がり、同氏の過去の業績と今後の展望に影を投げかけかねない状況にあった。

同氏は2004年に珍しいが治療しやすいタイプのすい臓がんから回復した後、2009年前半に療養休暇を取った。「ホルモンバランスの異常」と説明していた自身の健康問題が、思ったより複雑だったためとしていた。

ブログでは、同氏が以前のがんの合併症にかかっているのではないかとのうわさが飛び交った。同氏は後に、休職中に肝臓移植を受けたことを明らかにした。

今回、一部のアナリストは、ジョブズ氏が引退して後継者――ジョブズ氏不在の間Appleを経営してきたティム・クックCOO(最高執行責任者)かもしれない――に会社を引き渡す準備までしているかもしれないと考えている。

成功、追放、そして復活

ジョブズ氏は仏教徒で、養父母の下で育てられ、大学を中退した経歴を持つ。同氏は1970年代後半に友人のスティーブ・ウォズニアック氏と、シリコンバレーにある自宅のガレージでApple Computerを立ち上げた。

Appleは程なく、「Apple 1」を投入した。だが、大成功を収めたのは「Apple II」で、同製品はAppleを当時緒に付いたばかりのPC業界で重要なプレイヤーの地位に押し上げた。その結果、1980年の株式公開でジョブズ氏は億万長者となった。

1983年に、ジョブズ氏がPepsiのCEOだったジョン・スカリー氏を「残りの人生を砂糖水を売って過ごしたいか、それとも世界を変えるチャンスをつかみたいか」と口説いてAppleのCEOに引き抜いた話は有名だ。

その1年後、使いやすいグラフィカルユーザーインタフェースを備え、世界で初めて成功した商用コンピュータ「Macintosh」が登場した。

Macが成功したにもかかわらず――おそらくはその成功も一因だったのだろうが――ジョブズ氏とスカリー氏の関係は悪化した。1985年には、取締役会がジョブズ氏の権限のほとんどを取り上げ、同氏はAppleを去り、保有していた同社株を1株だけ残して売却した。

その後ジョブズ氏が設立したコンピュータ企業NeXTをAppleが買収することで、1997年に同氏はAppleに復帰した。同氏は暫定CEOとなり、2000年にAppleは肩書きから「暫定」を外した。

2001年にAppleはiPodを立ち上げた。そのエレガントでシンプルなデザインは、テクノロジーとメディアを融合させる革新者としてのジョブズ氏の伝説を揺ぎないものにした。

ジョブズ氏はAppleでの仕事に加えて、1986年にアニメ映画制作会社Pixarをエドウィン・キャットムル氏、アルビー・レイ・スミス氏とともに設立し、Lucasfilmのコンピュータグラフィックス部門を1000万ドルで買収した。

1995年にCGアニメ映画「トイ・ストーリー」を公開。その後アカデミー賞を受賞した「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」「モンスターズ・インク」などの作品を投入した。

Walt Disneyが2006年にPixarを買収した際、ジョブズ氏はDisneyの取締役と筆頭株主になった。

(ITMedia)

【私の論評】ジョブスの生き方は、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という日本人の理想を体現している!?
ジョブスの凄さは、何といってもプレゼンのうまさです。特に経営者では、彼の右にでるものはいないでしょう。下の動画を御覧になると、ジョブスのプレゼンの仕方の流儀がわかります。


さて、上の動画で、書籍の編集者が、ジョブスのプレゼンの凄さの秘訣の一つを「一回に覚えられることは三つまでであり、ジョブズはプレゼンのときに要点を三つにまとめる」と語ってしました。下の動画は、プレゼンではありませんが、ジョブスの伝説のスピーチといわれたものの動画です。ここでも、ジョブスは、要点を三つにまとめて語っています。下の動画では、特にジョブスの語る「死を意識することの意義」に着目していただきたいです。




さて、この魅力ある人物について、以前ASCIIが過去にこのように評していました。その一部を下に抜き書きします。
■二面性のある人物像
企業における部下の掌握術のひとつに、「飴と鞭を使い分ける」というものがある。言葉を換えれば、褒めるべきところはしっかり褒め、叱責すべきところはきちんと叱責するということだ。スティーブ・ジョブズは、この面でも非常に長けている。 
あるときには、些細なことから大勢の同僚の前で部下を怒鳴り散らし、自信喪失に至らせてしまう。しかし、それを乗り越えて水準を超える働きをした者には、最大級の賛辞を惜しまない。 
良く言えば感情が豊かであり、悪く言えば気まぐれとも感じられる彼には、その性格を巧みに操って、周囲の人間たちに自らのビジョンを説き、納得させてきた歴史がある。思えば、70年代後半のアップル創生期、同社は「2人のスティーブ」で成り立っていると言われていた。それは、スティーブ・ジョブズと、当時のベストセラー製品だったアップルIIの開発者、スティーブ・ウォズニアックのふたりのことだ。 
そして時は流れても、アップルは相変わらずふたりのスティーブで成り立っていると言える。ジョブズの中に存在する、温厚で人をやる気にさせるグッド・スティーブと、冷酷で人を震え上がらせるバッド・スティーブである。 
■良くも悪くも人をひきつける「カリスマ」
しかし、そのどちらが欠けても魅力的なアップル製品は生まれてこなかっただろう。カリスマ的という言葉で片づけるのは簡単だが、確かにジョブズは、良くも悪くも人を惹きつける魅力と、周囲の人間を巻き込んで何かを成し遂げる力を秘めている。可もなく不可もないような人間からは、そうした推進力は生まれない。 
そのためにスタッフが受けるプレッシャーも相当なものだが、アップルには、ほんの数ヵ月もしないうちに、いたたまれなくなって辞めてしまう人間が居る反面、もう15年以上もジョブズの下で活躍してきたメンバーも存在する。彼らが口々に指摘するのは、自らの限界を超える力を発揮して何かを創造することは、ジョブズなしには不可能だったということだ。
上の二面性のある人物ということでは、優れた経営者はみなそうだと思います。そうでなければ、優れた経営者にはなれません。なぜかといえば、企業のなかで、経営者はトレードオフの問題に適切に対処しなければならないからです。

トレードオフ(trade-off)とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の状態・関係のことを意味します。トレードオフのある状況では具体的な選択肢の長所と短所をすべて考慮したうえで決定を行うことが求められます。

たとえば、企業は、特に経営者レベルであれば、10年後のことを考えて経営する必要があります。そのために、今から準備していく必要があります。それこそ、10年後の理想の姿にたって、そこから現在をふりかえって現在を考えます。しかし、今のことをおろそかにしていれば、企業が成り立たなくなることさえあります。

今のことを無視して、将来のことばかり考えて、投資などどんどんやってしまえば、今が駄目になってしまいます。かといって、今のことだけ考えて、それに対処しているだけでは、今度は、10年後に企業がだめになって、時代に適応できなくなって潰れてしまいます。あるいは、10年後のことを考えて、現在のことを実施する場合には、今やっていることをやめて新しいやりかたを導入する必要があり、、その新しいやり方をすれば、現在のやり方よりも、効率が一時落ちる場合すらあります。このトレードオフをうまくバランスさせていくのが経営者の大きな役割の一つです。

これは、人に対しても同じことです、ある人に対して、叱責し、ある人には賛辞を惜しまないということはもとより、同じ人に対してさえも、ある時は叱責し、ある時には賛辞をおしまないということは、ジョブスに限らず、優れた経営者ならだれでもそうです。ジョブスも、優れた経営者の一人であるということです。

上記の文章で気になるのは、やはり、「良くも悪くも人をひきつけるカリスマ」というくだりです。

この文章を書いた人が「カリスマ」に対してどのような観念を持っているのかわかりませんが、本人自身が、「カリスマ的という言葉で片づけるのは簡単だが・・・・」と書いてるように、私は、ジョブスを簡単にカリスマと片付ける事はできないと思います。

経営学大家、ドラッカーは、カリスマのことについて、著書に以下のように述べてます。

 「新しい現実を踏まえた政治のモットーは、カリスマを警戒せよでなければならない」(『新しい現実』)

ドラッカーは、20世紀ほどカリスマ的なリーダーに恵まれた世紀はなかったといいます。その代表格が4人の巨大なカリスマ、ヒトラー、レーニン、スターリン、毛沢東でした。

そもそもカリスマは唯一無二とする万能薬まがいのプログラムを手にしない限り、なにもできません。それら万能薬を強制するうえで力を発揮できるにすぎないからです。

ところが、いまやそのようなプログラムが存在しません。したがってカリスマ的リーダーはまったく不要です。リーダーシップは必要です。しかしそれは、今日リーダーシップと名づけられ喧伝されているものとは違います。それはいわゆるリーダー的資質とは関係ありません。カリスマ性とはさらに関係がありません。

リーダーシップにはいささかの神秘性もない。それは平凡で退屈なものです。

リンカーンほどカリスマ性のない人物はいませんでした。チャーチルにもカリスマ性はありませんでした。

それどころかカリスマ性はリーダーたらんとする者を破滅させる。ほかならぬそのカリスマ性が、自らの不滅性を妄信させ、柔軟性を奪い、変化不能とするからである。「リーダーシップの本質は行動にある。リーダーシップそれ自体はよいものでも望ましいものでもない。それは手段である」(『未来企業』)

そうして、さらに、ドラッカーはリーダーシップについて、以下のように述べています。

「リーダーシップとは人を引きつけることではない。そのようなものは煽動的資質にすぎない。仲間をつくり、人に影響を与えることでもない。そのようなものはセールスマンシップにすぎない」(『現代の経営』)

リーダーシップとは仕事であるとドラッカーは断言しています。リーダーシップの素地として、責任の原則、成果の基準、人と仕事への敬意に優るものはありません。

リーダーシップとは、資質でもカリスマ性でもない。意味あるリーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見えるかたちで確立することです。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者です。

リーダーは、妥協を受け入れる前に、何が正しく望ましいかを考え抜く。リーダーの仕事は明快な音を出すトランペットになることだとドラッカーは言います

さて、うえの文章では「もう15年以上もジョブズの下で活躍してきたメンバーも存在する。彼らが口々に指摘するのは、自らの限界を超える力を発揮して何かを創造することは、ジョブズなしには不可能だったということだ」としています。

私は、これがジョブスの本質であり、ジョブスのリーダーシップの発揮を端的に物語っている逸話だと思います。まさに、凡人をもって、非凡なことをなさせる技をジョブスは持っているのだと思います。


ドラッカー氏から直接薫陶を受けた、ジェームズ・コリンズ氏も、その著書「ビジョナリー・カンパニー」の中で、「カリスマ性を持った人物が在任中はそれで引っ張れたとしても、退任後、組織がダメになることが多い」と述べています。

むしろ良いリーダーは、「時を告げるのではなく、時計を作る」と述べています。

「時を告げる」というのは、時計が鳴るように、大きな音で目立つパフォーマンスをするという意味のようです。

「時計を作る」というのは、組織を時計のような精密機器に見立てて、それを作り込んでいくような行為のことだ。またあなたが退任しても時を刻み続ける組織を造りなさい、ということを意味しているようです。

さて、ジョブスはどうなのでしょうか?彼は、アップルという組織に、「時計」をつくりこんでいるのでしょうか?個人としての指導者はいかにカリスマ性があってもいつかはこの世を去ります。すばらしいアイデアもいつかは時代遅れになります。ビジョナリーカンパニーは時代を超えて発展する企業です。

ジョブスは、上の動画の中で、「死を意識すること」の意義、特にポジティブな面を強調していました。これは、日本の武士道の中の「葉隠れ」の思想とも根本では相通じるところがあります。まさに、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という言葉を真の意味で実践しているようです。葉隠れは、一部の人々が曲解しているように、死を美化するものではありません。というより、まさに、上の動画でスティーブ・ジョブスが「死を意識すること」の意義と似ています。というより、生まれ育った環境や活躍してる舞台がIT業界であることなど葉隠れの思想がでてきた時代背景とは大きく異なるので、表現や、出てくる行動が少し異なるようにみえても、本質的には同じだと思います。

今の多くの日本人が忘れてしまったこのような生き方、少なくとも、少し前までは、多くの日本人の理想とした生き方、彼の生き方は、それを私たちに思い出させてくれます。だからこそ、日本でもジョブスに人気があるのだと思います。今日本では、産業に活気がありません。ジョブスがやってきたような、イノベーションは、少し前までなら日本が行っていたと思います。私は、そのようなイノベーションが行われなくなった今の日本、背景にはジョブスのような一昔前の日本人が理想とする生き方を多くの日本人が忘れてしまったからではないかと、危惧しています。

さて、そう思って現在のジョブスを見ると、あの有名なプレゼンでみせる、黒を基調とした服装、ジーンズという飾らないいでたち、なにやら、戦に挑む日本の古武士のようにも見えてきます。あの全身全霊を傾けて、ものごとに取り組む姿勢とエネルギーは、本質的には「葉隠れの思想」から沸き出でてくるものであることが、理解できます。今の若い世代には、「葉隠れ」と言っても、ほんどの人が何のことかも理解していないようです。いつから、日本の優れた世界に誇るべき伝統文化が、継承されなくなってしまったのか!!本当に残念なことです。

だから、私は、ジョブスを単純にカリスマとは呼びたくはありません。私は、彼を偉大なリーダーであると呼びたいです。日本にこのような生き方をする政治家や経営者が昨今、非常に少なくなってきたことを残念に思います。

さて、ジョブス氏、容態はどうなのでしょうか?重病説もささやかれていますが、彼は、まだ56歳、これから経営者として円熟味が増してくる年代だと思います。これからは、特に経営者として優れた手腕を発揮していただきたいものです。はやく、病を克服して、カムバックしていただきたいものです。


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