2024年5月15日水曜日

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁―【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

つばさの党、選挙カー追跡 「交通の便妨げる行為」適用も視野に捜査 警視庁

まとめ
  • 衆議院東京15区の補欠選挙で、「つばさの党」の選挙カーが他陣営の選挙カーを執拗に追跡し、一部陣営が警察署に避難する事態が発生。
  • この追跡行為は選挙活動の自由を妨害するものとして、警視庁が公職選挙法違反の疑いで捜査を進めている。
  • つばさの党の代表と幹部が他陣営を罵声で攻撃するなどの行為も繰り返していた。
  • 警視庁は選挙カーの追跡が有権者に対する情報提供の機会を妨げたと見ており、家宅捜索を実施して証拠品を押収。
  • 選挙カーによる自由妨害での摘発は前例が少なく、捜査は慎重に進められている。
翼の党による選挙妨害


 4月に実施された衆議院東京15区の補欠選挙において、異常な状況が発生した。政治団体「つばさの党」に所属する選挙カーが、他の政党の選挙カーを執拗に追跡し、その結果、複数の陣営が選挙活動の予定を変更し、警察署に避難するという事態に至った。


 この行為は、選挙の自由を著しく妨害するものとして、警視庁捜査2課による捜査が行われている。特に、つばさの党の代表である黒川敦彦氏と党幹部の根本良輔氏を含む数名が、立憲民主党など他の陣営に対して、罵声を浴びせるなどして選挙活動を妨害した。


 警視庁は、この追跡行為が公職選挙法における「自由妨害」と定義される「交通の便を妨げる行為」にあたるとみて、立件に向けた捜査を進めている。追跡を受けた陣営からは110番通報がなされ、城東署や深川署への避難が行われた事例もあり、これらの行為が街頭演説の妨害だけでなく、有権者への情報提供の機会をも妨害したと捜査チームは考えている。


 さらに、警視庁は13日につばさの党本部と黒川氏、根本氏の自宅に対して家宅捜索を実施し、パソコンなど数十点の物品を押収しました。しかし、選挙カーによる追跡という形の自由妨害行為については摘発の前例が乏しく、捜査は関係機関との調整を含め慎重に進められています。


 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事を御覧ください。


【私の論評】選挙妨害は社会秩序破壊への挑戦、絶対許すな

まとめ

  • 令和元年の参院選での選挙妨害事案では、札幌地裁が原告の勝訴を言い渡したが、二審では警察の行為が妥当とされた。
  • 安倍晋三元首相は選挙妨害により、「ステルス遊説」を行うようになった。
  • 選挙妨害は言論の自由への挑戦であり、聴衆の「知る権利」を侵害している。
  • メディアによる選挙妨害の正当化は、民主主義の破壊行為に他ならない。
  • 選挙妨害を正当化する動きは、社会の規律の緩みや分断を助長するものであり、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要がある。

今回の翼の党による選挙妨害について、よく引き合いに出されるのが、令和元年の参院選で、札幌市で演説中の安倍晋三首相(当時)に「安倍辞めろ」とヤジを飛ばした2人が北海道警の警察官に現場から排除され、損害賠償を求めた裁判です。

この裁判結果には私も不服です。


札幌地裁は第一審で原告側の「勝訴」判決を言い渡しました。原告は大杉雅栄(34)と桃井希生(26)で、北海道に対し、慰謝料660万円の損害賠償請求しました。

ただし、二審札幌高裁では、大杉氏は安倍氏に危害を加える恐れがあったとして、警察官の行為は妥当と認定し、一審札幌地裁の賠償命令を取り消しました。一方、桃井希生(27)については、排除は憲法で保障された表現の自由の侵害に当たるとして55万円の賠償命令を維持しており、桃井は上告できません。

これ以前にも安倍首相に対する選挙妨害は行わていました。

平成29年の東京・秋葉原で行われた安倍晋三元首相の演説中に一部聴衆から「安倍やめろ」「帰れ」との大合唱が起こり、演説をかき消す事態が発生しました。安倍氏はこれらの妨害に対して抗議しましたが、一部新聞はヤジを演説への意見表明として正当化し、安倍氏の反応を批判しました。

これらの論調は多くのテレビメディアにも同調され、結果として安倍氏は選挙妨害者との接触を避けるために遊説場所を事前に告知しない「ステルス遊説」を展開することになりました。さらに、警察の対応も萎縮させる結果となり、安倍氏暗殺事件時にテロリストの取り押さえが遅れる一因となりました。

安倍首相がステルス遊説をすることになった原因を作り出した悪質な選挙妨害

この一連の出来事は、「安倍やめろ」「帰れ」というヤジが単なる意見表明ではなく、演説者に対する恫喝的な命令であり、非言論によって言論をかき消す行為、すなわち言論の自由への挑戦行為であることを示しています。さらに、これは演説を聴きたいとして集まったひとたちの権利を奪うものでもあります。

法の下の平等の原則から、このような妨害行為を警察が排除することは困難ですが、これによって最終的に被害を受けるのは、候補者の政治的主張について知りたいと思っている一般聴衆の「知る権利」です。

この事案を通じて、多くの国民がヤジを正当化するメディアの欺瞞を強く認識すべきですし、非言論による選挙妨害を正当化する言論機関の行動が、実際には民主主義の破壊行為に他ならないことを認識すべきです。

このような身勝手な「表現の自由」の行使は、言論の自由を守るべき使命を持つ言論機関によるものであってはならず、言論の自由の本質と民主主義の根幹を揺るがす問題として、深い反省と対策が求められています。

選挙妨害の正当化は社会に混乱をもたらし、社会の規律の緩みを生じさせかねません。これにより、公共の場でのルールや秩序を守るという共通の認識が損なわれる可能性があります。このような状況は、言論の自由という基本的な権利の誤用につながり、それがさらに社会全体のモラルや規範意識の低下を招くことにもなりかねません。

特に、選挙という民主主義の根幹を成すプロセスにおいて、言論の場が不当に妨害されることが許容されるようになれば、それが「力による支配」や「多数による圧力」といった不健全な社会風潮を助長することにもつながります。このような風潮は、学校や職場など、社会のあらゆる場でのいじめの排除、パワハラ、セクハラ、モラハラ排除といった問題に対する意識の鈍化を引き起こす可能性があります。

米国の暴動

さらに、選挙妨害を正当化する動きが、特定の意見や立場のみが許容されるという排他的な社会を生み出すことにも繋がりかねません。これは、多様性や相互理解といった民主社会の基盤を揺るがすことになり、結果的に社会全体の寛容性の低下や分断を助長することになるでしょう。そうしたことの果には、米国などにみられる暴動が起こる可能性も否定しきれません。

したがって、選挙妨害の正当化は、ただちに社会に混乱をもたらすだけでなく、長期的に見ても社会の規律の緩みやいじめやモラルの崩壊の助長など、さまざまな負の影響を生じさせる可能性が高いと言えます。このため、言論の自由を含む基本的人権を尊重しつつも、公共の場での秩序や規範を維持することの重要性を、社会全体で共有し、守っていく必要があります。

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2024年5月14日火曜日

「リパトリ減税」効果は期待薄 円安対策として注目も…「30万円還元」や「消費税ゼロ」など本格対策からの目くらましだ―【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

高橋洋一「日本の解き方」

 円安対策として注目されている「リパトリ減税」は、企業や投資家が海外から資金を本国に還流する際の法人税を減税する制度だ。しかし、すでに外国子会社からの配当に関する95%非課税措置があるため、リパトリ減税の実際の対象額は限られ、法人税減収額はせいぜい数千億円程度にとどまる可能性がある。そのため、リパトリ減税の効果はほとんど期待できない。

 本格的な円安対策としては、日本政府が保有する外国為替資金特別会計(外為特会)の「含み益」を国民に還元すべき。円安によって日本の外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益が生じている。この含み益を活用すれば、国民一人当たり20万円から30万円の現金支給が可能になるか、あるいは消費税率を2年程度ゼロにできる。

 歴史的に見ても、円安は日本の経済成長を後押ししてきた。円安のメリットを最大限に享受しているのは日本政府だ。したがって、政府がその利益を国民に還元すれば、円安へのマイナスイメージは和らぐはずだ。リパトリ減税は本格的な対策からの目くらまし策に過ぎず、国民の目をそらすための施策にすぎないようにみえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事を語等になって下さい。

【私の論評】リパトリ減税は円高是正に効果なし!為替レートの中長期動向と適切な政策は?

まとめ

  • リパトリ減税(リパトリエーション減税)が円高是正に明確な効果があった歴史的事例はない。
  • アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本などでも過去に類似策を試みたが、その実効性には議論の余地がある。
  • 民間企業は既に自主的なリパトリエーション(資金還流)を行っている場合があり、政府の減税策の効果には限界がある。
  • リパトリ減税は為替レートに直接影響を与えるものではない。為替レートは中長期的には両国の通貨発行残高比率に収束する。
  • 現状では消費税減税を優先し、補助金支給とバランスを取る政策運営が賢明である。
レパトリ減税で国民はウハウハにならない

リパトリ減税は、正しくはリパトリエーション減税(repatriation tax holiday)です。現状の日本では、これが功を奏して円高が是正されることはないでしょうし、古今東西でこれがはっきり成功したという事例はありません。

米国のレーガン政権時代(1980年代)に実施された「税源浸食防止法」。海外に留保されている企業利益の本国還流を促進するため、一時的な減税措置を講じた。しかし、その実際の効果については明確ではありません。

イギリス(2009年)とオーストラリア(2019年)では、外国子会社から本国への配当に対する軽減税率などの優遇措置を導入しましたが、その効果については見解が分かれています。
 
日本でも過去に類似の政策は試みられたものの、大きな成果は見られなかったとされています。

このように、リパトリ減税自体が大きな成功を収めた先例は見つからず、その実効性については依然として議論が続いている状況と言えます。

また民間企業は、すでに自主的にリパトリエーション(資金の本国還流)を行っている場合があります。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 海外子会社からの配当 海外子会社の利益を、配当金として本社に送金する形でリパトリエーションを行う。
  • 外貨建て資産の売却 海外で保有する外貨建て資産(有価証券など)を売却し、円換算後の資金を国内に持ち帰す。
  • 現地法人の資金調達 海外現地法人が、現地での増資や借入などで調達した資金の一部を本社に送金する。

こうした自主的なリパトリエーションは、企業の資金ニーズや為替リスク回避の観点から、日常的に一定程度行われていると考えられます。たとえば、過去に北朝鮮から頻繁にミサイルが発射されたときに、円安ではなく、円高になったことがありますが、これは企業のよる自主的なリパトリがあったのではないかといわれています。

したがって、政府によるリパトリ減税はあくまでインセンティブ付与の意味合いが強く、民間企業がすでにリパトリエーションを実施していることは事実です。減税があっても、リパトリを行う資金が当初から少なければ、大きな効果は期待できません。

つまり、リパトリ減税の効果には一定の限界があり、民間企業の実態を踏まえた上で、政策を検討する必要があることが分かります。

さらに、リパトリ減税が円安是正につながるという考えには、為替という観点からみても妥当性はありません。

リパトリ減税は、企業の海外利益や資金を国内に還流させることを目的としていますが、それ自体は為替レートに直接影響を与えるものではありません。

そもそも、為替レートそのものは、中長期的以下の式で決まるものです。

世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量(円/ドル)

中長期的な為替レートの動きは、それぞれの通貨の発行残高や流通量に収束していく傾向があると考えられています。これは「購買力平価説」と呼ばれる理論に基づいています。

購買力平価説の基本的な考え方は、2つの通貨の為替レートは、それぞれの国の物価水準を反映して決まるというものです。つまり、長期的には為替レートは以下の式に収束するとされています。

為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

この式を変形すると、為替レート(円/ドル) = (日本の物価水準) / (米国の物価水準)

≒ (日本の通貨供給量) / (米国の通貨供給量) ≒ (日本の通貨発行残高) / (米国の通貨発行残高)

となり、結局のところ、為替レートは両国の通貨発行残高の比率、つまり「世界に流通している円の総量÷世界に流通しているドルの総量」に収束していくと考えられています。

中長期的な為替レートの動きは、この比率の方向に向かう傾向があると言えます。ただし、これは理論的な見方であり、実際の為替レートは短期的には様々な要因で変動します。

購買力平価説は理論モデルの1つであり、実際の為替レートは短期的には様々な要因(金利、経常収支、投機的な資金の動きなど)で変動します。中長期的なトレンドに収束するまでには調整の時間がかかります。

一時的な円高介入や減税措置などの政策は、短期的には為替レートに影響を与える可能性があります。しかし、中長期的に見れば、そうした一時的な政策効果は徐々に薄れ、為替レートは結局のところ、両通貨の発行残高の比率に収束していくと理解できます。

これは購買力平価説に基づく理論的な見方ですが、実際の為替レートの動きを中長期的に観察すると、この理論が概ね当てはまることが分かります。一時的な乖離はあっても、最終的には通貨供給量の比率に収束する傾向が見て取れます。

円高や為替を巡っては、いわゆる「とんでも理論」がマスコミ等で流布されていますが、それは上のツイートと同じくらい馬鹿げたものです。

やはり、高橋洋一氏が言うように、円高対策としてのリパトリ減税は、単なる目くらましすぎません。政府が実施すべきは、このような効果がはっきりしない政策よりも、外貨準備の円換算額が増加し、数十兆円の含み益を活用して、消費税減税をすべきです。

総合的に判断すれば、現状は個人消費の下支えが急務と考えられることから、今こそ消費税減税を優先すべきです。ただし、減税による減収分の財源確保は先にも述べたように円安による税収増や含み益があります。

当面の個人消費喚起の観点から、消費税減税を優先し、可能な範囲で補助金支給も組み合わせる、バランスの取れた政策運営が賢明と考えられます。

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2024年5月13日月曜日

ロシアでバスが橋から転落、川へ真っ逆さま 乗客7人死亡―【私の論評】ロシアで深刻化する人手不足問題、さらなる悲劇を招くのか?

ロシアでバスが橋から転落、川へ真っ逆さま 乗客7人死亡


ロシアのサンクトペテルブルクで5月10日、バスが橋の欄干を突き破って川に転落し、乗客7人が死亡した。監視カメラの映像には、転落する前にバスが大きくハンドルを切る様子が映っていた。バスは完全に水没し、救急隊が出動。現地当局は、救助のため川に飛び込んだ通行人らに感謝の意を表した。国営ロシア通信(RIA)によると、運転手は拘束された(映像のみ)。

【私の論評】ロシアで深刻化する人手不足問題、さらなる悲劇を招くのか?

  • 2024年5月10日、ロシア・サンクトペテルブルクでバスが川に転落。死者7人、重軽傷者9人。
  • 運転手は拘束、原因調査中。
  • ウクライナ戦争による人手不足、運転手の疲労などが事故につながった可能性。
  • ロシア全体で人手不足が深刻化、今後も事故の危険性あり。
  • 戦争長期化で人手不足悪化、社会インフラにも影響。

事故を起こしたバスの運転手は生きており現地警察に拘束され、事故原因についての捜査が開始されています。今のところ、事故原因については全く不明。

しかし、ロシアメディアの「Известия」(Izvestia:イズベスチヤ)に運転手の妻が述べた気になるコメントが掲載されていました。

イズベスチヤの掲載記事【2024年5月11日02:05掲載】
サンクトペテルブルクでの事故当時のバスの映像が公開された

(抜粋)

バスの運転手は拘束されたが、妻の報告によると、夫は健康状態に不満を漏らしたことはなく、悲劇に巻き込まれる前は20時間の勤務を終えて出勤していたという。https://iz.ru/1694870/2024-05-11/poiavilis-kadry-iz-salona-avtobusa-v-moment-dtp-v-peterburge
イズベスチヤの掲載内容は、運転手の妻によると夫は健康状態に問題は無かったのですが、20時間という長時間勤務のあとの出勤日に事故を起こしたというもの。他のメディアでも同様の内容に加えて、ほとんど休日の無かった夫(バスの運転手)はマネージャーに朝のシフトを強制されたという情報も報道されています。

内容の信憑性に加えて、長時間労働が事実だとしても事故原因を断定するものではありませんが、不眠不休でバスを運転する劣悪な労働環境が事故の背景にあったのかもしれません。

ウクライナ戦争の長期化により、ロシアでは軍事関連の需要が高まっています。この需要の高まりにより、その結果、一般の運転手不足などの人手不足が生じている可能性があります。一方、ウクライナ軍も戦闘員の不足に直面しており、来年の戦争継続のためには50万人もの新兵が必要だと指摘されています。

ロシアの対独戦勝記念日を祝う軍事パレードに登場した戦車は、第2次世界大戦で使用された旧ソ連のT-34戦車

ロシアでは軍事関連の需要の高まりにより、一般の運転手などの人手不足が生じている可能性があります。このような人手不足が、事故の背景にある運転手の疲労や不注意、整備不足、監督不足などの要因につながっている可能性が考えられます。

つまり、ロシアのサンクトペテルブルクでのバス事故の背景には、ウクライナ戦争の長期化による人手不足の影響が考えられるのです。戦争の影響は両国の人的資源に深刻な影響を及ぼしており、事故の背景にもこうした要因が関係している可能性があります。今後、戦争の長期化が各国の社会インフラにも影響を及ぼすことが懸念されます。 

ロシア全体で今年不足している労働者の数は約480万人に上り、来年も深刻な不足状態が続くと予想されています。

ロシアでは、人手不足に伴い、適切な点検や訓練が行われていないことが原因で、深刻な事故が発生しています。2023年3月のシェレメーチェボ空港での航空機事故、6月のクラスノダール地方での鉄道事故(写真下)、9月のモスクワ郊外の建設現場での重機事故など、人手不足が安全面での懸念を高めています。


人材採用会社の調査では、賃金が基礎的支出を下回っていると回答したロシア人が過去2年で20%増加し、約半数に達したことが分かっています。

深刻な人手不足であっても賃金の上昇が抑えられている傾向にあります。ロシアの法定最低賃金は2007年9月以降、月2,300ルーブル(約10,500円)で推移しています。

以下にロシアの物価の推移を掲載しておきます。

   ロシア 消費者物価指数(前年同月比)四半期推移 

四半期前年同月比食品非食品サービス
2021年12月~2022年2月9.40%11.23%8.13%8.12%
2022年3月~5月18.12%23.02%14.92%14.22%
2022年6月~8月14.70%18.12%13.04%12.38%
2022年9月~11月11.65%14.43%10.27%9.90%
2022年12月~2023年2月9.06%11.20%8.26%7.98%
2023年3月~5月17.22%21.40%14.88%14.38%
2023年6月~8月13.94%17.22%12.65%11.78%
2023年9月~11月12.09%14.62%10.80%10.51%
2023年12月~2024年2月8.55%10.89%7.78%7.42%
Investing.com ロシア 消費者物価指数(前年比): https://www.investing.com/economic-calendar/national-cpi-992
ニッセイ基礎研究所 ロシアの物価状況: https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77583?site=nli
物価高のなかロシアでは人手不足が深刻化し、賃金上昇圧力が高まっている一方で、賃金上昇が抑えられている状況にあります。今後の動向に注目していく必要があります。

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2024年5月12日日曜日

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出―【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたと周りの人もその標的に

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿…ネットに資料流出

まとめ
  • 中国の安洵信息技術有限公司が「ツイッター世論誘導統制システム」を開発し、Xアカウントを不正に乗っ取って中国当局への有利な世論操作がされていた疑いがある
  • 同社の内部資料約20ページがネットに流出し、乗っ取り手口などが記載されている
  • 同社は中国当局、特に公安機関等と密接な取引関係があり、世論工作ツールを販売している
  • 台湾のサイバー企業は「本物の文書」と判断し、中国のSNS世論工作の「初の証拠」と指摘
  • 日本政府も資料を入手し、中国の対外世論工作との関連を調査中

安洵信息技術有限公司

 中国の安洵信息技術有限公司が開発したとされる「ツイッター世論誘導統制システム」の内部資料が、インターネット上に流出していたことがわかった。この約20ページの資料では、旧ツイッターのXアカウントに不正なURLを送ることで乗っ取り、ダイレクトメッセージを盗み見たり、中国当局に都合のよい投稿をさせることができると記載されている。

 資料によると、同システムは「好ましくない反動的な世論を検知する」ことを目的に構築され、「社会の安定には、公安機関が世論をコントロールすることが極めて重要」と明記されていた。近年、他人に乗っ取られたとみられるXアカウントが、中国語や日本語で中国の反体制派を批判するケースが相次いでおり、このシステムが使われている可能性があるという。

 安洵信息技術は2010年に設立された企業で、国家安全省からIT製品の納入業者に選定されるなど、中国当局と密接な関係にあった。資料流出と合わせて公開された約580ファイルには、同社が地方の公安当局と契約を結び、通信アプリ向けの世論工作ツールを販売していた記録が残されていた。

 台湾のサイバーセキュリティ企業「TeamT5」は、資料に記載された工作手口などから「本物の流出文書と確信している」と分析。さらに「中国が世論工作のため西側諸国のSNSを利用する意志と能力を持っていることを示す初の証拠だ」と指摘している。

 日本政府の情報機関も、流出資料を入手し本物と判断。分析を進めるとともに、中国の対外世論工作との関連を詳しく調査している。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】世論工作の影響に警鐘:あなたや周りの人もその標的

まとめ
  • 中国による世論工作の手口は、大きく分けて、大量のネット工作員の投入やボットアカウント、トロールアカウントの利用、さらにはSNS投稿の監視と削除などが挙げられる。
  • 民間企業への世論工作の委託やコメント操作アプリの利用も行われている。
  • 他国でも同様の動きが見られ、ロシアの「インターネット研究所(IRI)」やトルコ政府の「アストロターフィング」キャンペーン、イランのサイバー軍の活動が挙げられる。
  • 世論操作に対処するためには、情報源の確認や正確性の検証、バイアスに気をつけることが重要である。
  • 自らの政治的・経済的スタンスが不明確な人々は、世論操作の標的になりやすく、その対策としては主体的な判断力を養い、多様な情報源から情報を検証すべきである
中国による世論工作の手口について、テクノロジーツールだけでなく、人為的な工作も含めてより幅広く事例を挙げます。


1. 「五毛党」と呼ばれる大量のネット工作員の投入
中国政府は、大量のネット工作員を雇い、インターネット上で政府の主張を支持する投稿を行ったり、批判的な意見を攻撃したりすることで、世論を誘導しようとしているとわれています。2010年代には20万人以上が動員されていたと推定されています。
2. ボットアカウントやトロールアカウントの利用
政治的プロパガンダの拡散などを目的に、大量の自動投稿アカウント(ボット)やトロール(誹謗中傷を行うアカウント)を作成し、世論操作に利用していると指摘されています。
3. 検閲ツールを使ったSNS投稿の監視と削除
Facebook、Twitter、Instagramなどの海外SNSで中国批判的な投稿を自動で監視し、削除させるための検閲ツールを開発・利用していると報じられています。
4. 民間企業への世論工作委託
中国政府は、一部の世論工作を民間のIT企業に委託し、専門的なツール開発やネット工作員の雇用などを行わせているとされています。今回の安洵信息技術の事例がこれに当たります。
5. コメント操作アプリの利用
動画サイトなどで、コメント操作アプリを使って人気コメントを不正に操作し、政府に都合の良い世論を作り出そうとする動きが確認されています。  
6. SNSアカウントのハイジャック
不正なリンクを開かせることで、他人のSNSアカウントを乗っ取り、ダイレクトメッセージの盗聴や政府に都合の良い投稿を行う手口も報告されています。
このように、中国当局は多様な手段を組み合わせて、インターネット上の世論をコントロールしようとしていると考えられています。

これは、中国以外の国々でも行われています。

ロシアでは、政府資金を受けた「インターネット研究所(IRI)」が、ソーシャルメディア上での情報拡散や議論に影響を与えるツールを開発。オンライン世論を監視し操作することが目的とされているとされています。

トルコ政府は、ソーシャルメディアを監視し、偽アカウントから政府支持の投稿を行う「アストロターフィング」キャンペーンを実施。都合のいい情報を拡散させようとしているとされています。

イランのサイバー軍も、偽アカウントを用いて虚偽情報を拡散したり、反体制派を攻撃したりするなど、ソーシャルメディア上での世論操作ツールを活用しているとされています。

このように、中国に加えて、ロシア、トルコ、イランなど他国でも、政府や特定組織がソーシャルメディアを利用して世論を操作する試みがなされており、偽情報に惑わされないよう注意が必要です。ただ、これらはいままでは、おそらく正しいとはみられていたものの、推測の域にとどまっていました。

ネットに流出した「世論工作システム」の資料とみられる文書の表紙

しかし今回の、資料流出はこれが本物であれは、中国当局の関与を強く示す内部資料が初めて現われたということになります。台湾の専門家も「中国によるSNS世論工作の初の証拠」と指摘しているとおり、これまでの疑惑を裏付ける重要な一次資料となり得るのです。

ただし、資料の完全な信頼性は未確認です。日本政府が資料を精査し、本物と判断すれば、中国の世論工作の実態が明らかになる極めて重要な証拠となるでしょう。

ソーシャルメディア上での世論操作ツールに惑わされないためには、以下の点に注意することが重要です。
  • 情報の発信元を確認する 投稿者のアカウントが本物かどうか、信頼できる発信源からの情報かどうかを確認します。偽アカウントやボットアカウントからの投稿には注意が必要です。実在の人物や組織による発信であるかを確認すべきです。匿名(個人、組織)アカウントによる発信は、一部を除いて著しく信憑性は劣るものとみなすべきでしょう。
  • 情報の正確性を検証する 投稿内容が事実に基づいているか、根拠となる情報源が明記されているかどうかを確認します。デマやフェイクニュースに惑わされないよう注意深く内容を吟味する必要があります。
  • バイアスに気をつける 特定の政治的立場や主張を支持する内容に偏りがないか、バイアスがかかっていないかに注意を払います。客観性や公平性に欠ける投稿は慎重に評価する必要があります。
  • 批判的に考える 投稿内容を鵜呑みにせず、常に批判的な視点を持ち、自分で考え、判断することが大切です。単に人気コメントや拡散されている投稿に惑わされないようにしましょう。
  • 信頼できる情報源に頼る 政府機関や専門家、権威あるメディアなど、信頼できる情報源からの情報を確認し、参考にすることをおすすめします。
特に、自らの政治的・経済的スタンスや価値観が確固としていない人(軸がはっきりしていない人)は、ソーシャルメディア上の世論操作の標的になりやすいです。理由は以下の通りです。

1. 主体的な判断力が乏しい
自らの軸がはっきりしていない人は、様々な情報に惑わされやすく、主体的に情報を評価し、判断する力が弱い傾向にあります。操作されやすい土壌となってしまいます。
2. 一貫性のある考え方を持っていない
確固たる信念や一貫したスタンスがないため、ごく一時的な影響で簡単に意見が動転してしまう可能性があります。世論操作の影響を受けやすくなります。
3. 多様な情報源から検証しない
自らの価値観が確立していないと、情報を偏りなく収集し、様々な視点から検証する態度に欠ける場合があります。偽情報に惑わされやすくなります。
4. 大勢に流される
自己主張が曖昧だと、大勢の流れに身を任せてしまいがちです。世論の訴えかけに惑わされ、操作に加担してしまう危険性が高くなります。
このように、自らの価値観や判断基準が明確でない人は、世論操作の標的になりがちです。政治・経済問題に関して主体的に考え、自らの軸を確立することが、偽情報や世論誘導に惑わされないための大切な土台となるでしょう。

ソーシャルメディアは世論操作の標的になりやすい環境です。常に注意を払い、冷静に情報を評価することが、誤った影響を受けずに済む賢明な対処法となるでしょう。

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2024年5月11日土曜日

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ―【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

セキュリティー・クリアランス創設 国際ビジネス機会の拡大へ

まとめ
  • 経済安全保障上の機密情報アクセスを制限する「セキュリティー・クリアランス制度」導入法が成立 - 対象者限定、事前確認、漏えい罰則
  • 政府は情報保全強化と日本企業の国際ビジネス機会拡大を制度の意義として強調

 経済安全保障上の機密情報を扱える人を制限する「セキュリティー・クリアランス制度」を導入する法律が、参議院本会議で可決・成立した。

 この制度は、日本の安全保障に影響を与えかねない「重要経済安保情報」を指定し、アクセスできる人を民間企業の従業員も含めて限定する。対象者の信頼性を事前に確認し、情報漏えいには刑罰を科す。政府は日本企業の国際ビジネス機会拡大など、制度の意義を強調している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本セキュリティー・クリアランス制度の欠陥とその国際的影響

まとめ
  • セキュリティー・クリアランス制度の導入法には、要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在という2つの大きな欠陥がある。
  • これらの欠陥は、政治的妥協、制度導入の緊急性、権力者の利権保護の結果として生じたとみられる。
  • 欠陥があるにも関わらず、野党やマスコミからの大きな反発がなかった背景には、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の存在がある可能性がある。
  • この制度が不備を抱えたまま放置されれば、日本は同盟国からの信頼を失い、機密情報共有の制限や経済的な被害を受ける可能性がある。
  • 安全保障環境の変化に対応し、同盟国からの信頼を維持するためには、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要がある。

今回の「セキュリティー・クリアランス制度」導入法には、2点制度の欠陥として指摘されている事柄があります。

1つ目の欠陥は、一定の要職者(国務大臣、副大臣など)が適性評価の対象外となる規定があり、これらの要職者が適切に審査されずにアクセス権を得てしまう可能性があることです。

2つ目は、適性評価の審査項目に"性行動"が含まれていないため、外国勢力によるハニートラップ攻撃の危険性が考慮されていないという点です。米国のSC制度では性行動も審査されますが、日本のSC法案ではそれがなく、重要情報へのアクセスリスクが指摘されています。

こうした指摘はSC制度の運用における重大な課題と言えそうです。

この2つの欠陥を抱えたままSC制度法が制定された背景としては、以下のような理由が考えられます。
  • 政治的な妥協の結果 一定の要職者を適性評価から外す規定や、性行動を審査対象外とした点は、制度導入に反対する政治勢力との妥協の産物だった可能性があります。完全な制度よりも何らかの制度を導入することを優先した政治決着があったのかもしれません。
  • 制度導入の緊急性 経済安全保障上の機密情報管理の必要性が高まる中、制度導入を先送りするリスクを避けるため、一定の欠陥は認めつつも先に制度を立ち上げ、課題は運用を通じて改善していく、という考え方があったかもしれません。
権力者の利権保護 要職者が適性評価を免除される規定は、将来的に自分たちが恩恵を受けられるよう、権力者サイドが確保した暗黙の了解事項だった可能性もあります。

完全な制度は難しくとも、まずは導入することに重きを置いた結果、こうした欠陥は避けられなかったという側面もあるのではないかと考えられます。

日本のセキュリティークリアランス制度が2つの大きな欠陥、つまり要職者の適性評価免除と性行動審査の不存在を抱えたままであることは、海外、特に同盟国から批判的に見られるしょう。

まず制度の実効性自体に疑問が持たれるでしょう。要職者が適性評価の対象外となれば、機密情報の取り扱いに大きな穴が開きますし、性的誘惑を利用したハニートラップ対策が全くなされていないため、スパイ活動への抵抗力が低いと指摘されるでしょう。

さらに、経済安全保障を重視するという日本の姿勢と、この不備だらけの制度との間に大きな矛盾があると見なされ、日本の本気度が疑われかねないです。その結果、同盟国との機密情報の共有において、日本側の情報取り扱いが信頼できるか疑問視される可能性が高いです。

そのため、日本に対しては制度の抜本的な見直しと強化が求められ、改善が進まなければ、同盟国から機密情報の共有を制限される可能性すらあります。機密情報の適切な取り扱いは極めて重要であり、この2つの欠陥は看過できるものではありません。日本は同盟国から厳しい視線を受け、制度改善への強い期待が寄せられることになるでしょう。

日本はファイブアイズとの情報共有も難しくなる可能性がある

経済安全保障担当大臣の高市早苗氏は、「セキュリティー・クリアランス制度」の導入に向けた法案の立案を主導しました。高市大臣は、参議院での審議でも法案の説明と質疑応答に立っており、内閣府副大臣、国家安全保障局長、内閣官房副長官補らが検討に参加しています。有識者会議での議論も予定されており、政府全体で取り組んでいる重要な政策です。

にもかかわらず、政治的な圧力や利害関係の影響が大きく、この欠陥を内包したまま法案をせいりつせざるを得なかったとみられます。この法案に関して、野党やマスコミからの反発はほとんどありませんてした。

大きな反発がなかった背景には、2つの重大な欠陥を事前に認識しながら、それらを意図的に問題視せず法制化を図ろうとした勢力の存在があった可能性があります。一部の政治勢力が将来的な要職者監視の回避や利権の温存のために、免除規定を盛り込み、ハニートラップ対策を不要と判断し制度設計から外した可能性があります。

さらに、野党や報道側にも制度の実態を十分把握できていない部分があり、大きな問題視がされなかったこともあるかもしれません。つまり、重大な欠陥の隠蔽を企図した勢力の動きが、大々的な反発を封じ込めた一因となった可能性が考えられます。


この制度の抜本的な改善が行われない限り、日本は経済・安全保障の両面で、同盟国の信頼を失い、深刻な被害を被る可能性があると言えるでしょう。ただし、いままでなかった制度が成立したわけですから、これは心もとないものの、一歩前進でしょう。今後は、この法律の早期改正を目指すべきです。

日本が情報管理に寛容であった背景には、平和国家として脅威を意識してこなかったこと、過度の監視や制裁を好まない文化があったこと、官民で情報共有が不足しリスクが正しく認識されていなかったことなどが考えられます。

しかし、安全保障環境の変化を受けて、同盟国からの信頼を維持するためにも、情報管理の重要性への認識を改め、より厳格な制度と運用を早急に確立する必要があります。

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2024年5月10日金曜日

横須賀基地の「いずも」ドローン撮影、「本物」の可能性 防衛省が分析公表―【私の論評】ドローン脅威とますます高まる対潜戦の重要性 - 浮き彫りにされた現代海戦の二つの側面

横須賀基地の「いずも」ドローン撮影、「本物」の可能性 防衛省が分析公表

まとめ
  • 自衛隊の横須賀基地で護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性が高い動画がSNSで拡散され、防衛省はその分析結果を公表した。
  • 自衛隊基地でのドローン無許可飛行は法律で禁止されており、防衛省は万が一の危害に備え、警備を万全に期すとしている。
護衛艦「いずも」をドローンで撮影した可能性があるとされた動画の一場面(投稿されたXから)

 海上自衛隊横須賀基地(横須賀市)に停泊中のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」をドローンで撮影したような動画が交流サイト(SNS)で拡散した問題で、防衛省は9日、実際に撮影されたものである可能性が高いとする分析結果を公表した。

 自衛隊の基地などでドローンを無許可で飛行させることは法律で禁止されている。防衛省はドローンによって危害が加えられた場合は日本の防衛に重大な支障を生じかねないとして警備に万全を期すとしている。

【私の論評】ドローン脅威とますます高まる対潜戦の重要性 - 浮き彫りにされた現代海戦の二つの側面

まとめ
  • 現代の海戦では、ステルス性に優れた潜水艦が重要な役割を担い、水上艦艇はドローン、ミサイルや潜水艦から攻撃を受ける標的に過ぎなくなりつつある。
  • 中国は近年潜水艦の数と質を向上させているが、日本は優れた対潜戦能力を有し、中国潜水艦の活動を探知・公表してきた実績がある。
  • 一方で中国側は、日本の水上艦艇をドローンで撮影したことをSNSで公開するか、公開されたそれを利用してドローン脅威を示唆している。
  • 日本としては、対潜戦能力に加え、ドローン対策や水上艦の防護能力の強化が課題となっている。
  • 今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、対潜戦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにした

現代の海戦における潜水艦の重要性は非常に高くなっています。現代では、水上艦艇は、監視衛星、レーダー等によって簡単に探知することができます。

しかし、ステルス性に優れた潜水艦は、これを発見することは困難であり、敵の艦船や潜水艦を追跡し、必要に応じて攻撃でき、大きな脅威となります。一方、水上艦艇はミサイル、水中・海中ドローン、潜水艦から攻撃を受ける危険性が高まっており、大きな標的に過ぎなくなりつつあります。

これは、フォークランド紛争の頃からいわれていたことであり、当時からもはや水上艦艇は、ミサイルの標的にすぎなくなったといわれるようになりました。確かに、空母や他の艦艇には防空システムが搭載されていますが、ミサイルによる飽和攻撃を受ければ、これを防ぎきることはできません。

フォークランド紛争で撃沈された英国の艦艇

最近では、ミサイルよりもさらに安価な空中・水中ドローンによる大量飽和攻撃を受ければ、水上艦艇がこれに対処するのは困難です。

だからこそ、現在の海戦では、潜水艦と対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、有利なのです。

中国が製造する潜水艦は、改善されつつあるとはいえ未だステルス性には優れおらず、そのため発見されやすいです。ただし、ステルス性に優れていない潜水艦であっても、動力を使わずに潮流に乗って移動している間は、発見は難しいです。

こうした潮流を探すために、中国は日本の排他的経済水域などにブイを設置したり、測量船などを運用して海洋調査を継続しているとみられます。

中国は近年、潜水艦の数を大幅に増強しており、その質も向上しつつあります。しかし、潜水艦のステルス性や対潜哨戒能力や対潜戦能力については、まだ日本や米国に遅れを取っていると指摘されています。

日本は、対潜哨戒力がすぐれているため、中国の潜水艦を探知できる可能性は高いです。実際に、過去には中国の潜水艦が日本の排他的水域に入って航行したことを何度か公表したことがあります。

  • 2004年11月: 中国の潜水艦が日本の排他的経済水域(EEZ)に入り、紀伊半島沖で航行したことが報告されました。
  • 2006年2月: 中国の潜水艦が再び日本のEEZに入り、鹿児島県沖で航行していたことが報告されました。
  • 2018年1月:中国の艦艇・潜水艦が尖閣諸島の接続水域を航行

これらの事件は、日本の対潜哨戒能力が中国の潜水艦を探知することができることを示すものです。しかも潜水艦の動向に関して公表することは、攻撃能力や探知能力を知られる可能性があるということで、避けるのが普通ですが、これをわざわざ公表したというのは、防衛省の自信のあらわれとみられます。

日本が中国の潜水艦を発見し報道されることはあっても、中国ではそのようなことはありません。もし、中国側に優れた探知能力があれば、たとえば南シナ海やなどの中国軍基地の近くで日米の潜水艦などを発見した場合、これを公表するかもしれません。

中国の近海は浅くて、ここで日米の潜水艦が情報収集活動を行うことは難しいですが、南シナ海は水深は深く、ここには日米を含め各国の潜水艦が活動しているとみられています。しかし、そのようなニュースは未だにありません。これは、そもそも発見できていないか、自らの探知能力を知られたくないという中国側の事情があるとみられます。

こうした背景から、中国側では日本の護衛艦をドローンで撮影したことがニュースになるといった事態が生じているのだと考えられます。無論、これはSNSに掲載されただけのようですが、中国政府はこれを黙認しているということです。それは、合法的な手段で撮影されたものではないからでしょう。

ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」には、様々な用途があります。そのうち対潜哨戒と、対潜水艦戦は重要な用途です。先日対潜哨戒訓練にあたっていた海自のヘリコプターが墜落しましたが、「いずも」搭載のヘリコプターも対潜哨戒や対潜水艦戦の任務を担っています。

中国側としては、ドローンの脅威があることを日本側に知らしめるための政治的メッセージとして、利用している可能性があります。また、中国はドローンを使って重要施設を攻撃したり、情報を収集したりする可能性があります。ドローンの飛行ルートや操縦者の特定、さらには電波妨害などの対策を講じる必要があるでしょう。

ドローンの飽和攻撃の想像図

日本としては、既存の潜水艦や対潜水艦戦の能力を高めるだけではなく、ドローンを探知する能力やこれを攻撃する能力を高める必要があるでしょう。

また、中国が潜水艦の増強に力を入れている背景には、米国の海洋支配力に対抗する意図があると考えられています。南シナ海や東シナ海での現状変更の試みに加え、台湾有事への備えとしても潜水艦の重要性は高まっているのです。

つまり、今回の事案は、水上艦艇のドローンに対する脆弱性と、潜水艦の重要性増大という、現代海戦をめぐる両側面を浮き彫りにしたと言えるでしょう。日本としては、この問題をきっかけに、さらに領海・排他的経済水域の防衛能力を再検討し、強化することが求められています。

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2024年5月9日木曜日

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身―【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

中国の「麻薬犯罪」を暴露した米下院報告書がヤバすぎる…!ついに明らかとなる「21世紀版アヘン戦争」の非道な中身

まとめ

  • ブリンケン米国務長官の中国訪問後、米中関係が悪化する新たな火種となるリスクが浮上した。
  • 米下院委員会が、中国政府がフェンタニル原料の製造に関与し米国のオピオイド危機を助長していると指摘する報告書を公表した。
  • フェンタニルは極めて危険な合成オピオイド系麻薬で、中国が原料供給源との疑惑が以前から持たれていた。
  • フェンタニル問題が2024年米大統領選の主要争点となり、共和党がバイデン政権の対中政策を追及する可能性がある。
  • 中国が意図的にフェンタニル問題で米国社会を不安定化させ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているのではないかとの憶測があり、米中関係が一気に悪化するリスクが高まった。
ブリンケン国務長官

 ブリンケン米国務長官が4月に中国を訪問したが、この訪問がむしろ米中関係に深刻な影を落とす新たな火種となる可能性が浮上した。訪問中、ブリンケン氏は対ロシア制裁を潜脱するロシアへの中国の輸出阻止と、米国の景気減速を招く"デフレ輸出"の自粛を中国側に強く求めた。一方の中国側は、習近平国家主席がブリンケン氏との会談で「米中はライバルではなくパートナーであるべき」と述べるなど、表面上は融和的な姿勢を示そうとした。

 しかし、ブリンケン氏が中国共産党公安部長の王小洪氏と会談し、麻薬取締における両国の法執行協力について言及したことで、思わぬ火種が散らばることになった。それは、米国が最近、フェンタニル問題で中国政府の関与を追及し始めたためだ。

 米連邦下院の中国共産党に関する特別委員会は4月16日、中国政府がフェンタニルの原料となる化学物資の製造に資金的援助を行い、米国のフェンタニル危機を助長していると指摘する報告書を公表した。フェンタニルはモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の強力な合成オピオイド系麻薬で、米国では2021年に7万人以上がこれによる過剰摂取で死亡している。

 中国政府の関与が明確に指摘されたのは初めてで、この問題が今年11月の米大統領選の主要争点となる可能性が出てきた。共和党は、これをバイデン政権の対中政策の失敗と見なし、さらに追及するだろう。一部からは、中国が意図的にフェンタニル問題で米社会を混乱に陥れ、新たな「アヘン戦争」を仕掛けているとの憶測も出ている。

 マリフアナ合法化で中国系マフィアが市場を牽制しているとの指摘もあり、FBIは中国政府がマフィアの不正資金を一帯一路事業に流用している可能性に注視している。こうした中で、フェンタニル問題が契機となり、両国関係が一気に悪化に向かう危険性が生じてきた。

【私の論評】非対称戦の可能性、日本も対岸の火事ではない

まとめ

  • オピオイド危機は、1990年代後半から始まり、医療機関の過剰な処方が原因。
  • 米政府の対策として適切な処方ガイドラインを提供し、治療プログラムを強化。
  • 中国がフェンタニルの輸出企業への支援が指摘されるも、対策不足。
  • 日本は、厳格な法規制と取り締まりにより対策がなされている。
  • 一方日本は、エネルギーや高齢化、サイバーセキュリティ、地政学的緊張等の脆弱性がありこれらへの警戒と対策の必要性。
オピオイド危機は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて始まりました。この危機は、医療機関がオピオイド系薬剤の処方を増やし始めたことがきっかけとなっています。医師たちは、オピオイド系薬剤が痛みの制御に効果的で依存性が低いと信じていたため、これらの薬剤を積極的に処方するようになりました。しかし、実際にはオピオイド系薬剤は非常に依存性が高く、処方された人々が薬物依存症に陥るケースが増加しました。

この危機のピークは2017年で、この年だけで64,000人以上のアメリカ人がオピオイドの過剰摂取によって命を落としました。2021年時点では、1日130人以上がオピオイドの過剰摂取によって命を落としています。

この危機に対処するために、米政府はさまざまな対策を行っています。例えば、医療従事者に対する適切な処方ガイドラインの提供や、オピオイド過剰摂取による死亡の防止のための薬の処方などです。また、薬物依存症の治療プログラムや薬物乱用防止教育プログラムを拡充するなど、広範な取り組みが行われています。しかし、オピオイド危機は未だに大きな社会問題であり、解決に向けて多くの努力が続けられています。

上の記事にもある報告書によると、中国政府はフェンタニルやその原料を輸出する企業に税金還付や補助金を与えているとされています。例えば、同委員会が入手した資料によると、2018年までに、税の還付制度により、少なくとも17種類の違法な麻薬の輸出を奨励しています。このほか、フェンタニルなど違法な合成麻薬を扱う企業に地方政府が補助金を出したり、表彰したりする例も挙げられています。

また報告書によると、中国政府機関が違法な合成麻薬の販売を行う企業の株式を所有し、事実上、国有企業となっているケースが複数ある。これらのうち世界最大規模のフェンタニル原料の輸出企業は、違法な麻薬販売を公然と行いながらも、「共産党幹部から繰り返し称賛された」といいます。

さらに、中国が「人類史上最も進んだ全体主義的監視国家」であり、違法な薬物製造や輸出を取り締まることができるにもかかわらず、それを怠ってきたと指摘。米国の法執行機関が捜査のため中国に正式な協力要請を行った際には、中国当局が中国企業側にそれを通知し、犯罪行為が露見しないようやり方を変えさせたとしました。

報告書によれば、中国政府はフェンタニルの輸出促進を米国に対する「非対称戦」(軍事力や戦略・戦術が大幅に異なる戦争)の一部と見なしているとされています。中国軍の戦略家たちが著書の中で、「麻薬戦争は他国に災難をもたらし、莫大(ばくだい)な利益をもたらす」として、有効な非対称戦の手段の一つに挙げているといいます。

その上で報告書は、フェンタニルの世界的なサプライチェーン(供給網)を標的にしたタスクフォースの創設や麻薬密売に関与する者に対する制裁強化を議会に提言しました。

バイデン大統領と習近平国家主席による昨年11月の米中首脳会談では、原料を製造する中国企業を取り締まることで合意されました。しかし、報告書によれば、中国政府によるフェンタニル輸出業者への支援は現在も続けられており、有効な対策は取られていないとみられる。

16日開かれた議会公聴会で証言したウィリアム・バー前司法長官は、「中国共産党は単なる傍観者ではない」と指摘。「彼らは米国内で流通するフェンタニルとその原料の生産と輸出を積極的に支援し、奨励し、促進している」と非難した。

また、同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党:当時)は「中国共産党の行動から、彼らがより多くのフェンタニルを米国に流入させたいと考えていることが分かる」と強調。その上で「彼らはフェンタニルの蔓延による混乱と荒廃を望んでいる。米国人の死者が増えてほしいと思っているのだ」と訴えました。

マイク・ギャラガー氏

中国における非対称戦に関する代表的な著書としては、以下のようなものがあります。
  • 孫子:『孫子兵法』(紀元前5世紀)
  • 毛沢東:『遊撃戦』(1937年)
  • 林彪:『遊撃戦戦争論』(1964年)
  • 劉華清:『現代戦争論』(1999年)
  • 喬良(ジョウ・チェン):『超限戦』(1999年)

『超限戦』の日本語訳版は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を予言していたと注目を集めました。

『超限戦』 の独創性は、従来の非対称戦の概念を拡張し、情報戦や経済戦などの新しい形態の戦争も含めた包括的な理論を構築したことにあります。しかし、中国における非対称戦に関する研究成果を無視して『超限戦』を評価することはできません。

『超限戦』から麻薬について記述に以下に掲載します。
  • 第2章「超限戦の理論」では、麻薬が「非対称性の高い兵器」として挙げられています。これは、麻薬は少量で大きな被害を与えることができ、国家間の戦争だけでなく、テロや犯罪にも利用される可能性が高いことを意味します。
  • 第4章「超限戦の戦略」では、麻薬の密輸や密売が超限戦の戦術として紹介されています。これは、麻薬の流通を操作することで、敵国の経済や社会に混乱を引き起こすことを目的としたものです。
  • 第5章「超限戦の事例」では、実際に麻薬が超限戦の手段として利用された事例がいくつか紹介されています。例えば、ベトナム戦争において、アメリカ軍は麻薬の密売を通じて北ベトナムの経済を弱体化させようとしたことが挙げられています。
これらの記述から、『超限戦』の著者であるジョウ・チェン氏は、麻薬が超限戦において重要な役割を果たす可能性を認識していたことがわかります。

ただし、『超限戦』はあくまで理論的な書籍であり、実際の麻薬密売や密輸に関する具体的な情報は含まれていません。しかし、中国共産党はこれを参考にしている可能性は否定できません。

米国ではフェンタニル等の中毒患者が蔓延、ゾンビと呼ばれでいる

トランプ政権はオピオイド危機への対策として、2017年に非常事態を宣言し予算を確保したほか、メキシコ国境での麻薬密輸取り締まり強化、中国への原料規制要求、製薬企業への法的措置、治療・予防への予算計上などを行いました。しかし、規制の権限が連邦と州で分散していたことや製薬業界のロビー活動の影響もあり、根本的な供給ルート遮断までは至らず、包括的な対策は不十分との評価が多く、課題がバイデン政権に引き継がれました。

一方バイデン政権のこれに対する危機対策については、大きな新規施策が見られず、中国への圧力も手薄であるとの指摘があります。一部ではオピオイド処方規制への批判もあり、十分な実績を残せていないと評価されています。バイデン政権は発足から既に一定期間が経過しているにもかかわらず、強力な対策が打ち出されていないことから、この問題への取り組みは不十分との見方が多数を占めています。今後、抜本的な供給ルート遮断など、より積極的な施策が求められているのが実情です。

日本は、厳格な法規制と徹底した対策により、フェンタニル乱用の深刻化を防いでいます。

麻薬取締法でフェンタニルを麻薬指定し、密輸や所持を厳しく取り締まることで、国内への流入を抑制しています。医療現場においても、フェンタニルの管理を徹底し、不正な流出を防ぐ体制を整備しています。

さらに、麻薬取締部や警視庁など関係機関が連携し、密輸組織への情報収集と捜査を強化することで、供給ルートの断絶を目指しています。加えて、厳しい勾留措置で再犯を防ぎ、抑止力としています。

これらの対策が一体となって、日本のフェンタニル乱用問題の抑制に効果的に貢献していると考えられます。日本の取り組みは、世界各国にとって参考となるモデルと言えるでしょう。

麻取の装備品

日本は薬物規制において高い実績を誇っていますが、エネルギー、高齢化社会、サイバーセキュリティ、地政学的緊張といった脆弱性も抱えています。これらの脆弱性は悪用される可能性があり、一部ですでに悪用されているといえます。

米国におけるオピオイド危機と同様に、日本も対象は異なるものの、弱点を突かれる可能性がありますし、薬物危機が広がらないとも言い切れない状況になっており、対岸の火事ではなく、他山の石として教訓を学び、更なる対策を講じる必要があります。

具体的には、憲法改正、軍事力強化、エネルギー・ドミナンスの確立、まともな金融財政政策の実施、サイバー攻撃への対策強化、情報操作への警戒、国際的な協力体制の構築などが重要です。

日本は強みを生かしながら、これらの課題に取り組むことで、より安全で安心できる社会を実現していくべきです。

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