2015年11月4日水曜日

【異形の中国】中国に離反し始めたアジアの国々 米国イラ立つ軍拡路線も経済失速で陰り ―【私の論評】南シナ海で本当に危ないのは、中国人民解放軍の身の程知らずの青年将校?


中国が埋め立てを強行する南シナ海・ミスチーフ(中国名・美済)

中国の軍事的脅威は日増しに強くなった。

ついに米国は10月27日から、南シナ海・スプラトリー(南沙)諸島のスービ(渚碧)礁や、ミスチーフ(美済)礁周辺に、イージス駆逐艦「ラッセン」を航行させ、示威行動に出た。中国が「領土」と強弁する人工島の12カイリ(約22キロ)以内を、120キロにわたって監視・哨戒し、韓国を除くアジア諸国は米国を支持した。

すでに半年前に、ペンタゴン(米国防総省)は「準備はできている」と、オバマ大統領に報告し、命令を待っていたのである。

「今後も何度も激しく哨戒は続くだろう。フィリピンや、ベトナム、オーストラリアが加わった共同作戦も考えられる」と消息筋はいう。

南シナ海には、300億トンの石油と、16兆立方メートルの天然ガスが埋蔵されていると推計される。資源奪取のために中国が7つのサンゴ礁を埋め立てて、ベトナムやフィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシアと小競り合いを続けてきた。

他方で中国は「一帯一路」を掲げて、「海のシルクロード」構想を打ち上げているが、協力を約束してきた国々が離反し始めた。

まず、ミャンマーは「反中国」に転び、スリランカは中国が建設していた人工島プロジェクトを見直すことにした。中国の構想に大きな誤算が生じた。9月3日の「抗日戦争勝利70周年」記念の軍事パレードに、両国は代表を派遣しなかった。

だが、中国はそんなことではひるまない。

中国は南インド洋にあって、インドを南西から地政学的に脅かすモルディブ群島に濃密に接近した。これはインドを刺激する。ついで中国は国際的な海賊退治で協力行動の拠点であり、独裁国家であるジブチに目を付けた。

米軍はジブチの空港と港湾を借り受け、巨大な軍事基地(=レモニエ空軍基地とオボック海軍基地)を設営しているが、米国務省はゲレ大統領の独裁を強く批判している。このため、ジブチは中国にも軍事基地建設を持ちかけた。渡りに船の中国は「海のシルクロード」構想の一環として、ジブチを活用する方向にある。

さらに中国は、ケニアやタンザニア、マダガスカル、セーシェル、モザンビーク、ジンバブエから、アフリカ大陸の最南端・喜望峰をまたぎ、南西アフリカのナミビア、アンゴラへまで伸ばす壮大な戦略に傾いている。

米国のイラ立ちは尋常ではない。

しかし、上海株暴落を契機とした経済失速によって、中国のこれまでの軍拡路線は維持が難しくなったのも事実である。

■宮崎正弘(みやざき・まさひろ) 評論家、ジャーナリスト。1946年、金沢市生まれ。早大中退。「日本学生新聞」編集長、貿易会社社長を経て、論壇へ。中国ウォッチャーの第一人者として健筆を振るう。著書・共著に『私たちの予測した通り、いよいよ自壊する中国!』(ワック)、『「中国の終わり」にいよいよ備え始めた世界』(徳間書店)など多数。

【私の論評】南シナ海で本当に危ないのは、中国人民解放軍の身の程知らずの青年将校?

中国の人民解放軍は、現在までのところ、米軍には全く太刀打ちできません。中国の現在の軍事力では、尖閣付近の海洋や空域では、自衛隊にも勝てない水準です。無論、これにはある条件が必要です。その条件とは、日本の自衛隊がこれらの海洋や、空域で自由に行動できるという条件です。

いまの自衛隊は、軍隊のようであって、軍隊ではなく軍隊もどきです。だから、尖閣付近で、実際に戦闘が起こったときに、他国の軍隊のようにネガテイブ・リスト(やってはいけないことをリスト化し、それ以外は勝つためには何をやっても良いという方式)で自由に動くことができれば、日本の自衛隊は、この領域で人民解放軍に負けることはありません。

ただし、現在の自衛隊は、ポジティプ・リスト(やっていいことをリスト化し、たとえ勝つためであつても、それ以外のことはしてはいけないという方式)で手足を縛られた状態では、有事の際には自由に動けず、これが相手に隙を与えて、負けるということも考えられます。

とはいいながら、日本の自衛隊が自由に行動できるものとすれば、現在の中国の人民解放軍の実力では、軍事技術的にも、士気の面でもとても、自衛隊の敵ではありません。それは、ほかならぬ中国の人民解放軍の幹部は全員が承知していることです。

だからこそ、中国側も、軍艦ではなく、漁船や公船など、ほんんど武装していない船で、日本の領海の侵犯をしているのです。もし、武装艦を派遣すると、日本の海上自衛隊と衝突して、大規模な衝突になってしまえば、とても勝ち目がなく、後退することを余儀なくされることは最初からわかっているのです。

日本の自衛隊に対しても、このような有様ですから、南シナ海でたとえ米軍がイージス艦を派遣しても、彼らには全く歯がたちません。中国にもイージス艦もどきがありまずか、米国のイージス艦とは、武装、電子機器、巡航速度の点で全くかないません。それこそ、このブログにもたびたび過去に掲載してきたように、人民解放軍が米軍に挑めばほとんど自殺行為になります。

そのことは、人民解放軍の上層部や、中国共産党政府の幹部は十分に熟知していると思います。だから、米国のイージス艦を派遣して南シナ海をパトロールしても、滅多なことでは、人民解放軍はこれに手を出すということはしない、というより、できないでしょう。だから、日本に対しても、まずは本格的に戦闘を挑むということはないとは思います。

とは、言いながら、懸念事項があります。それは何かといえば、人民解放軍の青年将校たちです。彼らは、江沢民時代以降の苛烈な反日教育を受けて育った世代です。

現在の苛烈で体系的、組織的な反日教育は江沢民がはじめた

中国の若手将校の動向が話題になることは少ない。しかし、昨年アメリカ企業にハッカー攻撃を仕掛けたとして、米司法省が、中国人民解放軍の若手将校「5人」を産業スパイの罪で起訴したことが発表されました。

米司法省のホルダー長官は、「中国人民解放軍の将校5人が、5つのアメリカ企業と労働組合にサイバー攻撃を仕掛け、機密情報を盗んだ。司法省は彼らをサイバー攻撃の疑いで起訴した。このハッカー攻撃は、アメリカ企業を犠牲にして、中国の国営企業など、中国に利益をもたらすために行われたものだ」と発表しました。
アメリカの企業と労働組合にサイバー攻撃を仕掛けた5人の青年将校
しかし、中国の外交部は例によって「中国は、アメリカによるサイバー攻撃の被害者である。これは捏造だ。中国は、アメリカに関連事実を説明し、行動を停止するよう求める」と反発しました。何を指摘されようと、絶対に非は認めず、反対に「相手に罪をなすりつける」のが中国の常套手段です。

彼ら青年将校は、肥大化する人民解放軍の中でもエリート集団であり、同時に「怖いもの知らず」です。文革や極貧時代の中国を知らず、大国となって傍若無人の振る舞いをする中国しか知りません。

どの国でも青年将校は怖いものです。血気盛んな若手のエリート将校は、時として歯止めがきかなくなる場合があります。理想論を闘わせ、やがてそこに向かって突き進もうとする者が出てきます。

今、中国は「日本が世界の戦後秩序を破壊しようとしている」と、世界中でキャンペーンを張っています。日本による「戦後秩序への挑戦」が、彼らのキャッチフレーズです。彼らには、日本が本当に“悪”にしか見えず、それは“憎悪の対象”でしかありません。視野の狭い青年将校がどんな考えを持っているかは、容易に想像がつきます。

もともと中国国内のツイッターでは「敗戦国が何を言うか」「いっそ原爆を日本に落とせ」と、盛んにやり取りされています。日中国交回復以後、3兆円ものODAを中国につぎ込み、さらには民間レベルでの「技術協力」によって、ひたすら中国のインフラ整備に力を注いだ日本。しかし、そのことを全く知らない青年将校たちの「時代」が中国に訪れていることを忘れるべぎではありません。

青年将校らの受けた苛烈な反日教育には、史実にそぐわない一方的な“日本悪者論”に基づくものが数多いです。それを真に受けた世代が、現在中国の人民解放軍の現場で中核的存在になっているのです。

自分たちの論理で、より過激な道を歩もうとする青年将校たちほど怖いものはありません。「“小日本”に核ミサイルをぶち込め」という意見がネットで氾濫する中国で、徹底した反日教育を受けた人民解放軍の青年将校たちは、今後、軍をどう導いていくのでしょうか。

日本の防空識別圏に大きく踏み込む形で中国が昨年一昨年11月に一方的に設定した空域で、中国機は、日本の海上自衛隊機と航空自衛隊機に対して、それぞれ、およそ50メートル、30メートルまで「並走するように近づいてきた」という出来事がありました。

言うまでもないですが、30メートルから50メートルまで近づけば、パイロットはお互いの顔がはっきりと見えます。つまり、相手の表情を見た上で、「おい、やるか? やるならやってみろ」と、事実上、“喧嘩を売ってきた”ことになります。

中国初の女性戦闘機パイロット
幸いに自衛隊機はそんな挑発には乗りませんでした。日本の防空識別圏に重なる形で中国は一方的に新たな防空識別圏を設定したのですから、中国にとってそこはあくまで「自国の空域」なのです。要するに彼らには、「日本が中国の防空識別圏に侵入してきた」という論理になります。

中国は、勝手に「領空・領海設定」をして、勝手に自国の領空(領海)だと「主張」し、そして相手には「有無を言わせない」。現在の中国が建国されて以来、周辺国(周辺地域)と紛争を繰り返し、国内でも粛清と弾圧ですべてを支配し、さらにはここ10年で4倍に国防予算を膨張させた中国の面目躍如というところかもしれません。「政権は銃口から生まれる」という毛沢東の言葉通りの国家方針は、今でも変わりません。

これらの領空で、操縦桿を握っているのは、彼らエリート意識に溢れた青年将校たちであす。何百回、何千回とつづいていく「スクランブル(緊急発進)」の中で、「いつ」「いかなる」不測の事態が勃発する可能性は十分にあります。

そうして、これは今回の米軍の南シナ海での示威行動に対しても、あてはまります。彼ら青年将校の論理からすれば、米軍のイージス艦は、中国の領海を侵犯している憎むべき相手以外の何ものでもありません。

日本の自衛隊を訪問した中国人民解放軍青年将校ら(左)
さらに、始末に悪いことに、中国ではここ数年最新鋭の戦闘機や艦艇、潜水艦、兵器などを導入しています。情報統制されて、世界を知らない中国の青年将校らは、ほとんどが一人っ子であり、子どもの頃は小皇帝などとも呼ばれ、自己主張の激しい性格の持ち主です。そうして、彼らは人民解放軍の世界での位置づけを知りません。自衛隊はおろか、米軍と同水準かそれ以上と思い込んでいる者も多いです。

彼らが、現場でいつ戦闘に挑みだすか、保証の限りではありません。彼らにとっては、現代の先進国の軍事技術からすれば、数十年遅れた軍事技術でつくられた、空母や、戦闘機、艦艇、潜水艦でも最新鋭のものです。彼らから、すれば、それら最新鋭の軍事力を用いて、自分たちが挑めば、できないことはないと考えるに違いありません。

このような中国の青年将校の思い上がりを是正するには、南シナ海で最初に中規模程度の衝突があったほうが、良いのかもしれません。そうなると、人民解放軍はなすすべもなく、海の藻屑と消えるでしょう。それが、人民解放軍の内部で語り継がれるようになれば、彼らも妄想から覚めることでしょう。
このような、世界情勢が目の前にもあるにもかかわらず、平和ボケした日本人の多くは、憲法解釈の変更による、集団的自衛権の限定的行使を目途とする安保法案を「戦争法案」とレッテル貼りして、違憲などとして、反対する有様です。

しかし、平和ボケしたわれわれ日本人も、不測の事態への「覚悟」だけは持っておくべき時代が来たことだけは間違いありません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか。

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